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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに
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冒険のはじまり(3)

「え、なんであなた達もいるの?もしかして、私の試験をいちいち見にきたの?」

 フィセラは相手を怪しむように目を細める。

 流石にここまでされれば、嫌悪感を持ってしまう。

 これではまるでストーカーだ。


 タラムとシオンをあわててそれを否定する。

 フィセラが負の感情を持っていることに鋭く気付いたのだろう。

 2人は全く同じ動きで手を横に振った。

「私たちも試験を受けるのです。……あ、これは狙って同じ日にしたのでは無く、本当に!偶然で、」

「ちょ、ちょっと待って!」


 聞き流すことのできない言葉をタラムが口にしていた。

 その確認をしないまま話を進めることはフィセラにはできない。


「試験受けるの?なんで?」

「はい!冒険者の資格登録のためです!」

 シオンがハキハキと答える。

「冒険者じゃないの?……今は」

「正確に言うと、そうですね」

 タラムが笑みを浮かべながら答えた。


「へ〜、そう……なんだ」

 フィセラは勝手に、2人は熟練の冒険者だと思っていた。

 そういった紹介こそ無かったが、雰囲気やオーラから他の者とは絶対的に違う「強さ」を感じていたのだ。

 ――先輩だと思ってペコペコしてたら、同僚だって知った時の感じはこんなんだろうね。働いたこと無いからの分かんないけど……。


「少し前からフラスクに滞在していたのですが、試験の日はもう少し先だと言われてしまい。待ちぼうけをくらってしまっていたのです」


 よく聞いてみると、冒険者としての経験が全く無いという事は無いらしい。

 正式な冒険者資格が無ければ、協会から出されるどんな依頼も受けることはできない。それがたとえ街中にある公園の雑草採取だとしてもだ。

 

 だが、そのような厳しいルールの影には必ず裏取引がある。と言ってもかなり明るいところで行われているようなのだが。


 つまりは協会を通さない個人からの依頼受注である。

 手数料を用意できない、審査を通らない、手続きを嫌う等、様々の事情があって協会に頼れない者たちが依頼出している。

 意外にも法を犯すような仕事はほとんどない。

 その証拠に、これらの依頼者のほとんどは協会支部の前、時には建物の中で直接声をかけてくるそうだ。


 タラム達も依頼を受けられないタイミングを狙って話を持ちかけられたらしい。

 彼女たちは、すでにいくつかの依頼をこなしている業界の先輩ということだ。


 ――同い年だって言うからタメ口で話してたのに、本当は職場では1年先輩とか。こんな感じかな?…………いや、その状況は別にどうでもいいな。

 

「とりあえず、行こうか」

 フィセラが向いた先には、10人ほどが集合していた。

 タラムとシオンの2人はその集合場所から少し離れた場所にいたのだ。

 そのため、最後に来た(ほとんど遅刻だが)フィセラとばったりと会ってしまったということだ。

 

 歩き出すフィセラの後ろを2人が付いて歩く。

 どこかで見た光景だがおそらく気のせいだろうと自分に言う。


 冒険者協会から指定された場所は小高い丘の下。

 都市フラスクからは2時間ほど離れた場所である。

 集合していた者達はそれぞれ距離を取っているが、自然と半円のような形をしていた。

 その中心には、小さな洞窟があった。


 フィセラ達が合流したタイミングで、端にいた男が洞窟の入り口をふさぐように前へ出る。

「えー、皆さんお集まりのようですね」

 男が少しだるそうに話し始めた。

「えー、今日は冒険者ランク認定のための試験です。えー、1,2,3……」

 集まった者達を指さしながら数を数えていく。

「1人の方もいますが、全部で5パーティの皆様に試験を受けてもらいます。…………今日は多いな」


 フィセラが周りを見渡す。

 彼女を除いた4パーティ。

 男女のバディ、男4人のグループ、褐色肌の女2人組、そしてタラムとシオン。


 男女のバディの年齢は若く見え、新人冒険者のいで立ちだ。

 なぜか異様に距離が近く、なぜか腕を組んでいる。

 ――…………キモ!


 男4人のグループは、隣でいちゃつくカップルを鬱陶しそうな眼で睨んでいる。

 睨んだ顔やひげ面、あまり関心の無そうな身なり。

 実際にそうかどうかは分からないが、粗暴な冒険者たちというイメージを持ってしまいそうな見た目だ。


 褐色肌の女2人組は落ち着いた雰囲気を持っている。

 1人を長剣を腰に掛け、もう1人を短剣を2本太ももに巻き付けていた。

 ――アサシン……、いやシーフかな?

 見た目から職業を想像するが、正解は難しいだろう。

 だが、的外れでもない。

 軽装、太くない筋肉、武器、長い耳。速度を重視する戦闘職なのだろう。

 ――え?耳?……エルフだ!初めて見た野良のエルフだ。しかも褐色……日焼け?

 少し興奮したフィセラの視線に気づいたのか、1人が目をこちらに向ける。

 

 フィセラは何事も無いかのように真顔を作って、最後のパーティを見た。

 

 タラムとシオン。

 これで4パーティ。フィセラを加えて5パーティだ。

 ――それもそうだよね。一緒にパーティを組もうとか話したのは仮登録の後だし、協会側がそれを気にしてくれる訳もないか。

 

「私はノルマルド、そっちがエリンです」

 洞窟の脇にいる女が片手を上げる。

 2人とも制服のような同じものを着ている。

「今日の試験の監督官です。よろしくお願いします」


「どうも〜」

 フィセラが適当に挨拶をする。

「よろしくお願いします」「しま〜す」

 反応をしたのは、エルフの片割れとカップルだ。


「はい、どうも。それじゃ早速始めたいんですが……協会の紹介をしろと言われてるんでしますね」


 舌打ちが男のグループから聞こえたが、ノルマルドは気にせず進める。


「本協会は全世界と連携をしている、国境を越えて繋がる数少ない組織です。もちろん、小競り合いを何年も続けているお隣のドワーフのお国にも、支部がいくつもあります」


「そうなの?」「知らね」

 カップルの小声がみんなにもきこえる。


「とは言っても、全ての規格や情報が共有されているわけではありません。それぞれの支部にはかなりの自由が与えられています。この試験もその1つです」

 そう言ってアルノルドは後ろに振り返り洞窟を見る。

 皆もそれに釣られて洞窟に目を向ける。

「この洞窟での腕試しは、フラスク支部が独自に決めたランク認定試験なんです。この試験で星が2つ、あるいは3つの冒険者と認められます。星4つも無いわけではありませんが、まあ滅多にありませんから、気にしないでください」


「星1つは?」

 フィセラは、抜かされた星について説明を求めた。


 その時また舌打ちが聞こえた。

 いらない質問をするな、ということだろう。

 だが、それで臆する訳もない。

 フィセラが睨み返すと、すぐに男は目を晒した。

 若干男の視線がフィセラの背後に向いていた気がするが、おそらくは気のせいだろう。

 彼女の背後には、タラムとシオンしかいないはずなのだから。


「ああ、<星>の説明もしておきましょうか」

 頭をかきながらアルナルドは質問に答える。

 

 やる気の無いように見えるが、そこまでテキトーの男でもないらしい。

 


「冒険者のランクはこの<星>の数で決められます」

 アルノルドは自分の胸に着いている星型のバッジをトントンと指でついた。

「1つから最大で5つまで。冒険者を名乗る人は必ずこのバッジを持っています。ランクの決め方をシンプルに、<力>です。……公式な取り決めでは無いのですが、さらに上の実力を持つと<黒い星>を与えられるとか……」

 

 ――黒星……いたな〜、そんな奴。言うほど強かったかな?

 灰の獣槍。そう名乗った者たちを思い出した。


「このように、星1つは協会員全員に与えられます。2つからが皆様のような戦士に与えられることとなっております。目安の実力はこうです……」


 星1つ。

 どのような形でも、協会に貢献が出来る。


 星2つ。

 ゴブリンやウルフなどの基本的な下位モンスター1体を単独で討伐できる。


 星3つ。

 ゴブリンやウルフなどの基本的な下位モンスター3体以上を単独で討伐できる。


 星4つ。

 ゴブリンウォーリアーや魔力持ちのウルフなどの中位モンスターを単独で討伐できる。


 星5つ。

 ほとんどの上位モンスターを1体ならば単独で討伐できる。

 

 黒星。

 英雄的実力を有している。


「今言った通り、ほんの数体だけ討伐してもらえれば星を与えられます。え~と、証拠として歯を持ってきてください。後ほど鑑定をしますので不正は」

「おい!……おい!って」

 4人グループの1人が声を荒げた。

 思い出してみると、舌打ちをしていたのもこの男だ。

「<何>を数体なんだ?<何>の歯を取ってこいって?まだ、その洞窟の中に何がいるのか教えてもらってないぞ!」


「え、言ってませんでした?あれ?」

 アルノルドはもう1人の監督官エリンをチラリと見る。

 エリンは首を横に振っていた。

「あーすみません。まぁ、驚くようなモンスターでも無いのでいいでしょう?」


 変わらない調子でペコと頭を下げるアルノルド。

 エリンが早く言ってくださいと急かしている。

 ハイハイと言ってようやくモンスターの正体を明かす。

 

「この洞窟の中にいるのはゴブリンです。ただのゴブリンですよ。この洞窟はそいつらが作ったゴブリン製の迷宮ということです」


「チッ、ゴブリンかよ」「ビビってたのか?」

 

「えーこわいー!」「2人なら大丈夫だって」


 試験を受ける者達の反応はそれぞれ違ったものだが、どちらかと言うと安堵の色が強かった。

 やはり、ゴブリン程度、という認識があるのだろう。


 そんな中で、一際嫌な表情を浮かべている者がいた。

「………………げぇ!?マジ?」


 また、ゴブリンである。

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