第6話 ヒーロー&ヒロイン&ダンジョン
『────ですのでポケット災害は現在は15年前と比べて発生件数は著しく少なくなっております。ええこれは亜滅利牙帝国のWASA宇宙開発局を主軸としはじめとした各国の全面的な亜空間入口の徹底した封鎖活動の成果ですね。綻びが広がる前に修繕していかないとどんな衣服も着て生活していくうちに穴が広がっていくでしょう? 単純にそれと同じことなのです。ですので人類が未知の事象に対し迅速な対策を打つことに成功しポケットが発生する以前のイチ地球世界での普遍的平和的な生活を我々は取り戻しつつあるのです。すなわち我々地球人の積み上げた叡智科学力の結晶の勝利とも言えるでしょう。みなさんがポケット災害警報をニュースで完全に見なくなる日も近いでしょうね。もちろん方針転換前までの被害者遺族への補償────』
テレビで見たことのある識者の男が言う。
自室のベッドに腰掛けながらその映像を見ていた青年は、普段はスルーしていた話に聞き入り前のめりだった身体を戻し、そのまま両手を後頭部に組み寝転んだ。
「たまに聞くポケット災害……身近だからポケット……? それが亜空間つまりダンジョンのことなんだよね? やっぱりダンジョンなんて言葉すら俺の生まれた時代じゃなるべく出てこなくなってるよなぁ。なんかダンジョンって言われるとそのぉ…挑みたくなるからかな……俺はなんとなく知っていたけど、やっぱりもう一回ネットで調べればそう呼ばれていたのはたしかみたいなんだけど? うーん……」
『海都~、緑蜜みたらし焼けたわよー、あつあつよぉ』
「は、ハぁーーイ」
雷夏、楽天海都、牛頭梢はあの後無事腹を満たし第イチ体育倉庫へと帰還した。
長いダンジョン部の部活動も終わり、その翌日も緑蜜高校は通常どおりに授業がはじまっていた。
黒髪セミロングにメガネ、瞳は青い地球色。
今まで告白された人数はあわせて17人。
好きなゲームはテトラマーズ、好きな音楽は宇都宮テカル、好きな猫は帰り道の野良猫。
月山雨楽楽はいたって普通の栃木女子である。
(大学は東京のどこかに進学予定、ひとり暮らしするのもお父さんお母さんもいいって、高校は地元の公立校に通っている。緑蜜は授業内容もそこそこ質が良く担任の先生もしっかりしている。少々田舎なのが難点だけど時間通りなら宇都宮からバスで悠々と通えるからむしろ楽。それほどこの学校の環境に不満なんてないけど、強いて言えば────)
(隣席の男子がちょっとおかしいのと、この週に2度あるらしき読書のじかんがおかしい)
配られたコピー紙の“聖タクティクスグリフォン伝説第2話”を読む。
彼女の隣席の男子は口角をわずかに上げながら熟読しているようだ。
自分がおかしいのか、隣がおかしいのか確かめるべく月山雨楽楽は楽天海都にこっそりと小声で話しかけた。
「ねぇねぇ…」
「──え? はい?」
「それって変じゃない? グリフォンなんたら」
「ヘン? あ、聖タクのことっすか? んー? そうかなぁ?」
「どこがおもしろいのこれって? 読んでも意味不明なんだけど(なんでもう略してんのセイタク…グリフォンどこ……)」
「え、いやぁ。ふつうにファンタジーしてて1話も2話もたのしいっすね。なかでもこのシデン・レイラってキャラが主人公たちグリフォン部隊のお助けで出てくるんですけど毎回かっこよくて謎めいてて強いんだけど陰があってなんか意味ありげな事言って去っていくしかも主人公の作戦指揮を執る上官を暗殺したり国宝を盗んだりある時は敵になって通せんぼしたりもするしそれがおもしろいっ! ……すね!」
「まさにそれが意味分からないんだけど……」
「あははまぁ人によっちゃ目的の謎が多すぎてしかも一切語られないんでつまらないっすよね。主人公は本当はこのシデン・レイラじゃないかなって思うけど……まぁ人を選ぶやつだとおもいます」
「ふぅん……私がつまらないからつまらないっていうんだ?」
「ええ!? いやいやそうじゃなくて」
〝キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン……〟
気付けばチャイムが鳴る。最悪のタイミングでだ。
真顔でにらんだ隣女子はそれ以上何も言わずに正面を向き机の上を片付けた。以降、彼の話したげな視線を感じても目を合わせなかった。
楽天海都はばつが悪く固まり……彼女に伸ばそうとした手はやり場無く自分のうなじを掻いた。
時は放課後。
またあの場所にやってきていた。
今日は雷夏先生は野暮用ということで、1人で部室チップのチェックをするというのが言い渡された主な活動内容といったところであった。
チェックといってもほぼヤドカリモンスターのヤドコンちゃんと青い鳥への餌やりのことである。
ちなみに牛頭梢もミドリ農業高校の地元民協力現地での畜産科コースの実習をサボるわけにもいかず今日は来れない。
つまり今日の緑蜜ダンジョン部は奇しくも彼ひとりである。
「俺が先生みたいにダンジョンにひとりで挑めるわけもないし……というか挑まないし……あ、聖タクの読書感想文出すの忘れてた!」
聖タクは昼までに1年D組の担任に提出しなければならない掟がある。
隣女子に勘違いされたまま不穏なまま……結局それ以上の会話が打ち切られたのが割とショックであり、楽天海都はいつものそれを提出するのを忘れていたのだ。
急ぎ第イチ体育倉庫に荷を置き、びっしりと感想を書き連ねたプリント片手に職員室まで走っていった。
男子生徒が入っていくのが見えた。
そこだけ鬱蒼とした古めかしい場所がある。
そこにある青扉のちいさな倉庫の中にたしかに入っていって彼はまた走り校舎の方に消えた。
気になった彼女は茂みに隠れた際のブレザーについた葉っぱを払い、中途半端に開いた青扉の中へと不思議と誘われていった。
▼
▽
「たしかに受け取りました、よろしいです。今度は遅れないようにたのみます楽天海都生徒。あなたは一度入学式始業式をすっぽかした不名誉で不慣れな実績があるのでことさら業務ノートのとおりに行動していき無駄な行動を控え模範的な学校生活を送れるように努めるべきです、わかりましたね?」
「は、っはい!」
どうやらまだ寛大にも怒る様子無く受け付けていたらしく、職員室にいたD組担任の岬麗先生に彼の書いた聖タク第2話の読書感想文は届けられた。
▼
▽
薄気味の悪い空の下、それとはチグハグな雰囲気の青い野を歩いていたら見つけた青い渦巻があった。
一度気になってしまえば案外むず痒い……意を決したまっさらなローファーがそれに乗ってみたところ────────
またマブシイ光に誘われた────相変わらず薄気味の悪い空と今度はより殺風景な土肌が広がっている。
「なにここ……さっきのからっぽのつづき? なんであの倉庫からこんなのがあるの?」
月山雨楽楽は分からない。
ここは静かすぎて、静かなのは同じはずなのに何故がかさっきより──怖い。
これ以上のいらぬ興味から不気味なモノを引き続けても嫌なので、彼女はとりあえず今来た道を戻ろうと考えた。
が、探せど探せどさっきの地に面した渦巻は見つからず。
帰り道はどこに……。
眉をひそめていく……。
彼女の中に焦りと不安が募りはじめたところに、急に『わにゃはりゃ……』と表現しがたい聞いたこともない不快音が聞こえた。
生理的にゾワっとする声、ちかづく不気味に……振り返る。
「は、は??? えなにこのネズミ。……きもっ」
「ふぅん、近付いて? それで? ……は??」
月山雨楽楽は、関節をぐにゃぐにゃ珍妙にくねらせ歩む灰色の鼠人形とエンカウントしてしまった。
時同じく、用事を済ませて戻ってきた楽天海都は倉庫の跳び箱から部室チップの中へと入り。
広々とした青と濁ったシャボンの天に深呼吸……。
雷夏先生から預かった餌用のいらない武器チップの袋を片手に、まずはと、例の生き物を探し始めた。
するとさっそく青い鳥がどこからか羽ばたきやってきたので、相変わらずの人間に対するクールな間合いに苦笑いしつつも武器チップをひょいと投げて与えてみたが、
何故か餌には見向きも突っつこうともしない。
思ったリアクションと違った海都は首を傾げて不思議がり、
「あれ? なんで? あそうか! きのうのヤドカリ夏ちゃん焼きそばで満腹だったり? それともはじめて餌やる俺になついてなかったりぃ……しますよね……あははは、あ? ん?」
その鳥がじっと見ている方向には、
ダンジョンでは見慣れない……女子が提げるようなこげ茶色のスクールバッグがあった。
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▽
(ダンジョンの仕組みなんてわからない)
(ランダム迷宮だときいた気がする、それもほんとか、彼女がいるのかもわからない)
(だけど、今日は自分ひとりのはずであり何かあってからでは遅い。あの青い鳥はモノを言わないけど……何故かそうせずにはいられなかった。先生ぐらいに強くないと上手くやらないと後戻りはできない……知っている……それはとてつもなくこわい)
(まずい、尻餅ついてたおれている。膜も……! あのままじゃシールドブレイク……! 回復ッ、攻撃ッ、どっちだ? やばい!!!)
「これぇ夢? ……はぁ?」
「痛さが増してんだけど……ちょっとおおお!!!」
「やばっ……来ない」
「【熱熱クレープグレープ弾】」
銃口から発射された赤いブドウ弾丸が途中展開、赤い膜が彼女に極限まで迫っていた鼠の集を包み蒸し焼きにし、滅。
2、3の鼠は横殴りにまとめ包まれ屠られ、驚く彼女の耳に若い雄たけびが上がった。
「うおおおおおお!!!」
とにかく乱射。双銃の引き鉄を引きまくり青と赤の弾丸が倒れる弱者に集る鼠を次々に撃ち抜いていく。
しかしまだ尻餅つき竦む彼女を、狂気を増した鼠はついに四足で走り襲う。
「【策咲クレープグレープ弾】……あっちもこっちも鼠にはトラップ! なんでしょ!」
白い槍が自動で貫くのは敵意、味方を守る聖域のクレープ&トラップ。
感知し隆起した白槍に顔面、尻、胴体、前歯を抉られたネズミ突撃部隊は三角片と化し滅。
当たり前のように敵を滅し、戦闘の様相はさらに過熱する。
中距離から放たれた敵からの三発……灰色のオーラを纏う【鼠弾】は、汚らしい爆炎明けて────ひび割れるシールドを強化補修。
銃口は自分の頭に向けて、だがイカれてはいない、
聖なるミドリに彼は光る。
「……え? なんなのかっこいい……んだけど……」
1年D組クラスメイトで隣席の女子、月山雨楽楽の絶体絶命のピンチに男楽天海都は目の前に身を挺し立つ。
同じ緑ブレザーは緑蜜高校の男子である。
見覚えのないたくましく勇ましい背姿に、最高潮のドキドキのシチュエーションに、雨楽楽の心臓の鼓動は人生未体験のその高鳴りを止めるスベをしらない。
ここはダンジョン、高校1年男女は出会い物語は始まっていく。
ヒーローは颯爽と現れた。
やがて振り向きふたりは目を合わせる、
ここから始まるのはヒロインとの…………
「【熱熱クレープグレープ弾】あたれっ!」
「【テクニカルスピン】はああああああ!!!」
弾丸は鼠を包み焼き余計な敵を除去、ヒロインをバッチリ援護射撃。
叫ぶヒロイン、次々とショートソードで力任せに斬りつけた鼠にはDスキルチップ【テクニカルスピン】を発動。凸字のオーラブロックを胴体に負わされ回転して滑っていく鼠は眩暈。
頭をくらませうごきの止まったターゲットのその隙は逃さない、双銃を構えるヒーローに次々と撃ち抜かれた。
マルチプレイでお邪魔モンスターの灰色鼠を排除。
またひとつスコアを上げ順調に攻略中、ひと段落を終えた2人は戦闘行為で高ぶったテンションを各々落ち着けながらふたたび向き合った。
剣を勢いよく地面に刺しホールド、溜息。
メガネを少し外しごしごしと右手でまぶたをこする。そしてまたフレームを耳にひっかけて、レンズに映る苦笑いでおとなしく待つ制服男子をむっと睨んだ。
「ちょっとなんで私がたたかってんの……? はぁ? (しかもなんで私がまえ?)」
「いやえっと……すみません! なんか先生が言うには誰でもそれぞれオーラってやつがあるらしいんで……(おれ回復系生徒らしい……んで……)」
「はぁ(出てきたときはかっこいいと思ってたのになんでこうなってるの)さいあく」
「え? いや……」
「はぁ……じゃあさっさと回復して隣席の楽天くん(けっこうくらったみたいなんだけどなんかひび割れてるの気になるし)ほんと意味不明ここ」
「えっと、はい……あぁっと?」
「さっきからなんなの?」
「いやちょっとさっきので張り切りすぎたというか……」
「はぁ?」
▼
▽
楽天海都は同クラスメイト月山雨楽楽につまびらかに説明していった。
雷夏先生から拝借しているDウォッチで計る現在の状況は、
■残DSシールド値
月山雨楽楽 42%
楽天海都 78%
そして月山のピンチを助けるために配分後先考えずはしゃぎすぎたため回復スキルを使う余裕があまりないと海都は言うのだ。それはいわばまだ引き返せないダンジョン途中で、回復役の残MPがこの先進むにはたよりなくパーティーのHPも微妙に心もとない……そんな地味にハードな状況である。
状況が状況、そんな状況……ならば背に腹は代えられない。というよりは今ふたりでできる限りの手を尽くす。
「はぁ……ほんといっいみふめい……」
「ああぁ……すみまひゃへんっ」
「ちょっと変な声出さないで」
「すみ──ひゃッ!!!」
「ちょちょっと! ボケッとしてないでどうなってんの楽天くん回復したんでしょ? 今いくら! 80ぐらい?」
「────は! え、えっと! …………────よよ、よんじゅう……よんぱー」
「はぁ???」
「44%……っすね」
「たったたたたたたったニパー??? はぁ? はぁあ?? なんなのそのしょぼい回復量……ふざけっ! ってそれでフツウにこっちみないで!!!」
「ええ!? あっ……ハイーーーーー!!!」
奇しくもダンジョンから帰るための目的を共有する、攻略道中真っ只中。
1年D組クラスメイトパーティーの2人は、お互い出来得る範囲での効率のいいDSシールド値の回復補給行為を模索し努めていった。
ここはお互い踏み入ったばかりの未知のポケット災害内部、ダンジョン。
できるだけ易く回復できる手段は選ぶが、状況は四の五の選んでられない。
男女ビギナー同士ここから先はよりマルチプレイで協力し合い、“さいあく”の事態を回避するため備えていく。
■残DSシールド値
月山雨楽楽 67%
楽天海都 85%
■残DSシールド値
月山雨楽楽 100%
楽天海都 92%
1年D組同級生パーティーは少しこなれてきた補給行為で、しっかりほぼ100までダンジョンでの命綱であるDSシールド値を万全に回復していった。
もろもろを清め準備の整った2人は再びステージを探索していき、さっそくエンカウント。
鼠の群れに向けて頷き合いマルチプレイを開始した。
「【熱熱クレープグレープ弾】うおおおおお【熱熱クレープグレープ弾】うおおおおお!」
「【テクニカルスピン】はあああああ【Sショット】!!!」
探索しては鼠を滅していき次のステージへの切符チップを手に入れ共にまた向かう。その繰り返し。そして何か……戦闘を重ねているうちに剣や銃を駆使し比較的前衛として敵を倒しながらも、彼女は気付く。
気付いてからひとつだけ……この2人だけのパーティー間の取り決め事として月山雨楽楽は楽天海都に緊急時以外攻撃系のスキルを使うことを禁じた。
どう考えても回復スキルの方が明らかに優先順位が高いからである。
戦闘で熱くなり無計画にオーラを消費している彼の手綱をしっかりと冷静に握り、この先を攻略していくできるだけの算段をつける。
意外に熱くなりやすい海都はただただ了承し、無駄な背伸びはせず彼女の援護と回復に専念を。
景色は少し変われど相変わらずのこのシャボンの天、されど変われる強さで若者たちは手ごろな強さの鼠退治を繰り返していき────
その最中、武器チップを手に入れては消費していく過程でいつもと違うガンが出てきた。
拡散するビームを放つ普通のものより強力でかなり珍しい形をしたハンドガンだ。
その分類はハンドガンというよりはもはやほぼ装着する白い盾であり、片腕で構えもう片方の手でグーで握って弓のように力を入れ引く必要のあるなんともまぁ御大層な重いトリガーがある。
素晴らしい威力で鼠を垂れ流すビームに串刺していった武器を見ながら戦闘終わりの彼女は海都の方へとはしゃいだ様子だ歩み寄っていった。
「は、なにそれなにそれ!! ちょっとおお強くない??(盾からさっきのやばいビーム? てか当たりそうだったんだけど私)」
「ナンダコレ……??(いや当てるつもりは……ごめんっっ!) さぁ…鑑定したらハンドガンだったはずだけど…やっぱ盾っだよね? これ?? あ、そういやなんか当たりが極たまにあるって前に先生も言ってて……。それだったみたいっすね! うおおラッキーかもこれ月山さん!!」
「ラッキーなのはめっちゃ助かるしいいんだけど、さっきから先生ってだれ? D組の岬先生のこと?」
「あっ、えっとちがくて雷夏先生っすね。あのなんというか青髪で赤目のその」
「あー……アレかあれねぇ……入学式で校門の前に突っ立ってたやけに目立つジャージのね。なぁんかちょっとおかしいよねあの先生(ん?入学式楽天くんいたっけ?)」
「えっとまぁはは……俺の知ってる限りではほぼ…元気でおかしいっすね(すんません俺その人に連れられてダンジョンにいました…)」
「「はははははあははは」」
「なにそれぇウケるじゃん入学式にダンジョンってあはは。ってちょっとおおおおおお元凶その人じゃん! その人がポケット災害……じゃなくてダンジョン隠してたんでしょおおお!」
「え!? あ、ハイ? そういえば……そっすね?」
「「……あははははは」」
「まじさいあくなんだけど……その先生今どこ? あ、スマホ!」
「今日は野暮用らしくて……それに先生がいうにはスマホはダンジョンじゃ連絡通じないって言ってましたね……あ、試します?(俺もやったことないんで……)」
「だはぁぁ……試すけどタメすけどッいったんちょっと休ませて……ちょっと無理、水ちょぉだい……」
「水……ないっすね……(なんも考えず急いでたんですんません……)先生のその辺のリュックでも持ってくればよかったかもしれない…」
「たはぁぁ……わかったもういいから一旦座ってやすもっ?」
「えぇっと、ハイ」
明かされていく彼が知っていて彼女が知らない緑蜜高等学校、ダンジョンの秘密に何度も彼女は溜息のレベルを上げていった。
月山は出したこともない音色の溜息を出し疲れ、一旦座り休むことを提案し海都は返事をし苦笑いを浮かべた。
こんな目に合っている元凶はあの印象的で月山雨楽楽も覚えていた青髪赤目の雷夏先生である。
そう嘆きつつも自分にも迂闊な好奇心で見知らぬ夢の地を突き進んで……からのポケット災害に巻き込まれているとも知らない能天気で無知だった分の責任がある……。
何故か少し熱く感じたおでこを抑えながら、月山雨楽楽はまたいくら吐いても果ての無い溜息と共にしゃがみ沈んでいった。