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【ナーロッパではない中世へ】この転生には、いったいどのような<意味>があるというのか?  作者: エンゲブラ
本編

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17/71

15 原点

城近くの上級居住区への転居。

これにより、フェリクスはほぼ毎日、城に出仕することとなった。新居(しんきょ)は幼いフェリクスの足でも十分に無理なく徒歩で帰れる距離。であったが、それでも帰りが遅くなる時は、そのまま城に泊っていくことが日常となった。


フェリクスが、日中城内で行う作業。

それは、ひたすら<前世の記憶>の書き起こし。


ジギスムントは、大量の紙と羽根ペンとを用意し、「遠慮せずに使って欲しい」と、フェリクスにそれらを押し付けた。


使い慣れぬ羽根ペンに苦戦しながらも、フェリクスは思い出すままに、様々な分野における知識の数々、時には娯楽分野などにおけることも丁寧に書き起こした。そしてその成果物を毎日()()()()()()()()()()目を通す。これがジギスムントとマキシミリアンにとっての日々の生き甲斐となった。


時間を制限しないと、政務にはまったく手も付けなくなる。それは親子揃ってのことであった。フェリクスが苦言を呈し、時間を限定するまでの間、政務官たちは非常に頭を悩ませることとなった。フェリクスによるルールの制定は、彼らを大いに安堵(あんど)させた。


―― ところが、このルールが適用されるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもあった。それ以降の時間帯は文字通り<フリータイム(無限の質問タイム)>となる。これがフェリクスが幾度となく城にそのまま泊ることとなる大半の原因となった。



ここで、フェリクスが前世の記憶を用い、この時期に書き起こした物の一部を箇条(かじょう)書き形式で紹介しよう――


・ウイルスと細菌への予防法と対処法

・糞尿の処理方法と下水道システムの構築案

煮沸(しゃふつ)による殺菌の効果と蒸留のシステム解説書

・入浴の有用性と温泉が見つけられそうな場所の予想

・栄養学的観点からの食事改善の手引きとメニュー例

・防寒対策とそれに伴う綿花などの大量栽培のすすめ

・新たな農耕技法、作物の品種改良などのすすめ

・新たな農機具の設計図

・水車を使った粉挽(こなひ)きサービスなどの公営化

・遺伝のメカニズムとそれらがもたらすものの例

・解剖図による人体のメカニズムの簡易解説

瀉血(しゃけつ)の効果とデメリットのレポート

・古今の国々の政策がもつ効果とデメリットの考察

・農奴の待遇改善と間引き対象者などの積極活用案

足踏織機(あしぶみおりき)などの産業機械の設計図

・東方との積極交易のすすめ

・封建制度の崩壊の未来予測

・共和制への移行の可能性の示唆

・活版印刷の導入の手引きとそれがもたらす波及効果

・レンズの開発プラン

・レンズを用いて作れる様々な物の設計図

・水力を利用した高炉の設計案

・高炉を使った冶金技術の向上

・石炭コークスの作り方

・日時計の導入案と計算方法

・複式簿記の導入のすすめ

・歯ブラシの開発のすすめ

・チェスやリバーシなどの遊具紹介

・ギターやバイオリン等の楽器の設計図


―― これでもまだ、ほんの一例に過ぎない。


辺境伯家からの要望にも応えながら、無数のレポートをひたすら書き続けたフェリクス。だが、それはあくまでも<カメラアイ>で記憶したことがある分野の物だけに限った。


本来であれば、最も切実に欲しい、例えば<電気の開発>などについても、フェリクスは触れたかった。しかし、それにはまだ実際に検証すべき点が膨大にあり、時期尚早。文明を一足飛びに進化させ過ぎた場合、そこには必ず、少なからぬ弊害も生まれることとなる。そう判断し、ぐっと堪えるフェリクスであった。



ここでフェリクスの前世の話をすこし ――


フェリクスが、前世で目にした書物や映像の大半は、国際NGO団体などからの寄付を受けた、街の図書施設でのものであった。彼はそこで日がな一日、気になるタイトルを見つけては、片っ端から()()()()()()()()()ことを日課としていた時期があった。映像記憶の中から実際に<読む>という作業は、彼にとっては()()()()()()()()()出来ることであったからだ。


ある日、不審に思ったボランティア職員のひとりが、彼に「そんなメチャクチャな読み方をして何か意味があるの?」と何気なく声をかけた。そこで彼は、これまでに読んだ本の暗唱を次々と始めた。これにより彼が<カメラアイ>の持ち主であることが判明し、職員たちの間でも大きな話題となった。


職員たちは、なんとか彼を<外の世界>に連れ出し、(しか)るべき学問を修めさせるべきであると考え、様々な方面に必死に掛け合った。だが、彼をこの<天井のない牢獄>に閉じ込め、監視する蹂躙(じゅうりん)者側の政府は、彼の出国許可の申請に全く取り合わなかった。


いつしか、多くの職員が彼の稀有(けう)な才能を惜しみ、様々な専門書なども持ち寄るようになった。しかし、それらで得た有用な知識や記憶は、ほとんど活かされる機会もなく、彼はその短い生涯を終えることとなった。


―― 前世においては。


挿絵(By みてみん)

(前世における少年時代の後ろ姿)

次話では、フェリクスが12歳に成長した姿で登場。

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なろう系 オススメ 異世界転生
― 新着の感想 ―
 意外と質問内容が良識的。  大抵政治に携わる者は歴史等の確定した未来とか軍事技術とかの話を優先するってイメージなんですけどね……。  もちろん内政基盤を固めることは重要ですけど。
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