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【ナーロッパではない中世へ】この転生には、いったいどのような<意味>があるというのか?  作者: エンゲブラ
本編

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29/71

27 秘密

初演の夜、バルデはけっきょく町娘には会いに行かず、そのまま領館の離れに泊ることとなった。もちろん彼の目的は、領館の<特別室>に極秘収蔵されている未流通のインキュナブラ版『ヴェニスの商人』を日が昇るのと同時に読み始めるためである。そのため彼は「さっさと寝る」と宣言し、足早に離れへと去って行った。


フェリクスは『ヴェニスの商人』の揺籃(ようらん)印刷本を特別室のテーブルの上に置き、バルデが起きたらこの本を読ませるようにとだけ、領館の家人(けにん)に告げ、この日を終えた。



翌夕刻、この日も公演で出番があるはずのバルデが、いつまで経っても中央広場に現れず、皆がやきもきとしていると、領館からの使いが現れ「放浪楽士が特別室からなかなか出てきてくれません!」と子爵に報告。


「ちっ、いったい何をしておるのだ、あの者は。好き勝手しおって。引きずってでも構わぬから、さっさと連れて来い!」公演の主催者でもある子爵アルブレヒトは、露骨に不快な表情を浮かべ、吐き捨てるように使いに命令した。


「彼の出番までには まだ少しの時間がございます。私が直接呼びに行って参りましょう」領館の使いに手の平を向け、制止し、自ら名乗りを上げたのフェリクスであった。



「おい、バルデよ。いつまで読んでいるつもりだ。たかが一冊を―― 」特別室に入る前の廊下から、大きな声で部屋にいるであろうバルデに呼び掛けるフェリクス。


「おい、フェリクス、これはいったいどういうことだ!」


「なんだ、どうした。『ヴェニスの商人』が、君が創作した『水上の貿易商』よりもよく出来た作品で驚いたのか?」ニヤニヤしながら室内を覗いたフェリクスは、思わずギョっとする光景を目の当たりにした。


机の上に乱雑に積み上げられた書物の数々。この特別室には『ヴェニスの商人』以外にも、未流通の様々なインキュナブラが数多く収蔵されていたが、机の上にあるタイトルをよく見ると、物語よりも()()()が中心に積み上がっていた。


「なぜ、こんなものが()()()()()の一領主の領館にこんなにも存在する? いったいどういうことなのか、説明しろ、フェリクス!」机の上に積み上げられた本の表紙を部分を手のひらで叩きながら、フェリクスを睨みつけるバルデ。


「……君も君で、私に何か隠し事があるのではないのか、バルデよ?」


「……俺が東の小国の王族の血を引くという()()()のことか?」


「単なる与太話……というわけでもあるまい」


「……なぜそう思う?」


「君の言葉にはわずかにだが、抜けきらない中東のイントネーションが含まれている。巧く隠せてはいるがな」


思わず絶句するバルデ。

「……どうして、お前に、()()が分かる?」


「それは私の()()にも関わる話となる」顎に手をやりながら思案気な表情をしながら、バルデを見つめるフェリクス。


「秘密ってのはこの特別室にある……()()()()()()()()()()、これらの本にも関わることか?」


「あぁ~……ともかく話は公演の後だ。子爵も大変お怒りになられている。まずは早く広場へと向かおうではないか」



その日のバルデの公演は、お世辞にも褒められたものではなかった。


前日の初演とは打って変わり、ずっと意識が別の中空を彷徨(さまよ)っていることが、鈍感な観客にすら見て取れるレベルであった。歌詞は飛ばすし、セリフも所々で止まる。


初演を見ていなかった者たちは「前座のふたりをもう一度呼べ!」と不満の声を客席から浴びせかけた。あまりにもお粗末な出来に「もう、あの者は明日呼ばなくともかまわぬ。今夜中にこの町から出て行くようにと言っておけ」と子爵アルブレヒトは、吐き捨てるように手配の従者に告げた。


「お待ちください。彼の者とはまだ話しておくべき事が多数残っております。申し訳ありませんが、領館離れでの彼の逗留(とうりゅう)の許可を今しばらくお許しください」フェリクスは、丁寧にそうアルブレヒトに返す。これは懇願などではなく、決定事項のことであるかのように、落ち着いた口調で。


「ああ、それならば構わぬが……あの者の何にそれほど惹かれるものがあるというのだ?」冷静さを取り戻した子爵は、今度はフェリクスの心算に気を向ける。


「たしかにアイツには()()()()()()()があるようだが、どう使うつもりだ、フェリクス?」テオドールもいっしょになって、フェリクスに質問した。「あいつにも何か、お前と同じような秘密でもあるというのか?」

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なろう系 オススメ 異世界転生
― 新着の感想 ―
 うわっ⁈ マジで⁈  前回で予想を書かないで良かった……。
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