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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
業火の月と落ちる星空、鉄を打つ巨人兵団
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夜明け(2)

「アルゴル、無事でよかった」「ヘグエルさんはどうしたんだ?」「今のは見ていたか?なんなんだあれは!」

 

 黒き壁の消失と同時に姿を見せたアルゴル。

 ジャイアントたちはそれを不思議に思うこともなく、仲間との再会を喜んだ。

 アルゴルならば自分達の知らないことを知っている、と思っているわけではないが、ついあれこれ聞いてしまうのは性というやつだろう。


 空返事ばかりだったアルゴルが一言だけ発する。

「ヘグエルは……」

 最後まで語れずに、彼は言葉を詰まらせる。

 それでも、顔をあげて何かを決心したかのような顔になる。

「ヘグエルは…………!」

 だが、それと同時にまた口をつぐんでしまう。

 アルゴルの視線の先には人垣を抜けて出てくるナラレがいた。


 ナラレに聞かれてはいけない話ではない。

 逆に、彼女に真っ先に伝えるべきだ。

 だが、ナラレの眼を見てアルゴルは口を閉じた。

 それはまるで怒りに燃える目だ。少なくとも、仲間を迎える眼ではなかったのだ。


 ナラレは無言のまま顎をしゃくって周りの者たちをその場から離れさせる。

 長老やヘグエルの姿が無い以上は、今は2人に従うしかない。

 ジャイアントたちは素直に、アルゴルとナラレを残して距離を取った。


 ナラレは周りに人がいないのを確認して口を開く。

「あれは……お前がやったのか?」

 アルゴルは悲しそうに笑った。

「そういう訳ではないが、礼はいらないぞ」

 ナラレは眉をひそめて感情をあらわにするが、アルゴルをそれを気にするそぶりは無い。

 元から承知の上だったようだ。

「あれはなんだ?」

 2人はチラリと隣を見た。

 

 そこには小山のような黒い塊があった。

 壁のようだった姿は消え去り、今はスライムのような姿をしている。

 だが未だ大きさはジャイアントを遥かに超えるほどである。

 これではスライムと思うものはいないだろう。

 

 小山のようにたたずむ夜の塊。

 モンスターのみが消えたいつも通りの森。

 雲1つない青空。

 小さな影。


「お前はいったい何をしてい…………影?」

 一瞬だけ見た光景に紛れていた違和感がナラレを振り向かせた。


「…………人間」

 いつの間にかそこにいた小さな人間。

 ナラレはその人間を見たことがある。

 白銀竜に乗り理解の出来ない言葉を並べた強者。

 その姿はナラレの記憶の中で少しずつ脚色をされていた。

 強き者の姿を過大に覚えるのはよくあることだ。だが、その者を次に見た時、その姿が想像のそれを超えていることはそうそうないだろう。

 

 星空に立つ漆黒のフィセラ。

 彼女の黒は夜の闇より深くそして鮮やかな黒だ。

 コスモの夜の中でもしっかりとフィセラの姿を確認できる。

 

 フィセラに最初に気づいたのはナラレとアルゴル。

 他の者達も一人、また一人、と連鎖のようにして全員がフィセラを見上げ始めた。

 だれも何も言わない。

 

 その時ナラレの視界で動きがあった。

 視界の端に映っていたアルゴルが突如消えたのだ。

 ナラレは眼球だけを動かしてアルゴルを追う。

 左下。目だけをそこへ向けて驚いた。

 片膝を地面につき頭を下げているアルゴルがそこにいた。

 

 その瞬間、怒りに我を忘れそうになったナラレを止めたのは「声」だった。


((傾聴せよ!))


 頭の中に直接響く声。その発信元があの黒い塊だということはすぐ分かった。

 だが、抵抗が出来ない。

 絶対的な存在による「圧」そのものだったのだ。


((傾聴せよ!!))

((傾聴せよ!!!))


 多くのジャイアントが頭を押さえている。

 誰も口を開かない。

 誰も口を開けない。

 

 ただ一人を除いて。


「あー。そこのアルゴルが後で説明すると思うから、色々省くけど……。大切なことは3つ。まず、私の名前はフィセラ。お前たちの主よ。次に~、私の支配下に入ったジャイアント族には絶対の平和を約束する。もうゴブリンなんて怖がる必要はないわ。そして最後、私に不満のある者に向けて伝えるわ」


 名前を呼ばれても微動だにしなかったアルゴルが顔を上げた。

 不満のある者だと表明したわけではない。

 そのような者たちに何を言うのかが気になったのだ。

 特に、槍を地面から浮かしたままにしているナラレの反応に注視するためだ。

 

「よく見ていなさい。主の戦いを」

 フィセラはトンと足でコスモを叩いた。

 

 <形態変化レベル4>

 

 するとジャイアント族の足下に星空が伸びた。

 いや、よく見ると広がったのだ。それも全方位に向けて円形にだ。

 フィセラの目から見ても地面に星空が広がる光景は幻想的なものだった。

 ただ、その空に木々が沈んでいく光景が無ければだが。

 

 ほんの数秒でフィセラやコスモ、ジャイアント族の周りから木々が消えて見通しの良い場所となった。

 そのおかげで彼らはすぐにそれを発見した。

 境目を作る様に沈むことのなかった木々の間に潜むモンスターたちだ。


 コスモはすでに広げた体を元に戻している。

 モンスターたちは木々の間から姿を現し始めた。

 モンスターたちの一番前にいた地底竜を見たジャイアントたちは始めて見るモンスターに驚いていた。

「なんだあの狼は?赤い鱗、それにあの顔は……」

 ただ一人だけ、ナラレだけが空を見て白銀竜と地底竜を見比べている。

「この騒動でとこからか出て来たのか?」

「違う」

 ナラレの横に並んだのはアルゴルだ。

「アレもゴブリンの下に付いている」

 アルゴルが腕を上げてある場所を指さした。

 そこにいたのはゴブリンだ。それも地底竜に乗ったゴブリンだ。

 ナラレは槍を強く握る。

 怒りや殺意から来る闘志だ。

 だが、アルゴルがそれを止めた。

「聞いていなかったのか?お前の出る幕はない。いまも俺たちはただ、見ていることしか出来ない」

 

「とう!」

 

 少し間抜けな声が聞こえたかと思うと、小さな影がジャイアント族の上を飛んだ。

 彼らの身長の何倍も高い。30メートルは上をフィセラが飛び越えて、コスモの開拓した空き地へと着地した。

 

 着地によってフィセラのコートが大きくはためいている。

 遮る木々が無くなったことで風もあるようだ。

 バタバタと暴れるコートがフィセラの背中を隠し、ジャイアントたちは目を細めた。

 

 ようやく風が落ちつくと、コートがバサッと元に戻る。

 すると、コートによって隠されていた右手が姿を現す。

 正確には、右手に握られた大斧が突如ジャイアントたちの視界に現れた。

 刃を上にして柄の先を地面に突き刺している。

 さっきまでは持っていなかった。

 コスモの上から飛び上がった時も持っていなかった。

 もっと言うなら、斧のサイズははためくコートでも隠し切れない大きさだ。

 

 だが誰もその程度の疑問など口にしない。

 自分たちの目の前に現れて小さな人間を固唾を飲んで見ることしか出来なかったのだ。

  


「前に出てきて思ったけど、絶対コスモより地味だな。わたし…………」

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