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【ナーロッパではない中世へ】この転生には、いったいどのような<意味>があるというのか?  作者: エンゲブラ
本編

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53 決断

「聖者様は、おっしゃられた。教皇庁の腐敗を正せと!賄賂が横行し、貴族や富裕層のみを優先。庶民は重税に喘ぎ、その日の暮らしもままならぬのに、やつらは見て見ぬフリをしている―― 」


フェリクスは、ステファノの言葉のひとつひとつ吟味する。内容の一部は、的は射ている。だが、聖書に記載するようなものでは、決してない。そして――


「ゆえにわが聖書をもって、教皇庁の悪事を糾弾し、すべてを白日の下にさらせと!そして、善良な信徒たちの心を慰めるべく、異端者や異教徒どもをすべて火あぶりにせよ!そう、聖者様は、私におっしゃりなられたのだ!」目を爛々とさせ、鼻息を荒くさせるステファノ。


「……なるほど」

フェリクスは、納得した。

それを同意と捉え、そうだ!とばかりに、うなずくステファノ。


(やはり、テオドールのいうとおり、この男は始末しておいた方が世のため……か)


フェリクスは、確信していた。

ステファノのいう<外套マントの聖者>が、自らの目の前に現れた存在とは、まったく別物であることを。十中八九、それは彼自身が、この場で生み出したイマジナリーな存在であることも。


ステファノは、狂っている。―― それはヨハネス教を妄信する狂信者という意味ではない。純粋に壊れた人間が、何の間違いか、ヨハネス教の大司教位などに就いてしまっている。フェリクスの前世の世界であれば、あるいは治療可能な病かもしれない。だが、こと、この世界においては、手の施しようのない症状……。


(だが……)


それでもフェリクスは逡巡しゅんじゅんする。

他者の生死に、直接関与することに対する躊躇ためらい。多数の幸福のために、少数、個人を切り捨てるという行為そのものに。たとえそれが、自分の尺度における極悪人であったとしても、生命まで奪う権利が、果たして自分にはあるのか?と。


「……バーゼル大司教。貴方はなぜ、異教徒に対し、それほどまでに冷淡になられるのですか? 聖者ヨハネスの教えの支柱には<無償の愛>があり、それは異教徒をも包括する、万人に対する愛が語られているはずでは?」


「そ、それは……だな。ヨハネスの不肖の弟子、邪教からの改宗者・フィリッポスによる曲解、捏造によるところが大きい。現に、教皇庁ですら、異教徒に対しては容赦のない判断を下しておるではないか。クレメンス(=バーゼル大司教)やエルンスト(=ドレステン大司教)のように、賄賂によって異教徒や異端者に慈悲をかけるなど、本来あってはならぬ所業だ!」


「なるほど……」


自身の曲解・改竄には、寛容。

他の書簡とも整合性のあるフィリッポスの書簡へは、異を唱える。彼の主張は、ヨハネス教の教義から大きく逸脱している。これは、ヨハネス教の皮だけを借りた、ステファノによる自己宗教ともいえる。―― そんな感想を持ちながら、フェリクスは、最も合理的なステファノへの処断の方法に、思いを巡らせ始める。


前世においては、生命を奪われる側であった自身が、他者の生命を奪うことへの責任。これは、その者が持つ罪の重さとは、また別の自身が背負うべき、罪ともいえる。そして、一度それを始めてしまえば、その<選択肢>が、今後、常に目の前に置かれることともなる。尊大なる権力者は、他者を軽視し、非常に利己的に、他者の人生を破壊する。そこには、必ず何らかの「快感」が存在し、またそれが「中毒」を引き起こすものであることも、フェリクスは理解していた。




更新が、長らく空き、ご迷惑をおかけしました。


作者的に「気持ちよくないエピソード」を書くターンは、創作の手も、やはり止まってしまいます(前回は、祖母のクララの死を描く回の時だったか)。


それにしても、放置している間にブックマークが、どんどん剥がれるかと思いきや、逆に増えていたことには、驚きとともに感謝。次話は出来るだけ早く書くつもりですので、今しばらくお付き合いを。


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なろう系 オススメ 異世界転生
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