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ひとり焼肉が好きなひと。  作者: もちっぱち
6/11

ひとり焼肉 サーロイン6枚目

 幼少期の淳は男も女も関係なく


 友達と喧嘩して


 男でもすぐ泣く。



 女の子にいじわるされたくらいで


 涙が出るのだ。



 我慢できない。



 母から仕返すのは御法度だと指導されれば


 男でも泣き虫になるだろう。



 よしよしとなだめるのはいつも瑞季。



 同い年だと言うのに本当に頼りなく幼い。



 私が面倒見てあげなくちゃと


 いつも思っていた。



「瑞季、また負けた……。」



「そっか。そう言う時もあるよね。」



「あいつ、言い負かすんだよ。


 本当はあいつが悪いのに。」



「あー、猪瀬大樹いのせたいき


 あの人、ガキ大将みたいに


 仕切ってるもんね。


 淳は弱いもんね。


 弱い分、優しいってことだよ。


 負けてても私は良いと思う。


 優しいんだから。」



「…そうかな。でも、男たる者、女子を


 守らなきゃとか思うでしょう。


 なかなかできないけど。」



「無理すんなって。


 淳は淳のままでいいから。」



 その言葉は本当は自分自身に


 言い聞かせたかった。



 ありのままの自分でいい。



 人は鏡だし、そのままでいいって


 言われただけで救われる。




***



帰る支度を終えた瑞季は言う。


「んじゃ、帰るね。」



「ああ、また飲もうな。


 連絡するから。」



「私、『沢村課長』だもんね。


 さっきスマホの登録画面見ちゃった。」



「え、あー。うん。


 アリバイ工作?


 見つからないように瑞季は会社の上司って


 ことにしてるから。ごめん。」



「良いの。わかってるから。


 奥さん、大事にしなよ。」



 午前2時


 ホテルの出入り口のドアをバタンと


 閉めた。



 ハイヒールの音がカツンカツンと響いた。



 途中、中に入ろうとするカップルに


 鉢合わせになった。


 ささっと、すり抜けて


 通り過ぎる。



 本当のカップルなら、


 ああやって、仲睦まじく2人で


 帰るんだろうなと少し羨ましく感じた。


 


 私たちはできるだけ2人でいるところを


 見られてはいけない。 


 


 ましてや、このホテルという


 決定的証拠が残りそうなところで


 見られたらアウトだ。



 1人寂しく、リクルートバックを肩に


 掛け直して、路地裏から街の中に入った。



 人が行き交う都会に入っていけば、


 何も怖がることはない。



 都会で街中を1人歩くことは慣れている。



 真夜中でも全然平気。


 


 そう、本当ならば、


 淳に心配されるはず。


 それは全然気にしては


 いない。



 世間体や、名誉の方が最優先になるのだ。



 歩道橋を登り、渡ろうとすると、


 後ろから、全身黒ずくめの男に


 バックをはぎ取られた。



 声を叫んだが最後、足が早く、


 追いかけられなかった。



近くにいたサラリーマンの男性が慌てて、


追いかけてくれた。



かなり足が早い犯人だった。



フルフェィスヘルメットをかぶり、


顔が見えなかった。



やっと犯人に追いついた男性は、


羽交締めにして、犯人を捕らえた。



バックは無事戻ってきた。



後からハイヒールの音をカツカツさせて走った瑞季は息を切らして追いかけてきた。



「あ、ありがとうございます。」



「け、警察。電話連絡してもらえますか?」



 男性の体の下には犯人が


 モゴモゴ手足が動いていた。



「あ、そうですよね。


 ……あ、交番近くにありますね。


 声、かけてきます。」



 瑞季は状況確認すると、ちょうど目の前に


 交番があることに気づく。



「ひったくりの現行犯逮捕ですね。 


 ご苦労さまです!!」



 交番勤務の巡査部長が、


 犯人を捕らえてくれた。



「いえ、お世話さまです!!」



 犯人に手錠をかけて


 巡査部長は立ち去って行った。



「あ、そのけが、大丈夫ですか?」



瑞季は手の甲にかすり傷を見逃さなかった。



「あ……。これくらいの傷は平気です。」



 手をブンブン振って平気だと見せた。



「公園、近くにありますから、


 洗いましょう。


 絆創膏ありますから。」



 瑞季は救ってくれた男性を


 公園に誘導した。



 蛇口をひねり、ジャバジャバと左手を


 洗った。



 瑞季はバックから絆創膏を取り出して、


 ゆっくり貼った。



「ありがとうございます。」



「いえ、これくらい。


 むしろ、このバックを取り返してくれた


 ことの方がすごくありがたいです。


 本当にありがとうございます。」



 夜の公園、ベンチに2人座って、


 話した。



「いえ、いいんですよ。


 取り返せてよかったです。


 でも、女性1人、夜中にあの歩道橋を


 歩くのは危険ですよ。


 気をつけてくださいね。」



「そうですね。気をつけます。


 ご心配おかけしてすいません。


 ありがとうございます。」



「それでは、失礼します。」



高身長で鼻の高い男性は、


立ち上がって、公園を出ようとした。



「あ、あの、最後に名前だけ。」



「名乗るほどの事ではありません。」



 ニコッと笑って、手を振って立ち去った。



 瑞季は残念な顔して、公園を出た。



 ドラマ、アニメで


 言うようなセリフで


 笑いそうになったが、


 必死でこらえた。



 余韻を残しながら、家路を歩いた。

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