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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
業火の月と落ちる星空、鉄を打つ巨人兵団
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エピローグ(ジャイアント)

 ラガート村。太陽が地平線から出始めたばかりの早朝。

 明かりが要らない空ではあるが、まだ白い空である。

 寝巻きだけで寝所を出るにはまだ肌寒い時間だ。

 

 火の光を遮る大樹の多い森。

 暗く冷えた森からは冷たく空気が風に乗って流れてきていた。

 森から少し離れたところにいる村人たち。冷たい風が吹くたびに体をさすって温めていた。

 

 少しして、アゾク大森林から大きな音が近づいてきた。

 ドスンドスン、という大きな足音を響かせながら、これまた大きな人影が現れる。

 

 その影が光を浴びて姿を現した瞬間。

 

「おはよう!アルゴル~!」

 森の外にいた少女が大声を上げた。

 それに反応して手を挙げて答えたのはジャイアント達だ。

 その中にはアルゴルもいる。

 何やら多くの荷物を運んでいるようだ。

 

「おはよう、ソフィー。村長も」

 アルゴルがそう言いながら彼女たちの前まで来ると、肩に担いでいた丸太を地面に下ろした。

 それを皮切りに後ろのジャイアント達も、次々に運んでいた荷物、丸太を下ろしていく。

「今回もまた大量ですね。すべてを街に持っていけるかどうか」

 村長が少しうれしそうに、困り顔を作った。


 ジャイアント族がフィセラの下に付いてから、既に多くの日が過ぎていた。

 フィセラが彼らに与えた仕事は1つ。

 大森林の開墾である。

 全方位を深い森に覆われた自然の要塞としての利点よりも、外の世界につながる「道」の方が重要と考えたのだ。

 

 ジャイアント達は連日斧を片手に木を切り倒していた。

 そんな時にラガート村と関係を持ったのだ。

 1日に何十、多ければ100を超えるほどの木を倒す。それらのほとんどは、彼らの居住のための資材として使われているが、すべてではない。

 そうして余った木材をラガート村に持ってきているのだ。

 そして村人たちは、その木材を村の産業の1つとして都市へ売りに行くのである。


 ジャイアント族、さらにはラガート村の住人も知らなかったが、この木材の価値をとても高かった。

 わずかにだが、魔力が含まれていたのだ。

 そうした自然の木はとても少なく、この木材は都市でとても人気の高いものになっていた。


 ラガート村としては無償で譲り受けた木が、それなり額の金貨に変わるのだ。

 最初の頃は互いに距離を感じていたが、今では異種族だということに恐れを抱く村人は誰もいなかった。


 ジャイアント族には利点の無い関係ではあるが、自然な人の営みを行えている、という嬉しさを感じていた。

 もっと言えば、フィセラにこうしたラガート村との関係を持つことを提案した時に、大変喜んでいたこともある。

 

「家は完成した?」

 丸太をすべて下ろしたアルゴルにソフィーが声をかけた。

「いいや、まだだ。俺たちが前に作っていたものとは全く違うものを建てなけきゃいけないからな。難しいよ」

 

 元々文化の進んでいなかったジャイアント族。

 彼らが大森林を住みかとして外界と接触を絶ってからはそうして文化や技術の発展はほとんどなかった。

 持ちろん住む場所もだ。

 雨風がそのげれば十分だという家がほとんどだった。

 だが、フィセラはそれを許さなかった。

 彼女の部下の指導のもとで、より強度を持たせ、外観を整え、長く持つように建築をしているのだ。


「完成したら遊びに行くなんだから、早くしてよ」

「分かっているよ。まだ家が無いのは、俺達なんだからな」

 2人で笑っていると、いきなりソフィーが口元を覆った。

「…………クシュ!」

 くしゃみを我慢しようとしたようだ。

「少し寒いか?いや、体調が悪いのか?こんなに細いぞ、肉を食ってるか?」

 彼の大きな指がソフィーのお腹をつついた。

「食べてるよ。特に最近はね」

 最近は、という言葉を不思議に思ったが、答えにすぐに気づいた。

 そして他のことにも、敏感に気づいていた。

 

「ちょうど来たようだな」

 アルゴルが振り返り、森に目を向けた。

 ソフィーも見たが、森の奥から誰かが来ているということしか分からなかった。


 一般人の目ではその程度しか見えないほど離れた距離で、アルゴルは気で察知した。

 彼がいまだジャイアント族最強の戦士である証だ。


 ソフィーはまだ、誰が来たのか目を凝らしていた。

「ん~~。あ!ナラレさんだ!」

 

 自分はアルゴル、彼女はナラレ「さん」と呼ぶことに違和感を覚えたが、今は気にしないでおいた。

 

「仕事が終わったんなら、とっとと戻りな!暇じゃねえんだぞ」

 ナラレはアルゴルに文句を言いながら近づいてきた。

 彼女の肩にも何かが置かれているが、丸太ではない。

 魔獣だ。もちろん息はしていない。

「ほらよ、これで十日は持つだろう?」

 数匹の魔獣が乱暴に置かれた。


 ジャイアント族であれば五日で完食できる量だ。

 それも、五日目は骨を舐めることになる程度の量である。

 ナラレはこれを、人間であればその倍ぐらいだ、と計算したが、実際はその3倍はかかる。

 つまり、村人がこれを完食するには三十日は必要だということだ。。


 すでにラガート村の冬の保存食は十分である。

 だというのに巨人によって増え続ける魔獣肉。

 最近のラガート村の人々は、毎日3食、お腹いっぱいまで食べることが出来ていた。

 言葉を変えれば、そうしなければ肉が腐るほどだった。

 

「今日は大猟だったから次はちょっと減るかもな」

「それは、それは」

 村長や周りの村人は、残念、と言いながら、口元には笑みが見え隠れしていた。

 これ以上は要らない、という一言を口にする関係性にはまだ成れていないみたいだ。



「ねえ?フィセラお姉ちゃんは元気?最近会えてなんだぁ」

 アルゴルは、ソフィーが「あのフィセラ」をお姉ちゃんと呼ぶことに驚きはしなかった。

「時折帰って来られるが、すぐに出かけているみたいだよ。確か、ボウケンシャと言うことを行っているそうだが」

「冒険者?」

「知っているのか?」

「冒険者だよ!そのままの意味!そういう仕事があるの、知らないの?」

「冒険者……冒険をする者か。夢のある仕事だな。あの方にふさわしい」

 アルゴルは遠い目をした。

 それは少し、何かをうらやむような眼にも見えた。


「アルゴル!行くぞ」

 すでに森に向かって歩いてるナラレが呼んできた。

「まったく、ろくに話もしないで……淡泊な奴だ」

 アルゴルも森に向かって行く。

 ではまた、と村人たちに手を振ってナラレの背を追って行った。


 太陽が少し昇り、木々が光を遮る。

 それでも、すべての光を絶つことなどできない。

 森に帰っていくジャイアント達の背には木漏れ日が差していた。

 点々とした太陽の光が彼らをほんの少し照らしている。

 

 もう彼らは闇深い森にはいない。ヒトの世界でしっかりと生きているのだ。

 もう誰も彼らを脅かすことは出来ない。

 もう誰も彼らを脅かすことは「許されない」。

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