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【ナーロッパではない中世へ】この転生には、いったいどのような<意味>があるというのか?  作者: エンゲブラ
本編

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48 波乱の幕開け

「―― 余は、此度(こたび)の会議を最後に選帝侯位より降りようと考えておる」


会議は、初日からいきなり波乱の幕開けとなった。

歴代に何名もの皇帝を出してきた名門貴族ヴィッテルスバッハ家の現当主、バイエルン公ルプレヒトが、自らの廃位を宣言したのである。


ルプレヒトのこの発言に、どよめく会議室。

参加者は、シュヴァルツブルク側を除くと、各選帝侯とその側近二名ずつのみ。発言権は選帝侯にしか与えられていない。特に印象的なのは、ルプレヒトの側近たちの様子。ひとりは深く溜息(ためいき)をつき、今ひとりは地面を(にら)みつけ、険しい表情を浮かべている。


各選帝侯たちにとっては、完全に想定外の事態。

だが、ジギスムントとその後ろに控えるマクシミリアン、テオドールのみが何食わぬ顔で、その話を聞いていた。それを見逃さなかった者も、何名かは会議室にいた。


「恥ずかしい話だが、我がヴィッテルスバッハの支配圏は、選帝侯資格である50の領域の保有をすでに割り込んでおり、今なお、その数を減らし続けておる有様だ……これではさすがに選帝侯位を名乗り続けるわけにもいくまい」


感情の読めないルプレヒトの語り口と態度。

いったい何が起こっているのか、と側近に耳打ちをし、お互いに視線を走らせる各選帝侯。どこか肩の荷が下りたような表情をしているルプレヒトと、小さく(うなず)きながら、それを聞いていたシュヴァルツブルクの親子の姿に、底知れぬ力を感じ取り、慌てる面々。


「50の領域の保有」の条件は、あくまでも新たに選帝侯となる場合のみの要件。就任以降に領域を減らしても、廃位となるような性質のものではなかった。実際これまでにも、選帝侯に就任後、領域を減らしながらも、選帝侯を続けた者たちは数多くいた。だが、今回のルプレヒトの「自ら下りる」という発言は、新たな慣例を生み出す可能性をも孕んでおり、皆が神経を(とが)らせることともなった。


「それで余は……余の代わりに、このシュヴァルツブルクのジギスムントを次の選帝侯に推挙することとする」さらに勝手に話を進めるルプレヒト。


残りの選帝侯たちは、慌てふためいた。

すでにボヘミア王にして皇帝のヴィクトール、ザールブリュッケン大司教クレメンスが、ジギスムントの選帝侯位への就任に賛成しているという情報を掴んでいたためである。選帝侯位は七名であり、うち四名の賛同があれば、ジギスムントは新たな選帝侯となる。そして、ここでバイエルン公ルプレヒトまでもが、それに積極的に賛成するという発言。自らが「残りひとり」となることの重要性と、その取引方法。この選帝侯会議では、その「賛成票」こそが最大の争点であり、最も価値のある「果実」であった。それが突如として「最後のひと枠」になってしまったことを意味するルプレヒトの不意打ち。慌てるのも当然のことであった。


(わし)もジギスムント殿の新たな選帝侯位への就任に賛成しよう」ほとんど考える間もなく、賛意を示したのは、ドレステン大司教エルンストであった。彼はすでにザールブリュッケン大司教クレメンスよりの呼びかけを受け、初めから承認には前向きであった。また、先にフェリクスから送られてきた贈答品。特に活版印刷によって記された、新たな技術の数々に胸を躍らせていたため、交渉は二の次に回しても「あとひと枠」となることの重要性に舵を切ったのであった。


「わ、私もジギスムント……殿の就任に賛同いたします」続いたのは、ヴェローナ伯ロドヴィーコであった。ロドヴィーコからすれば、痛恨の事態であった。これからいかに上手く立ち回り、シュヴァルツヴァルトの果実を最大限にもぎ取り、商売するかを考え、小躍りしながら訪れた選帝侯会議。皆が牽制(けんせい)し合う中、最大の利益を生み出そうと考えていた商豪スカラ家の当主は、自分の目算の甘さに溜息した。


すでに、ジギスムントの次なる選帝侯への就任は確定した。しかし、それが<全会一致>となるのか、否か。それは残りのシュタイアーマルク伯ヴォルフラムと、バーゼル大司教ステファノのふたりにかかっていた。


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