表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/71

69 異端審問

晩夏、教皇庁の一室。

数名の枢機卿と司教たちを前に、フェリクスは溜息をついた。


彼らの鳴らすフェリクスの罪が、いったい誰に対する罪であるのかが、さっぱりと理解出来なかったためである。


「君は領民たちに自らを<神の子>と呼ばせているそうだな」


「……彼らが勝手にそう呼んでいるに過ぎません。私は控えるよう指示しています」


「君は、徳のある者は地上よりも高き場所にあるものを食し、低い者は地より出づる食物を食べよとする教会の教えを馬鹿にし、選帝侯のご家族などにも野菜を食べさせているというのは事実か? 事実であれば、由々しき問題だが」


「それはヨハネス教の教義にはない話です。たしかに聖典では大地より離れた位置に存在する食物ほど尊いとありますが、あれは原初の書簡における<得難い>の曲解、誤訳に過ぎません。得難いは<手に入れ難い>という意味であり、それが手に入れ難いがゆえに尊い、尊いがゆえに徳の高い者のみが口にすべきであるという歪んだ教えへと変容を遂げたものであると考えられます。本来、聖者ヨハネスは万民の平等の教えを説いておられになりました。そのあたりもご配慮ください」


「これはこれは、さすがは天下の秀才と名高いノイシュタット子爵。大胆な詭弁もお手の物と見える。すると君は、歴代の教皇猊下が是としてきた解釈に異論を申すというのだな。まだ成人したばかりの非才の身でありながら、何とも」


(やれやれ……これで"交渉"のつもりであるとすれば、彼らは竜の尾を踏み続けているのにも等しいぞ)


フェリクスの横に座り、今回の教皇庁出頭にも同行していたザールブリュッケン大司教クレメンスの子マルティンが、頭を軽く横に振り、溜息をついた。


「……ほかには?」


フェリクスは、弾劾にもならぬ詭弁は気にも止めず、言いたいことがあるのなら、言いたいだけ言え、といった風に涼し気に促した。


(―― どうなっておるのだ、この小僧! これだけ脅せば、自ら何らかの寄進を口にするものではないのか? よもや本当に異端者というわけでもあるまいに)


枢機卿のひとりロドリーゴは、この審問会の会議中、ひと言も発せず、フェリクスの顔色を伺っていた。自身はいっさい手を汚さず、最後に救いの手を差し伸べる形で恩を売る予定であった。しかし、フェリクスのすべてに動じぬ態度と、予想外のマルティンの同行に、苛立ちを覚えていた。


「け、卿の領内、ノイシュタットでは入浴の解禁を行い、また野菜などには家畜や人の糞を被せていると聞くが、いったい何のつもりだ? 気でも狂ったのか?」


言葉も選ばず、司教のひとりが椅子から立ち上がり、フェリクスを指差し、問うた。


「……どう気が狂っているというのでしょうか? 入浴の解禁により領民たちの健康は保たれ、糞などを使った堆肥により、野菜は見事に丸まると生育しています。これの何がいけないのでしょうか?」


「く、糞など汚らわしい!人が口にする物に対し、いったい何を考えておるのだ!それに入浴によって開かれた毛穴は、疫病を呼び込む元となろう! もし、また大規模な疫病が発生するとしたら、お前たちの領がその中心地となるのだぞ! そ、その責任は持てるのか!」


「……野菜は洗えばきれいになりますし、それは人間にしても同じことです。入浴習慣の禁止に関しては、敵対会派でもあるフランク王国のヨハネス正教会の一司教による無学の妄言。疫病の発生する仕組み自体をまともに考える頭もない敵対会派の主張を鵜呑みにし、本来、健康を促進するはずの入浴の習慣の禁止を帝国領内でも薦めるのは、賢明なる教皇庁に属する司教の言葉としては、いささか浅慮ではありませぬか」


フェリクスは、教皇庁全体への批判としては語らず、敢えて、自らに問うてきた司教に対する返答としてのみ、それらを答えた。敵対会派である正教会を引き合いに出し、この会議室にいる各々の反応を見極める。そして、司教と彼らを切り離すことによって、司教のみの暴走として処理させるためであった。―― 彼らが求めるのは、シュヴァルツヴァルトの財の分配のみであって、フェリクスの思想信念などは、本来どうでもいいものであったためである。


「こ、これは許すまじき教会への不敬……お、お前などは破門だ!破門!」


わなわなと震え、フェリクスを指差す司教。

しかし、それには誰も同意しなかった。

皆が、様々な打算を行い、落としどころを探していた。


「た、大変です!」


ひとりの教会関係者が、ただ事ではないという様子で、会議室に飛び込んできた。


「何事だ、マルカーノ。上級幹部のみの会議にいきなり飛び込んでくるとは」


ロドリーゴ枢機卿が、マルカーノと呼ばれた助祭に問うた。


「シュ、シュヴァルツヴァルト領を目指し、フランカ王国軍による侵攻が始まった由に!」


……新連載予定作品の執筆に追われ、サボり中です。

本編も、ほぼ草稿のような書き殴りで、正直ディテールがまったく足りていませんが、ハンタのラフスケッチくらいの感覚で、苦笑いで読んでいただけるとありがたい。


新連載は、神話的なハイファンタジーになる模様です。自分で書いていて「これ、本当に俺が書いている作品か?」と怪しくなる出来です(謎)。


total 838 bm 148 react 107

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なろう系 オススメ 異世界転生
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ