00 再生
気がつくと、温かく、
とろりとした液体の中を、私はプカプカと浮かんでいた。
薄暗く、閉ざされた空間。
縫い合わされたように、開くことの叶わぬ、張り付いた瞼。
ただ、心は妙に穏やかだった。
不規則に流れる、心地よい水音。
時折、うっすらと聞こえてくる、耳慣れぬ言語。
断続的に訪れる、強烈な睡魔に
靄のかかったまま、覚めきらぬ意識。
ここが、誰かの<胎内>であるのではないかと気付くのに、少しばかりの時を要した。
私はたしかに、あの時、死んだ ――
一家の最後のひとりとして。
ドローン機による執拗な爆撃によって。
鼓膜は疾うの昔に破れ、両手と右目を失い、
死の間際には、正気すらをも完全に失っていた……。
―― だが、あれほど呪わしかった地獄の日々も、
ここではまるで「悪い夢」であったかのように……
私はこれから、また新たに生まれ直すのであろうか?
そして誕生と同時に、これまでの記憶も、すべてリセットに……?
この世界に<神>などはいないということは、も理解している。だが、<輪廻>というものが本当にあるのだとすれば、それは一体どのような意味を持つというのか?
神を怨んで死んだ私に<次なる生>が与えられるのだとすれば、今度はいったい、どのように生きるのが正しい?
本音を言えば ―― 淡い期待と不安がある。
願わくば、たとえそれが「地獄の終末」を含む記憶であったとしても、家族や仲間たちと過ごした、あのかけがえのない日々を忘れずに。そして新たなる生では、不毛な争いのない、束の間の平和な時間を。
私は神以外の何かに祈りながら、何度も、何度も、眠りについた。
草稿が20話分ほど書き溜まったので、いよいよ見切り発車。ナーロッパものではなく、中世の並行世界への転生。
連載にあたり、実際の中世を色々と調べてみたら、想像以上に過酷な暗黒時代。そんな世界に主人公はどのように関わっていくのか?
序盤は皆様の反応も伺いつつ、連日投稿となる予定。
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