73 フラッシュバック
フェリクスは、再び悪夢を見るようになった。
前世の、あのどうしようもない爆撃の光景を。
ドローン機に追い回され、見るも無残な姿に変わり果てる、かつての友人や家族の姿を。そして、自らが最後のひとりとなった瞬間、ドローンを操作しているのが、もうひとりの自分であることに気づき、衝撃で目を覚ます。これを何度も、何度も見ることとなった。此度の合戦では、直接、殺戮の光景を見ていない。そのため、彼にとっての合戦のイメージが、過去の体験から再構築されてしまったのである。
食事は喉を通らず、頑張って飲み込んでも、すぐに吐き出す。フェリクスは見る見ると痩せていった。
「フェリクスよ、お前に罪はない。すべての責任は、この私が負うところだ」
ジギスムントは、あまりにも脆いフェリクスの姿に、溜息をついた。なぜなら、ジギスムントは、今回の戦果に、当初は酔いしれていたためである。
(フェリクスの過去を考えれば、致し方ない話ではあるが、これでは……)
テオドール、マキシミリアン、バルデなどが相次ぎ、フェリクスを訪ね、彼に罪がないことを説いたが、フェリクスは愛想笑いを浮かべるのが精いっぱいであった。自分自身でも、いつかは超えるべき壁であると、兵器の開発時には考えていた。だが、実際には彼にとって容易に乗り越えられる壁でもなかった。
そんな中、万が一に備え、ノイシュタットに疎開していたベアトリクスとヒルデガルトが、シュヴァルツブルクに帰ってきた。フェリクスが痛く落ち込んでいるという話に、ヒルデガルトは荷ほどきもそっちのけで、フェリクスの元へと向かった。
「ねぇ、フェリクス。お兄さんのことは本当に残念だけど、フランカの兵士に対してまで、罪悪感を持つんじゃないわよ」
ベッドに腰掛けたフェリクスは、死人のような顔でヒルダを見つめた。
「戦争は、殺るか殺られるかの殺し合いなのよ。結果としては、一方的な虐殺に近かったみたいだけど、それが何だというの?」
フェリクスは、無情とも思えるヒルダの言葉に、目を見開き、ヒルダを見つめた。
「戦争において、責任を負うのは指揮官なの。それも味方の死に対してだけね。向こうには向こうの指揮官がいるし、死者に対する罪は、出兵を決めたフランカ側にあるの。貴方はたしかに相手を蹂躙するような新型兵器をこの世界に持ち込んだわよ。だからといって何だというの? 兵器がなければ、負けていたのはこちらかもしれないし、もし、そうなっていた場合は、シュヴァルツヴァルトの住民たちにまで、その被害は拡大していたのよ。侵略者は相手側なの。そこのところは、はっきりとしておきなさいよ!」
ヒルダの言葉に、返す言葉が出てこないが、これまでよりもわずかにだけ、目に生気が戻るフェリクス。
「フェリクス、貴方は神でもなんでもないのよ。たしかに貴方はこの世界の文明を加速させたけど、それは今のところ、良い面の方が圧倒的に多いのよ。貴方の知識によって、死なずに済んだ生命がいっぱいあって、貴方のおかげで安心して、子孫を増やせるようになったひとたちだって、本当に多いんだからさ。間接的にせよ、貴方が殺したつもりでいるフランカの兵士の数だって、貴方が生かした人々の数と比べれば、まだまだ少ないわ。もちろん、人の生命を数で数えるのは非常識かもしれないけど、そういうことなの。だから、いい加減、立ち直りなさい!貴方は私の旦那様でしょ!」
ヒルダの熱弁に、ようやくフェリクスが口を開いた。
「……すべてを素直に飲み込める話ではないけど……たしかにそのとおりなのかもしれない。いや、これは僕が信じたいだけの物語かもだが、それならさらに多くのひとたちが安心して暮らせる世界の構築に力を尽くすべきか……」
久しぶりに声を出したため、ほとんどはガサガサとした言葉となったが、今度は作り笑いではなく、弱々しくも、苦い笑みを浮かべるフェリクス。その姿を見て、ヒルダは涙ぐみながら、フェリクスに抱き着いた。
「ねぇ、フェリクス。それでも貴方が深い罪悪感を持つのだとすれば、それは私たち夫婦がいっしょに背負えばいいことだし、それでも足りなければ、たくさんこどもを産んで、その子たちにも背負ってもらえばいいのよ。貴方ひとりで何でもかんでも背負おうとしないことよ」
ヒルダは、フェリクスの唇を奪い、そのまま、ふたりでベッドに倒れ込んだ。
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