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【ナーロッパではない中世】この転生には、いったいどのような<意味>があるというのか?  作者: エンゲブラ
本編

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ハインツの死は、フェリクスを困惑させた。

フェリクスが、シュヴァルツブルクに戻る頃には、すでに葬儀が済まされていた。そのため、ハインツの死に顔を見ることもなく、伝聞による死という事実のみが、彼の前に提示された。


酷薄な言い方をするのであれば、それは実感のない死であり、どこか他人事の情報のようにも思えた。大多数が事実と認めることであっても、自らの目で見ていないものは、信じがたい。特にカメラアイという鮮明な記録装置を持つフェリクスにとって、記録そのものの不在は、死というピースを曖昧なものにさせた。


ハインツの葬儀が、フェリクスの帰着を待たずに執り行われたのには、理由があった。それはハインツの遺体の状態にあった。崖から投げ捨てられた彼の肉体の多くは、あらぬ方向に変形しており、また頭部にも大きな損傷が認められた。死に化粧やエンバーミングなどの概念もないこの時代において、それは見る者を地獄に落とす様相であった。―― これをカメラアイを持つというフェリクスに見せるべきではないと、彼の父であるテオの配慮があり、手早く葬儀が行われたというのが、ことの真相であった。


フェリクスは前世において、数多くの死を見つめている。それは現在もなお、克明に思い出すことの出来る記憶であったが、今生こんじょうにおける無残な死の光景は、まだ経験がない。テオの配慮が正しかったかどうかは、実際にそれを経験せねば分からぬことであったが、ハインツの最期の姿を見届られなかったことは、フェリクスに心残りを作った。―― だが、現在のハンナの憔悴しょうすいぶりを聞けば、長々と葬儀を先延ばしにするという判断も誤りであり、結局のところ、テオの判断を正しいとするほかなかった。



「ただいま」というべきかどうか迷いながら、フェリクスは生家の玄関をノックした後、曖昧に家の中に入った。そこには、亡霊のような顔をした母ハンナとテオ、そして母の父ゲルトと兄クルトの姿もあった。


言葉が見つからなかった。そのため、フェリクスは母のハンナを抱きしめた。フェリクスはすでにハンナの身長を自分が超えていることに、ここで初めて気付いた。


「すまなかったな、フェリクス。先に葬儀を済ませてしまって……」テオが右手をフェリクスの肩にかけ、微かに震えた。これにも返す言葉が見つからず、フェリクスはそっとテオを抱きしめた。



フェリクスは、父母にシュヴァルツブルクでの生活をやめ、自身の領地となったノイシュタット領への移住を勧めた。もう無理に働く必要もなく、後はゆっくりと余生を保養地でもあるノイシュタットの領都で暮らして欲しいという願いであった。


テオは、ハインツの死後の空虚さから、これに乗り気を見せたが、ハンナは憔悴しながらも、それを拒否した。


「駄目よ……ここには母さん(=祖母のクララ)のお墓だけでなく、ハインツのお墓もあるのよ」その言葉は、全員を沈黙させるのに、十分な言葉であった。


フェリクスは、新しい環境での心のリセットを両親に勧めたかった。だが、この「リセット」という感覚も、ハインツの死を早急に過去のものにしようとしている、自身の無意識ともリンクしているように思えてきて、後から自分を責めることにもなった。



「本国との引き渡し交渉は不要である。その代わり、今後、私を賓客の待遇でこのシュヴァルツブルクに迎え入れることを私は求める」


世迷言とも思えるこの発言は、先の合戦で捕虜となった王国の第二王子アンリによるものであり、それに同じく捕虜となったベルナール子爵までもが頷いた。


「やれやれ、いったい何を考えておるのだ、この者たちは」捕虜との面談会議に参加していたテオドールが、フェリクスに、そっと耳打ちした。


「……ああ、かなりお気楽な気分で行われた侵攻であったらしいな、此度の合戦は……」そう返しながら、フェリクスはやるせない気持ちになった。


彼らふたりは敵軍ではあったが、直接的なハインツの死の犯人ではない。また犯人にしても、逃げ延びたフロワサール伯ルシアンの手下でしかなく、誰かひとりに罪を問うことの出来るものでもなかった。すべては共犯と利害の関係にあり、独裁・独断による侵攻計画でもない限り、明確な断罪は不可能である。


また、今回の侵攻は一方的な蹂躙じゅうりんではなく、こちらの方がより多くの将兵たちを殺した。きっかけはともかくとし、その家族たちに対する罪という意味では、むしろシュヴァルツヴァルト側の方が重いようにも、フェリクスには思えた。


前世におけるフェリクスと、その家族たちは、一方的な虐殺を受ける側であったため、分かりやすく敵を怨むことが出来た。しかし、此度の合戦では、こちらがより多くを殺した。しかもそれは、フェリクスがこの世界に持ち込んだ、様々な新型兵器によるところが大きかった。―― 開発の段階から想像していたことではあったが、この事実の具現化は、フェリクスの背筋を何度も寒からしめた。




……ひと月近く、更新をサボっておりました。

最近、創作脳が冬眠に入ってしまい、なかなか頭も回らないのですが、ゆるゆると連載は続けますので、気長に次話もお待ちいただけると幸いです。


サボってる期間中にブクマ、評価をくださった方々には、たいへん感謝。重い筆を持つ催促にもなります(苦笑)。


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