28話 父との会話
駅構内はどこからともなく溢れ出した人でわんさか賑わっていた。
電車の到着を知らせる音楽が鳴り、ホームへと入って来た電車には、これでもかというくらいすし詰め状態の車両がほとんどだった。
ブブッ―—。
手に持っていたスマホには、雫石さんからのメッセが届いていた。
『そっち、降りてくる人多そうだね』
『これから祭りに行く人たちで混んでる』
『気を付けて帰ってね』
『雫石さんも気を付けて』
――なんだか恋人っぽい!……って俺たちは恋人同士なんだった……。
未だに実感がない俺は、夢の中にいるような感覚だった。
電車に揺られ、歩いて帰る道中にも雫石さんとの連絡は続き、俺史上初と言えるくらい女の子と長く連絡を取れていること驚いていた。
自宅に帰ると、リビングのソファに腰掛けテレビで野球観戦をしている父親の姿があった。
「父さん、明日俺早く出るわ」
「おう……ん?朝早くって、バイト前にどっか行くのか?」
――父親の勘は鋭い……。
「うん。山鉾を見に行こう、って」
「なるほどなぁ。ホコ天になる前の暑くない時間帯が妥当だもんな……。彼女か?」
「……うん」
「そうかそうか!」
――やけに楽しそうに話すなぁ……。そんなに嬉しいのか?
「母さん!凛人にも素敵な彼女ができたみたい」
すると、さっきまでは笑顔で話していた父親の表情が一変し、俺の方を振り返った。
「一応聞くけど、生身の人間だよな?」
――言い方っ!
俺は少しだけむっとした表情で父親に言い返した。
「同じクラスの女の子だし!……俺には勿体ないくらい……綺麗で可愛い女の子だよ」
「ほぅ。それを聞いて安心したよ!スマホ画面に女の子のキャラクターを映し出して、俺の彼女~とか言われたらどうしようかと思った」
――父さんの本音……出たな。
俺は父親に聞いてみることにした。
「なぁ父さん」
「ん?」
「父さんと母さんって、高校の時から付き合ってたんだっけ」
「そうだよ。確か……父さんが2年生で、母さんは1年生だったかな」
「ふ~ん」
「なんだ?もっと聞きたいか?」
「……聞きたい」
こうして父親は、母親との馴れ初めを語り始めた。
◇◆◇◆——
今から数十年前——。
元々は男子校だった高校が共学になり、私が高2になったばかりの春に女の子たちが通い始めた。物珍しさ、という名の好奇心で私たちのクラスは1つ学年が下の教室へ通う日々を過ごしていた。そんな時、1人の女性と運命の出会いを果たした。
彼女の第一印象は他人に興味を示さない物静かな人、だった。いくら俺が共通の話題を探そうと、一生懸命話しかけても話しかけても無視される日々……。だけど私は諦めなかった。なんせ、彼女に一目惚れしていたから。
そんなある日、彼女が帰宅途中で他校生に今でいうナンパをされているところに出くわし、私が彼女を庇い救い出す……はずだったんだけど……、逆に救われたってオチ。一方的に殴られ蹴られ……私自身、手も足も出なかったのに、気付けば彼女がナンパ野郎共を蹴散らしていた。
後から聞いた話だと、護身術も兼ねて空手に柔道を習っていたらしい。そんな姿を前に、私は太刀打ちできない情けない男だと思い、彼女に構うのを止めようと思っていた。だけど、彼女は私に言ったんだ。
『十分かっこいいですよ』
その事がきっかで彼女との距離が縮まり、大学生の時に同棲を始め、彼女の卒業を機に結婚することにしたんだ。
結婚してからもお互い忙しかったのもあってか、お前を授かるのに時間がかかってしまった。育児に、家事に、仕事——。大変な思いをさせていたはずなのに、いつも笑顔でいてくれたんだ。この際だから言うと、私は未だにお前の母さんに恋してるんだよ。
◇◆◇◆——
初めて聞く父親と母親の馴れ初めと、母親に対する一途な想いを聞き俺は感動していた。
――というか、父さん……母さんよりも弱っちかったんだ……。意外……。
「凛人……何か変な事を考えていないか?」
「いや……何も」
――やけに今日は感が鋭い。
「いつか凛人が彼女を連れて来るのを楽しみにしているよ!」
「気が早いわ!まだ付き合ったばっかだし」
「初々しいねぇ」
「うるさいなぁ」
父親との会話を無理やり終え、明日に備えた準備をしようと俺は風呂場へと向かった。




