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16話 雫石家の団欒

 マル高からの帰り道、私は最寄りの本屋へと向かっていた。参考書が置かれているコーナーを抜け、辿り着いた先に並べられていたのは……クプラニ特集がされているアニメ雑誌。


――良かったぁ。今日発売なのに、品切れだったらどうしようかと思った。在庫も……3冊か……。3冊買っちゃう?観賞用、保存用……そういえば、神蔵は買ったのかな……。


 悩みに悩んだ結果、私は神蔵に連絡をすることにした。


『今、本屋にいるんだけど、クプラニ特集がされているアニメ雑誌、いる?』


 3冊の雑誌を抱えたまましばらく本屋をうろうろしていると、神蔵から返事が来た。


『欲しい!俺がよく行く店にはもうなかったから助かる!』

『りょ!』

『どこの本屋?』

『四条烏丸だけど』

『わかった!今から向かう!』

『えっ?私が持っていくよ!』


 慌てて送るも、既読にはならなかったため、仕方なく私は本屋の前で神蔵を待つことにした。


――何も来なくても持っていくのに……。阪急に乗ったとこなのかなぁ。


 待つこと約10分——。

 息を切らしながら走って来るマル高生(神蔵)の姿が見えた。


「はぁ……はぁ……雫石さん……待たせて……ごめんね……はぁ……」

「私が持って行くって送ったのに……」

「連絡が……はぁ……来たときには……電車に乗ってたんだ……」

「くふふふふ。神蔵……息上がりすぎでしょ……ふふふふ」


 私は笑うのは失礼と思いつつも、笑いを堪えることができなかった。


「仕方ない……じゃん……はぁ……普段、あんまり運動しないんだから……はぁ……ちょっと落ち着いたかも……」


 神蔵の息が落ち着いたところで、私はアニメ雑誌が入った袋を渡した。


「はい、これ」

「うおぉっ!ありがとうっ!……はい、本のお金」

「おつり……」

「おつりはいいよ~」

「でも……」

「いいからっ!」


 私は仕方なく、神蔵の言葉に甘えることにした。


――この借りはいつか返すから!


 私は心の中で硬い決意をした。


「これっ!神回じゃん!クプラニ特集に声優さんも載ってる~」

「神蔵、声優も好きなの?」

「イエッス!俺、もともとアニメは好きだったんだけど、クプラニに出会って声優さんも好きになったんだぁ。こんなこと言うと、反感を買うかもしれないけど……普通のアイドルより歌、上手いじゃん」

「それわかる!私も声優……すきだよ」

「ゴールデンウイーク、これを楽しみに勉強がんばるぞぉ!」

「ふふ、変な奴……」


 神蔵と途中下車駅まで一緒にいる間、クプラニの話で盛り上がっていた。


――こんなに話が合う人……初めてかも。次会えても、ゴールデンウイーク明けかぁ……。えっ?今……何考えてた?


 恥ずかしさが急に込み上げ、私は急いで自宅に向け足を進めた。


「ただいま~」


 玄関を開け、靴を脱いだ時——。


「彩菜~おっかえり~」

「っつか……遅すぎじゃね?」


 私の目の前に現れたのは、ニコニコ笑顔で出迎える姉と、少し機嫌が悪そうな表情をした兄だった。


「……えっ?いつ……帰って来たの?……なんで連絡入れてくれないのさっ!」

「逆ギレかよ……」

「うっ……別に怒ってないよ」

「ふっふっふ~サプライズ大成功だねっ!」


――心底この兄姉の考えているとこがわからない……。でも……本当に嬉しい!


「これ見てっ!」


 私は、袋から今日購入したばかりの雑誌を2人に見せた。


「おぉ!発売、今日だったのか」


 兄が雑誌を食い入るようにまじまじと見ていた。


「やっぱ表紙は【'AmO】か~……かっけぇなぁ」

玲央兄れおにいもメンバーの一員じゃん!」

「そうだけどよ、表紙を飾るのはキャラクターじゃん……」

「ぷぷぷ……もしかしてヤキモチかな?」

「キャラクターにヤキモチ焼いてどうすんだよ!」

「私は……玲央兄も、愛姉あいねえ推してるよ!もっち、ラキくんの次にだけど!」

「んだよぉ……1番じゃねーじゃん!」

「こぉら!いつまでそこで喋ってんの?早く支度してご飯食べなさい!」


 母に呼ばれた私たちは、母の雷が落ちないようにリビングへと急いで向かった。

 


◇◆◇◆——


 雫石家の長男と長女にはある秘密がある。

 

 低音ボイスが特徴、女性から人気急上昇中の水梨玲央みずなしれおこと、雫石玲央。

 愛らしいながらも透き通るような声で一躍有名となった水梨愛菜みずなしあいなこと、雫石愛奈。


 彼らは私の兄姉というだけではなく、双子で活躍する声優なのだ。そして何より、私がドはまりしているクプラニの声優も務めている自慢の兄姉だ。


――私にも楽しみができて良かった。


 久々に集まった雫石家では、しばし賑やかな生活となるのだった。

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