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【ナーロッパではない中世へ】この転生には、いったいどのような<意味>があるというのか?  作者: エンゲブラ
本編

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18/71

16 留学

この春、フェリクスは転生して十二年目の時を迎えていた。


帝都プラークでの留学活動を始め、すでに五年の月日が経過していた。ただ、五年の間とは言っても、年の半分ほどの期間はシュヴァルツブルクに戻っている。ジギスムントの相談役を務め、様々な改革の着手・実行をサポートするためであった。


それでもフェリクスの成績は非常に優秀であった。飛び級を重ね、高等部の学科ですら、すでに半分以上を修了している。


帝都プラークは、シュヴァルツブルクから四百キロほどの距離にあり、馬車移動で十日前後の位置にある現在の<帝国首都>である。


首都は時代によって、ころころと変わる。

<選帝侯>と呼ばれる、次なる皇帝を決める権限を持つ者たちの(さじ)加減によって。皇帝が変われば、その者が支配する領地の都が、そのまま帝都へと変わる。


この帝国において、皇帝位は世襲制ではなく、投票によって決められるものであった。この時代の皇帝とは、大小さまざまな国や自由都市、教会領などが集まって出来た<国家連合体(=領邦国家)>の総裁職を示す言葉であった。


とはいえ、プラークが帝都となり、すでに八十年の時が経過している。それはボヘミア王国からは初めて皇帝位に選出されたヴラディミアⅠ世の治世によるところが大きい。


ボヘミア王でもあるヴラディミアⅠ世は学術に力を入れた、いわゆる「賢帝」であった。この<欧州で最初の大学>にあたるヴラディミア大学を創設したのも彼である。貴族間の相互コネクションの形成を目的とした貴族学院以外にも、()()()()()()()優秀で素質ある子供たちを集め、無償で通える市民学校や職業訓練校なども同時に創設した。政策の施行当初、諸侯たちは「庶民に教育などは無意味」と鼻で笑った。だがこれが結果として、ボヘミア王国が栄華を極める(いしずえ)となる。ここ三代に渡り、ボヘミア王家から皇帝が選出されることとなる大きな英断ともなった。


フェリクスは貴族学院の方に在籍していた。

それはもちろん<コネクション作り>のためであった。だがそれ以上に各国の貴族の親たちから学院の図書室へと寄贈された<様々なジャンルの貴重本や写本群>が、フェリクスを大いに()きつけることとなった。


通常の授業にはほとんど顔を出さず、自習だけで次々と学科試験をパスするフェリクス。皆が授業を受けている間に、図書室の蔵書を見漁(みあさ)る。おかげで所蔵される専門書のほとんどを<記憶>し尽くすことにフェリクスは成功した ―― 但し、カメラアイによって「ただ記憶しただけの状態」であるものが、まだ大半でもあるわけだが。


肝心のコネクション作りの方はというと、こちらはフェリクス本人も予想だにしなかった<大きな成果>を上げている。


ふとした思いつきで、ロスチャイルド家の初代マイヤーが使った手法を採用し、さらにそれに少々アレンジを加えたものをフェリクスは試してみることにした。それは「各領地発行のコインの交換会」の開催であった。これが想像以上に<大当たり>したのであった。


入学してすぐ、フェリクスは何名かの有力諸侯の公子(こうし)たちに声をかけ、「君たちの領地で使われているコインに興味があるから、何枚かうちの領地のコインと交換してくれないか」と頼み込んだ。そうして何枚かを内輪で交換しあっている内に、他にも興味を示す公子が現れ、その輪はどんどんと拡大。


頃合いを見て、貴重なアンティークコインなどもフェリクスは交換会に投下。これに各公子たちが目の色を変え、親たちをも巻き込む<大収集ブーム>へと発展。知識を生かし、様々な考察をもって各々が持ち寄ったコインを<格付け>していくフェリクス。これによりフェリクスは学院内でも一目も二目も置かれる存在となっていった。


フェリクスは、アンティークのものよりも現行コインをより好んで集めた。それは鋳造(ちゅうぞう)されたばかりの最新コインの精巧さを見比べるためでもあった。各領邦の文化レベルなどを探るのに、コインの鋳造技術の比較作業は、少なからぬ手がかりとなった。


素晴らしいコインを鋳造する領地には、職人の調査やスカウトなどを派遣するよう、ジギスムントに進言もした。ジギスムントはこれを入れ、好待遇での職人たちの引き抜きを静かに、積極的に敢行した。さらにジギスムントは、腕の確かな職人たちの工房を一堂に集めた<技術者専門(インジュニア)の町(シュタット)>を、外部からは見つけにくい、城近くの森の奥に新たに建造する。


このような投機的な巨額の先行投資により、シュヴァルツヴァルトは大規模な開発・生産体制を構築する骨組みを、急ピッチに作り上げていくのであった。



挿絵(By みてみん)

(コイン交換の王となっても、母が仕立てた服は大事に着る庶民派のフェリクスくん 12歳の姿)


世界の大富豪一族ロスチャイルド家。

その初代マイヤーは「古銭商」として始まり、数多くの貴族にアンティークコインのカタログを送り付け、コネクション作りに成功。宮廷の御用商人となり、財務管理や資金の貸し付け等を行い、小切手両替などの金融業を展開。後に貴族階級へと上がり、世界の大富豪一族へとのし上がるロスチャイルドの礎を作った人物である。


ちなみにロスチャイルドのドイツ語読みロートシルトは「赤い表札」を意味し、これは「金貸し」が玄関先に吊るしていた赤札に由来するもの。当時のキリスト教世界ではユダヤ人が就ける職業も非常に限定されていた。結果「賤業」扱いであったお金を触る職業をユダヤ人たちが担うことにより、ユダヤ人たちは金融で欧州を支配することとなった。いかに当時のキリスト教指導者たちが先見性のない不合理な無能であったのかを示す証左ともなった失策である(自分たちで自分たちの首を絞めた)。


豆知識)

実は三国志における呉なども、この領邦国家体制に近いものであったと考えられている。特に初期の孫堅の時代では、その傾向が顕著。君臣の関係も曖昧だった。


余談)

画像生成AIには、フェリクスの手元は「金貨の山」を指示したのに、なぜかオセロみたいな分厚さのプラスティック製のコインになったのは、ご愛敬。


短編)

昨日投稿した短編『メフィストファイルス』(n4838jx)は、フェリクスをこの世界に転生させた存在の物語。本作への導入に、短編として切り離して投稿した作品だったが、アクセスそのものがまったく無くて爆死。もし興味のある方は、供養の意味も兼ねて、一度ご覧いただければ幸いです。

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なろう系 オススメ 異世界転生
― 新着の感想 ―
『メフィストファイルス』 フェリクスをこの世界に転生させた存在の物語  ──これって読むことでこの作品のネタバレになったりしませんか?  興味はありますがそこが気になるので今はちょっと……。
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