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04 転機

―― 6歳の初秋、突然、大きな転機が訪れた。



「急な話だが、フェリクス……お前には明日、辺境伯様の第二公子・テオドール様の誕生日パーティーに参加してもらうこととなった……」


そう告げた父のテオ本人も、自分で自分が何を言っているのか、あまり理解出来ていないといった困惑の表情。


領都である、このシュヴァルツブルク市だけでなく、シュバルツヴァルト全域を支配する辺境伯ジギスムントが次男・テオドールの誕生日パーティーに、同年代の家臣の子供たちを招待するという話であった。


寄子(よりこ)となっている貴族の子弟たちが集められるというのは、理解もできる。だが<従士の子倅(こせがれ)>風情にまで、お声がかかるというのは、いったいどういうことか?


「どうしてフェリクスだけなんだよ、ボクだって行きたい!」兄のハインツが駄々をこねたが、誰も相手にはしなかった。


「ちょっと待ってよ、そんな急に。(かしこ)まったパーティーに着させていけるようなフェリクス用の服なんて、うちにはないわよ」狼狽(ろうばい)する母のハンナ。


「そこは私に任せておきな」祖母のクララには、何やらツテがあるらしく、テオとハンナは少し胸をなでおろした。



翌朝、父に手を引かれ、私はシュヴァルツブルク(=黒き城)へと向かった。城は市の中心部にある小高い丘の上にあり、城壁の中に入るのは、もちろんこれが初めてだ。シュヴァルツブルクは、その名に反し、真っ黒な姿はしておらず、ごく一般的な様式の城であった。


「もしかすると来年、帝都の貴族学院に留学なされる予定のテオドール様の従士役を、このパーティーでお選びになられるおつもりなのかもしれない ―― という話。もし本当にそうであったなら、しっかりとアピールしてくるのだぞ、フェリクス!」


道中、ずっと鼻息を荒くし、興奮し続ける父のテオ。私が、このパーティーに呼ばれるきっかけとなったのが、何度か家にも遊びに来たことがある父の上官、騎士コンラートの強い推薦によるものであったことが、今朝方になり、判明したためであった。


コンラートは、男爵家の出身で、今は辺境伯家の騎士を務めている。テオよりも少し年下ではあるが、思慮分別(しりょぶんべつ)に富んだ、なかなかの紳士だ。些細なことでも、深く会話が広がる機知にも富んだ男。テオにとっては少し気難しく、何を考えているのかイマイチ掴めない上官であるそうだが、私とは非常にウマが合った(いや、合わせてくれていたというべきか)。そんな準貴族でもあるコンラートが、直々に私を招待してみて欲しいと推薦してくれたというのだから、テオの目の色が変わるのも無理もない話であった。



物々しい警備兵が、何名も立つ城門前。

そこで父と別れ、警備兵とはまた別の兵士から、城内への案内を受けた。


どこを歩かされているのかも分からぬ、長い通路と回廊を抜けると、整備の行き届いた、美しく大きな中庭が目の前に現れた。


着飾った少年たちと、それに準ずる恰好の少年たちが、すでに多数いた。数にして、ざっと二百名前後といったところか(正確には数える気もない)。


「じゃあな、上手くやれよ」私の頭の上に、ポンと手を置き、さっさと立ち去る案内の兵士。


(何の説明もなく、いきなり置き去りかよ!)


……とりあえず、パーティーの主役である<テオドール様>とやら探す。立食パーティーのエリアには、それらしき姿は見当たらない ―― が、すぐに発見。


中庭からは一段上がった、城と接続するテラス・スペースに、彼は陣取っているらしく、そこに向かって長い列が出来ていた。


私は、列に並ぶ少年たちの表情が見える、ギリギリの距離にまで近づき、花壇を目の前にした城壁に背もたれながら、その様子をしばらく観察することにした。


挿絵(By みてみん)

(無事に着飾れたフェリクスくん 6歳)

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なろう系 オススメ 異世界転生
― 新着の感想 ―
 おおっ! なんとも利発そうな主人公。  これならばきっと将来もイケメン間違いなし。  これも精神が肉体に影響を及ぼすっていう例なんですかね。
ドイツ語の名詞には男性・女性・中性の性別があります。で、Schwartzを単純な形容詞として考える場合、男性を修飾するとSchwartzなんですが、女性だとSchwartze、中性だとSchwartz…
ブルクって女性らしいので、シュヴァルツェブルクのほうが適切なのでは。 ちなみに城はブルクかシュロスかという話もあって、この場合はどちらかというとシュロスが近いのではないかなとか思ったり。
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