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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
業火の月と落ちる星空、鉄を打つ巨人兵団
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落ちる星空

 アルゴルは足に重力を感じた。普段は感じないレベルの大きなものだ。

 半日程度走り続けた疲労が足に溜まっていたのだろう。

 戦士だというのにその程度で疲れを感じるのか、とそう言う者が近くにいないことが幸いだ。

 そもそも、戦士としての体力や筋力を鍛えはするが、そう大きくない集落で半日を使って動き続けることなど無い。

 その疲労は、足を止めて体を休ませるには十分なものだ。

 それでも彼が走り続けるのは、彼が真の戦士だからだろう。


「ここにもモンスターがいる。なぜこれほど集まっているんだ?」

 アルゴルは遠くに見えるゴブリンやモンスターを観察しながら移動を続けていた。

 

 あの人外、あるいは超越者の砦を出てからすでに2時間ほどが経過している。

 アルゴルはとっくに森に帰っていた。

 砦の向かった時とは違い、森にだいぶ早く戻れたことについてはもはや気にしなかった。

 それよりも、戻ってきてすぐにモンスターの大群に出くわしたことの方が問題だ。

 

「これほどの数がゴブリンの手中に?ここに集合させているのか。あるいは……中に何かを囲っている?おそらくそっちだろうな。ここはちょうどナラレたちと合流しようとしていたところだ」

 ここはジャイアント族の集落の端。

 かなり山の近い場所だ。

 約束では、ナラレが生き残った同胞を全員集めているはずなのだが、その同胞の姿は1人も発見できていない。

「クソ!俺はどうすれば……このモンスターの壁を超えて中に行くべきか?それともあの人を持っていればいいのか?」

 

 中が一切見えない状況に心が乱される。

 今この時にも、中では虐殺が行われているかもしれないのだ。

 焦りから無意識に手が剣へと伸びる。

 それに気づいて、伸びた手を地面に叩きつけた。


「落ち着け。今は待て……合図とはなんだ?まだなのか?」

 アルゴルは空を見上げた。

 フィセラと始めた会った時のように、空から彼女が下りてくるのは想像したのだ。

 空を見たのはただの偶然だった。

 彼は合図が空へ現れるとは知らなかった。

 それが合図だとも、すぐには理解できなかった。


 そうだとしても、地平線から登った太陽の光を、もう一度、闇に帰せる存在は多くないはずだ。

 

「いい天気ね~。でも、こういう雲1つない青空を見ると、なんだか心が締め付けられるの。お前はそこで何をしてるんだ?お前は何者だ?って聞いてくるような気がするの」

 フィセラは澄んだ青色の空を見ていた。

 そして、近くにいたムーンを向き直る。

「そう思うこと無い?」

 そんなことをまったく思わないムーンは、自分の代わりに何か言え、と言う風に抱いていたコスモをフィセラに近づけた。

 何も言わないムーンに代わり、コスモがなんとか言葉を発する。

(ふ、深いお考えだと思います。地下の牢獄を居所とする僕には計れないお考えです)

「深いかな?嫌ってわけではないんだよね。ただ感じちゃうんだよね。これが深いってことか。まあ、これよりはマシだけどさ」

 フィセラは真下の光景に視線を移した。


 遥か4000メートル下。

 常人の視力では、一面緑の森林しか見えないだろうが、彼女には(大体)見えていた。


 数も種類も把握できないモンスターの大群が円を作っていた。

 その中心には、300人ほどのジャイアント族がいる。

 両者との距離はとても近い。

 この高さからでは、境目がかろうじて見える程度だ。

 

 ――まだ始まってないはず、多分。上に来すぎたな。

 フィセラは眉間に皺が寄るほど目を細めて下を見ている。

「シルバー、もう少し上に行ける?」

 彼女たちを背中に乗せて飛ぶ白銀竜・シルバーは白い息を吐いた。

「まだ行けるだろうが、そちらは大丈夫なのか?」


 そう言われて、フィセラは自分の姿を確認する。

 漆黒のコートとなった<黒会の帳>には耐冷効果はない。それでも、あまり寒さを感じないのはやはりコートになったことが少しは影響しているのだろう。

 次にムーンを見る。

 魔力が高いだけの彼女だが、放出魔力によって外環境の変化には強いのだ。

 最後にコスモ。

 ……おそらく大丈夫だろう。


「うん、平気」

 こともなげに言うフィセラ。

シルバーはそれに驚きはしないが、あまり良い心境ではなかった。

 空の王であるドラゴンの自分でさえ、鱗が凍る感触に耐えているのだ。だというのに、生身のフィセラ達が平然と耐えていることが不思議でならなかった。

「そうか……ならばもう少し上に飛ぼう」


 高度を上げるシルバーの背でフィセラ達は作戦の最終確認を行っていた。

 と言っても、複雑なものなどない。

「……コスモ」

 ただ一言で十分だ。

「ジャイアント族以外、ね」

「は!」


 十分な高度に達した時、ムーンが最初に動いた。

 コスモを持ち上げたのだ。

 なるべく高く、腕を空へ精一杯に伸ばして上にあげる。

 そして、フィセラが一息吸い込み、口を開く。

「解放を許可します」


 スキルを使う必要などない。

 もっと言えば、これはスキルの解除。

 ただの自身の解放なのだ。

 

 フィセラの言葉を聞いたコスモの体から三筋の水が飛び出した。

 それは重力に逆らって、上へと昇っていく。

 まるで3匹の龍が互いに競いながら空を目指しているようだ。


 どこまで昇っていくのか、そう思った時、ゴールはすぐにそこにあった。

 まるでゲームの限界高度にぶつかったように、空の壁にぶつかったように、竜の頭がある場所で円形に広がっていった。

 水が床に垂れて広がっていくように、コスモの伸ばした黒い水が空へ広がったのだ。


 澄み切った青空は少し白色を混ぜたような色だ。

 そんな空へ黒が広がっていく。

 夜が「点」から広がる様に、戻って来た。

 そして、広がる夜には小さく輝く星が瞬いている。

 星空が、そこにあったのだ。


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