13話 教室に天使が舞い降りたっ!
――なんだなんだっ!あの大きく揺れ動くたぷたぷはっ!
黄金に輝くロングヘアーに、瞬きするたびにぱさぱさと音がしそうな付け睫、切れ長の目元にはピンクのアイシャドー。ぷるぷる唇には、ピンク色の艶が施されている。
そして、何よりも目を奪われるのは、動く度に上下に揺られるお胸っ!
「あーちゃん」
と呼びながら俺の斜めに後ろにいる雫石さんに駆け寄る姿に……俺は釘付けになった。これが所謂、一目惚れ、ってやつなのかもしれない!
「あーちゃんって……」
「なんでぇ?彩菜って呼ぶよりかわいいじゃん!」
――可愛いのは呼び方ではなく、間違いなく貴女です!
「野辺さん、そんなに急いでどうしたの?」
――は?なんでなんで?凜人はこのギャルと知り合いなの?どういうこと?……野辺さんかぁ……。ちゃうちゃう!名前を知れてうっとりしている場合じゃない!この状況を教えろてくれっ!
キョトン、としていた俺に気づいた凜人が、ようやく状況を説明してくれた。
「あっ、大八木くん、急に騒がしくなってごめんね。こちら、1組で学級委員をしている野辺さん。野辺さん、こちらは俺たちの友人の大八木くん」
「野辺美香ですっ!1組で学級委員をしてまぁす!美香って呼んでくれていいよ~」
「え……いや……さすがに初対面で呼び捨てはハードルが高いっ!……あっ!俺、大八木良太。よろしくね」
「良ちゃん!よろしく~」
キラキラキラ――
眩しすぎる笑顔、雫石さんとは違う綺麗さ、同じクラス内では見かけない……ギャル!
「野辺、一体何しに来たんだよ」
気だるそうに雫石さんはノールック質問をしたのに対し、野辺さんはガン見……。
「そうそう!今日の放課後、空いてる?」
「空いてない」
「良かったぁ!空いてるんだったら、ちょこっと付き合って欲しいんだぁ」
「いや待って!私、今空いてないって言ったよね!」
「ん?そうだっけぇ」
ざわざわざわ――
クラス内が賑やかになり始めた。
「雫石さんと話してる娘って誰?」
「わっかんねぇ」
「あの娘、可愛いよなぁ」
「俺も思った!っつか、あそこだけなんかキラキラしてねぇ?」
「わっかる~」
――鼻の下、伸び伸びになるよねぇ。わかるよ~。
ニヨニヨとしながら話し声が聞こえる方を見ると……ものすごく睨まれた。
「大八木ぃ!」
――うおっ!なんか睨まれてるっ!
俺は思わず視線を外し、何も知らないふりをした。
「あーちゃん、いいじゃ~ん」
「なんで私なの!」
ただならぬ2人の様子に、俺は事情を知ってそうな凜人に尋ねてみた。
「なな、凜人。さっきから何を言い合ってんの?」
「あぁ……野辺さん、今日から放課後に勉強教えて欲しいんだって」
「へぇ……でもなんで雫石さんなんだ?」
「あれじゃない、雫石さんって成績優秀だからじゃないかな」
「私よりも3組の金森さんの方が頭いいじゃん!」
「そうだけどぉ!3組とか行きづらいじゃん!あの賢いクラスに入れるわけないじゃん!」
3組から6組は言わば頭脳明晰の集まり……。国公立大学を目指す人たちが集うだけあって、確かに入りづらいのはわからなくもない。
「あーちゃんは3組、入れる?」
「……無理」
「ほぉら!あーちゃんだって入れないじゃん!」
「けど!」
「だったら、皆ですれば良くない?」
さっきまでわちゃわちゃ言い合ってた野辺さんと雫石さん、おまけに凜人までもが俺の方を無言で見た。
――はっ!俺……何を口走ってんだ?この状況からしてさっきの発言はまずいっしょ……。
俺の頬から1滴の汗が流れ落ちる――と思ったとき。
「それいいじゃん!」
気付くと、野辺さんのキラキラ笑顔が俺のすぐ目の前にあった。
「の、の、野辺さん!?」
「やりたいやりたい!皆でしようよ!」
「確かに、誰かと一緒に勉強することで自分の勉強にもなるからね」
「はあぁぁぁぁ」
「あーちゃん、ため息でっかいって」
「今回だけだからね!」
「やったぁ!んじゃ、また放課後ね!ばぁい!」
教室に入ってきたときと同じように、嵐のように野辺さんは去っていった。
「野辺さんって、なんというか明るいね」
「神蔵にはそう見えるんだ……」
「俺には……天使に見えた。めちゃくちゃタイプだよ」
「……」
この一瞬で恋に落ちた俺は、姿が見えないにも関わらず、野辺さんが出ていった教室の扉をいつまでも見ていた。
「大八木くん」
「大八木!」
「はっ!」
「早くイベントしないと!」
「大八木だけ置いてきぼりになるぞ」
「待って待って~」
俺は野辺さんの事で頭がいっぱいだったこともあり、イベントにはほとんど集中できずに昼休みを終えたのだった。




