表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/34

20話 心境の変化

◇◆雫石彩菜SIDE——


 ここ最近の私は何かがおかしい。

 もともと社交的ではない上に、他人との距離をとりがちだったのに、高校に入学してから変わりつつある。


『彩菜ちゃんって、いっつも怒った顔してるよね』

『一緒に遊んでも楽しくないよねぇ』


 何でもかんでも加減を知らない子どもならではのストレートすぎる言葉に傷つき、小学生時代後半、私は孤立するようになった。


『男の子にチヤホヤされていい気になってるだけなんだよ』

『あの子のどこがいいんだろ』


 中学時代、異性への感心が高まる女子からは忌み嫌われ、


『高嶺の花を心を掴むのは誰だ』

『俺の中学最後の思い出、玉砕してきま~す』


 男子は度胸試しをするかのように一方的な思いを告げてきた。その中には真剣な思いがあったかもしれないが、私には一切感情が読み取れなかった。


 そんな時に出会った【クプラニの世界】。

 ゲームの中で歌って踊って、時々仲間同士で喧嘩するけど、互いに切磋琢磨する彼らは、私にはすごく輝いて見えた。


 彼らは私の味方。

 いつしかそう思うようになり、沼にはまった。

 そして何よりも、兄姉が声優として活躍するきっかけとなったことが、クプラニ沼にハマる大きな理由になったのかもしれない。


 そんな時、新しい環境で出会った神蔵凛人。

 いつも通り、私がどんなに冷たい態度で接しても、

 可愛げのないそっけない返事しかしなくても私に優しくしてくれる唯一の男の子——。

 彼自身もクプラニのファンだった。

 彼と一緒にいる時間がこんなにも心が温まるとは思いもしなかった。

 好きなことで話が盛り上がるなんて思いもしなかった。

 学校以外でも一緒にいれる時間を増やすためにバイトも始めた。それも、神蔵と同じバイト先をあえて選んだ……。


 もっと一緒にいたい。

 神蔵と話したい。


 彼のことを考えると、胸のあたりがキュン、ってする……。

 この気持ちは一体――何?



◆◇神蔵凛人SIDE——


 俺は今まで自分の殻にこもることが多かった。

 人と馴染まず、人に興味を示さず、陰のオーラを出し人を寄せ付けなかった。

 誰かの話に合わせるのが苦手……、というか、面倒……というか。


神蔵かぐらって、かみくらとも読むんだよな……その名の通り、暗いやつだよな』

『何考えてるかわかんない割に、テストの点数はいいんだよね……』

『あいつん家って、神様を蔵に隠してるから神蔵、っていうらしいぜ』


 あることないこと、デタラメばかり言う奴らに興味はなかった。

 興味を示す必要もなかった。

 俺は俺の信念に従い進んできた。

 グループ分けでは常に最後まで一人ぼっち、遠足や研修で遠出する際のバスの座席は決まって担任教師の隣。


 1人の方が気持ちが楽だ。


 そんな時、たまたまテレビのCMで流れてきた【クプラニの楽曲】に心を奪われた。

 明るいメロディなのに、歌詞は心に突き刺さるフレーズ。


『君にしか見えない世界を 今ここから切り開こう』


 俺の居場所を見つけたような感覚に陥り、気付けばアプリをダウンロードしていた。

 そこからは一心不乱にクプラニに心を捧げた。

 推しのために俺はいる。


 そうして新たに迎えた高校生活で、俺は初めて『推し友』雫石彩菜さんと出会った。

 これまで、にわかファンは何人もいたが、俺みたいなコアなファンに出会ったのは初めてだった。始めはお互いの推しについて話していたが、次第にヒートアップするうちに、どんどん距離が近くなっているように思えた。


 もっと一緒にいたい。

 雫石さんと話したい。

 雫石さんの笑った顔が見たい。

 大八木くんや他のクラスメイトには見せない、俺だけの雫石さんの笑顔が見たい。


 湧き上がるこの気持ちは――なんだ?


 自分では気づけない感情に、俺は戸惑いながらも知りたいと思った。

 あと1ヵ月で夏休みが来る……。

 それまでに俺は、何かヒントを得られるのだろうか……。



 降りしきる雨を見ながら、俺はスマホアプリ【クプラニ】にログインした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ