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第4話 もっと強く…ダンジョンセカイ

「【婆沌永遠水車(バトントワリング)】」


グルグルと一瞬にてカゼを切り速まる──。

やがて宙に描いた円は水色の雷電を帯び、手元で鮮やかに長物を回転させたまま、敵の最終防衛ラインへと突っ込む。

威勢のいい槍技が鼠たちを轢き殺していく。

雷夏ちゃん先生が雷車輪をせっせと回し、豪快に作り出した道に生徒たちを導く。


「よしっ新入部員盛大にやれ! たらふくなっ! 遠慮したらビンタっだぞぉ!」

「はハイッ!!! うおおおおおおおお」

「叫んでんじゃん。うおぉ」


味方に当てない、ただそれだけ取り決められた陣を組み激しく銃撃砲撃していく。

緑蜜高校ダンジョン部のチップ惜しみの無い総攻撃にイエローラット生産システムは壊滅。

壊れたベルトコンベアに乗った黄鼠人形は怨念の乗り移ることのないただの可愛らしい出荷停止になった人形と化した。


「よーーーーし撃ち方やめやめぇ!!! こらっ工場はスタボロに制圧これ以上は鼠に逆恨みされるぞ♡」

「え! あっ! 終わってた……ふぅ」

「おぉ。おなじく脳汁でぶっとんでた……でぇすふぅ」


よく通る大声で撃ち方をやめさせる……モクモくと白く上がる煙に、熱と気合いの入っていたビギナー2人は徐々に冷静になる。


「ふふ若いなぁーー! だがさすが若者うむそうでなくてはなッ、見てみろこれが緑蜜高校ダンジョン部の青春だ!」


壊れた、トリガーを引きまくり壊した成果を三人で並び眺める。

二丁持った銃を下げて緊張感を解き脱力する男子、女子が重く置いた煙を天にあげるバズーカ筒、コンコンっと地をリズム打ち〆た先生の槍の石突。

黄ネズミ工場を制圧、ダンジョン部はこの四角いエリアの勝利を手にした。







今日は唐揚げ。ドデカ唐揚げ。


「ほんじつの部活ディナーは餃子の猛将伝のドデカ唐揚げ弁当だ! 遠慮せず食えっドデカ夏っちゃんだからな! イロイロと!」


胸をうち、自信あり気に目を閉じて少し上向く。青いジャージの内に潜むイロイロとドデカいものが自信ありげに揺れた。


少し早い夕食になったが……既にあまり使ったことのない慣れていないチカラを発揮し、腹ペコに近い生徒たちは喜んでソレをいただくことになった。ニラ醤油酢ショウガのタレがかかっているのがうれしい大きすぎる唐揚げにかぶり付き、白飯をかきこむ。


慣れたら可愛い黄鼠人形に見守られている工場内での食事行為。

大きい2枚のチキンカツのような唐揚げの40パーセント程を攻略した海都は、一緒にミドリのマットの上で囲み食事をしていた先生に少し気になっている点を問いかけた。


「せんせぇあの……アレぇ? おもったんですけど出てきませんねデカい赤帽の工場長……」


生徒は怪談でもするかのような不安気な顔で、口元に米粒をのせた可愛らしい夏ちゃん先生と目が合う。


「ん? あー、今日はアイツ休みだったんだろう」

「ええ? モンスターに休日が!?」

「どうぶつだって寝て休む、でぇす。きっとモンスターもじゃないらくてんかいと。あながちぃ」

「ということだ」


という事を納得できていなさそうな男子生徒は先生に割り箸でかるく顔を指された。


「という……はぁ……ますます俺ダンジョンが分かりません……なんでこんなにチグハグな」

「なぁにあまり意味を考えるなただのランダム迷宮だははははダンジョン初心者で童貞のくせにもう玄人彼氏面かこのこのぉー♡」

「玄人DTこのこのぉー」


突然のこのこの攻勢。食事中に行儀の悪い青ジャージの脚が伸び、からかいおちょくるように男子生徒の腿膝にふれる。

何故か合わせてダルメシアンの足にもやられている。


「え、ちょ!? か、かれ? どうっD!?」


和気あいあいとした雰囲気の工場エリアでドデカ唐揚げ弁当を完食、ボリューム満点のそれを残さず雷夏先生の早食いを見習いみな完食。

牛柄ツナギの腹がぽんぽんと腹太鼓を打ち、次の行動へと移っていく。







工場内に散らばるチップの戦利品は回収し終えた、Dウォッチで識別し種類分けも終えた。次への出立までに未だやり残した事といえば────────


「やはりダンジョンでの補給は大事だ、セイシに関る! ふふ先ずは先生がチュートリアルを」

「ちょちょマってセンセイ! 回復スキルがっ巻くま」

「そんな訳のわからんワザよりこっちの方がDオーラ量を無駄に消費しないアタマの熱量もあがらん♡ 却下だ♡」


どうしてか先生のパワープレイによりミドリのマットの上に男子生徒は手早く押し倒される。

そして、その両手、魔の手が彼の視界に青く帯電し迫った……。







最後の光景は寝ころび見上げる天の上下から、ニヤリとした赤い瞳と、半開きに細めてとろんとした灰色の瞳、ふたりそれぞれに見つめられて……。

雷夏は補給行為に精一杯はげんだ男女生徒それぞれの頭を撫でて、出し尽くし脱力をする楽天海都は心地よく目を閉じていく────────




『ドゴーーーーーーーーンン』




眠気も覚めるような轟音が鳴り響いた。

あまりにも突拍子がない脳を打つイチゲキの音に、

補給行為をしていた一同、

音の発生源へと──一斉にその首を向けた。


「おぉ? ナニアレ……ちょっこし? ……おこし?」


「フフ…………帽子と武器を買いに行っていたんだろう、最寄りのホームセンター……フフ」


黄色いオーバーオールに緑の肌、ずんぐりむっくりとした全高10m以上の巨体がそこにあり。

頭頂にはイカした黄色い帽、右手には大刀という名の柄の長いポールウェポンを持てば────────

それが工場長イエローキャップ。


「ああぁぁ……♡」


工場の壁を大胆に壊し何かがしゃしゃり出てきた、そんなことはあり得ない。

これは補給行為後のやはりへんな夢であると、楽天海都はふたたび目を閉じ心地の良いネムリに────────


「こらっ!!! ナニ気持ちよく寝ようとしている、正気か正夢だッ回復系男子生徒カイト生徒!!!」


大声で叱責されてギャグ漫画のような鼻提灯を割り、パッと海都は目を見開く──。

見ていた光景は夢ではない正夢でもない現実。彼の寝ぼけ目にデジャブするのは、赤帽と黄帽のずんぐりむっくり巨人。


「ぬええええええ!? え、え、え、レッドキャップ!?」

「馬鹿よく見なくても親戚のイエローキャップだきてるぞおおおおおお」

「おぉ。あれぇ、ちょっこしちょコシ……」


先生の喝に飛び起きていろいろ仕舞えずにもたつく……戦闘に入る前に風に飛んでいったじぶんのパンツを慌て探す楽天海都。

慣れない激しい運動で腰をちょっこし痛めた気がし腰をトントンと労わる牛頭梢。


寝ている場合じゃない迫るおおきな危機に立ち上がっていくダンジョン部の先生生徒冒険者たち。もうすでに重音を立ててにじり寄って来ている巨体の影に、雷夏先生は赤い槍をぐるり回して勇み前に躍り出た。







工場にオーラの刃が飛び交いおおきな刀傷の重なるものものしい戦場アートを形成していく。

槍1本、槍技【婆沌永遠水車(バトントワリング)】でエネルギー斬波を防御しつつしのぎ巨人に立ち向かう雷夏、およびその後ろの生徒たち。


前衛で戦いながら傷付きながらも練った雷夏先生の作戦の下に、緑蜜高等学校ダンジョン部は既にその大きな得物へと集中砲火し、厄介な技【斬斬薙薙挫斬波ざんざんなぎなぎざざんぱ】を放つ大刀の破壊に成功した。



「きた夏ちゃんピース……【巻く膜クレープグレープ弾】!」

「【牛頭ーカ】もっちょ【牛頭ーカ】」



戦いも時間が過ぎ中盤、海都がハンドガンから放った緑の回復保護膜がピースを堂々と掲げる雷夏先生のシールドを補修補強。

大柄の女子生徒は後衛からスキルチップを発動し援護、担いだバズーカから間をおいて2連射、2頭の灰色の牛頭のオーラ弾は敵の胴体に噛みつき起爆、指示通りに先生を援護していく。


武器を失くした工場長は帽から取り出したネイルガンのようなサブ武器を既に左腕にセットしており、もったいぶらずに釘を乱れ撃つ。

バズーカで視界を灰色に汚されながらも雷夏にご執心、シールド値を釘の雨で削り取っていく。


「避けるのが易くない釘バルカンは受けながら走ればいい! 荒れた視界は何が起こるかわからんぞッだがこちらはよぉくわかる! 攻撃夏ちゃんだいくぞ【伸槍】」


灰色の煙の中左手のシルエットに狙いすました赤い槍がまるでレーザービームのように伸び、装着していた大きなネイルガンを貫き木っ端微塵に破壊した。

Dオーラを丹念に込めた狙いの一突が見事、巨体と小人の差を活かして命中。



「おーー先生また破壊すごかぁ~」

「うおおおやったァこれでアイツ今度こそ武器がないっすね!」

「はははどうやら品切れのようだなあとはごり押しで片付けるッさぁ絶対的先生をひきつづき援護だダンジョン部!」



ダンジョン部で最も危険人物な雷夏ちゃん先生が武器を無くしもうステゴロしか方法がないターゲットに噛みつき引き付ける。こちらが優勢になりテンションを上げた生徒は遠距離からいつも通り間合いを保ち援護射撃を続行する。


だがやはり巨人工場長イエローキャップ、雑魚モンスターの鼠と違いかなりのタフネスを誇る、まだその膝をつかないようだ。

工場長は元気に生徒たちを追いかけ走り回るが、その隙に雷夏先生の入れ放題な横槍は到底無視できるダメージではない。やはりこの女をミンチにしてからでないとすぐ逃げる小物を追ってもドツボにハマってしまいどうしようもない……そう考えたのかイエローキャップは鬱憤晴らすべく、しつこい青髪青服にドシドシと大きな足音を立て怒り迫った。


工場長イエローキャップは我を忘れ命よりも大事な帽子が脱げそうなほどに、両手をいまかいまかと広げ前のめりに襲い走る。


「ずんぐりむっくりが幼児のようにお茶目に突っ込んでくるとはなッ今だ【槍玉】【伸槍】、ヘッドショットもあるぞさらに掃除機ノズルのように多種多様だぞ私のヤリは! よく見ておけ新入部員たちDスキルチップの授業だ!」


〝ごーーーーーんっ〟


鈍い音で前のめりの顎下を砕かれたイエローキャップはおもわず眩暈、本人は何が起こったのかわからない……脚が止まるほどの一突き一打をもろに受け取ってしまう。


そして穂先が鉄球になった伸びる槍は自在に縮む、しっかりと掴まる柄は彼女を空へと縮みながら鉄球の浮かぶポイントへと運んでいく。


テクニカルに舞い上がった夏ちゃんは容赦しない。浮かぶ鉄球を足場にし蹴り上げ勢い反転し、またありえない軌道で重そうな特別な槍を振りかぶり振り下ろす。


「壊れろ【夏ちゃんofダ~ンジョン髑髏(どくろ)砕き】!!!」


振り下ろされた大きくなった鉄球は背後上空から黄帽を被った頭蓋を砕く。インパクトの瞬間鈍い音を立てた鉄球からビリビリと雷電のオーラがあちこち暴れ(ほとばし)っていく。


やがてぼこっと砕かれ焼かれた頭頂から……三角片は散り散りと弾け、巨体を構成していたモノは分解された。


へこんだ黄色い帽子がひらひらと舞い落ちて、槍はそれをひょいと突き先端へとひっかかった。

先生の口元はものすごくニンマリと赤目は見開き輝かせ、生徒たちの方を見た。



激闘を物語る足元注意な傷だらけのステージに、絶対的先生雷夏は三角片のカラフルシャワーを浴びながら……なんとも心地よさげに────







緑蜜ダンジョン部は激戦の果てに工場長イエローキャップを倒した。

今回も1人前衛で大活躍の先生の元に……駆けよって来た生徒たちからおつかれのスポーツドリンクをありがたく、肩で息をしながら雷夏は興奮気味に受け取った。


しばし息を整えその後、興奮冷めやらぬ戦闘後の雑談を交えていた途中に急に青ジャージのジッパーを豪快に下ろした。

汗ばむ白いシャツの胸元を全開にした……そのドデカく艶めかしい光景に男子生徒は慌てた様子で目を背けながら……。



「け、けけ結局なんなんすかこの巨人ッ……毎回こいつ出て来るんすか先生……」

「さぁな。こいつは私たちより弱かったそれだけだ!」

「は、はぁ、それは先生は滅茶苦茶強いからそうなんすけど……(けっこうヤバかった気が……前ほどではないすけど?)」

「おぅ先生おとこまえーっ」

「あぁ絶対的先生だからなキャップの色を少々黄色く変えようが負けるわけがないッ、牛頭梢も回復系男子もいい援護バズーカと援護回復だったぞ! おかげで夏ちゃんの槍技コンボもびゅーーーんターーンぼこーーーっと決まって今日は最高のダ~ンジョン日だ!」

「だから俺らくて……そそれはあざっす……」

「おぅ牛頭梢ナイス援護バズーカでぇす」


先生は生徒を褒めることを忘れない、そして自分を褒めることも忘れない、雷夏はそんな先生だ。人間は褒められて悪い気はしない……海都も牛頭梢も先生の笑顔に返事をした。


その後も先ほどの戦闘のことや雑談と質問はつづき──



「うむうむふむふむ。まぁ先生が思うに世界は地球よりも広いぞってことだ」

「セカイ……地球よりも広い……?」

「うぅんここ栃木ぃ? おぅじゃなくてトチギダンジョン?」

「あぁだからさダンジョンセカイッ、もっと強くなればきっともっとおもしろいだろう? はははははダ~~~~んじょんっ」


この宇宙星々の中の青いひとつ。

地球日亜(にちあ)国、栃木県緑蜜市緑蜜高等学校ダンジョン部。

世界の綻びである第イチ体育倉庫に隠された跳び箱の中にあるゲートを飛び越えたどり着く未知の亜空間、それはダンジョン。


雷夏とその生徒たちの挑むダンジョンセカイその果てには、まだまだ想像を超えうる興奮だらけの未知が満ちている……。


少女よりも少女のように輝く赤目が、海都と梢の目に映った。




(雷夏先生……この人はもっと強くなればきっともっとおもしろい、そう言う。俺がこれからもダンジョン部でダンジョンに挑みつづけるかは正直分からない。俺が何かを思い切り決めるとしたらそれはきっと誰かが喜ぶか悲しむかの2択であり……。だけど、この人は俺なんかがどうであれ何がなんでも挑みつづける……目の前にした底無しに気持ちのいい熱のある笑い方をみて──絶対的にそう思った)







★ちょいみせ雷夏ちゃん先生のDスキルチップ技★


剣刀

【電伝電柱雷酎斬】

デカブツ程効果が高まる。

ブッ刺し地に雷電を伝わせついでに雑魚を散らす効率のいい範囲技。

【投雷】

射撃技兼移動技。

投げた刀の刺さったところへ瞬間移動できる。ただしオーラの消耗が激しいうえに攻撃性能はないに等しいのでメインに使うことはない。

【架電斬り】

発動1回につき武器を1個使用するコスパの悪い下ごしらえだ。

【切電】

名刀緑蜜のみがその放出されるチカラに耐えうる……。

架電斬りで蓄積増幅させた絶対的雷電で敵を終わらせる雷夏最高の技。

屠った敵は数知れず、切り抜けたピンチは数知れず、絶対的の果てを目指す。

【爆雷斬】

はじめて覚えたおもいでのDスキルチップ技。


槍ハルバード

【伸槍】

シンプルいずベスト。

剣と違ったものにしようと最初にお試しで開発したDスキルチップであるが使い込んでいくうちに雷夏ちゃん本人が想定していたより便利すぎた技である。

射撃に、串刺し、薙ぎ払い、意表を突く柄に掴まっての移動。

本人は槍玉などの穂先をチェンジする技と共に使うコンボを気に入っている。

【婆沌永遠水車】

バトントワリングの要領でぶちかます突進技のチカラ技であるが、攻撃にも防御にも優秀で使えるので伸槍の次に使う機会が多い。

【真田サンダーランス】

槍複数本を雷魔法へと変換する大技。

派手ではあるが威力を高めようとすれば頭にこもる熱量も並ではなく威力は切電には劣る。

【槍玉】

穂先を鉄球に取り換える。射出可能。

【三日月】

穂先を三日月に取り換える。射出可能。

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