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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
業火の月と落ちる星空、鉄を打つ巨人兵団
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玉座を仰ぐ巨人(2)

 大きな1歩目が石畳に触れた瞬間。

「止まれ!」

 覇気のある声、それと同時にドン!と何かを地面に叩きつけた音が聞こえてきた。

 

 アルゴルが驚いてその声の主を見る。

 辺りを探すまでもなく、堂々と門の前に立っているのだ。

 長い階段を登って視界に飛び込んできた門に圧倒されて、そこにいた人間に気づかなかったようである。

 その人間は鞘にしまった剣を地面に立てて、剣の尻に両手を置いている。

 さきのドンッという音は、あれを突き立てた音なのだろう。

 

 鉄の人間?いや、鎧か?

 

 ジャイアント族は動物性、植物性の自然由来の武器や装備しか持たない。

 そんなアルゴルでは、鉄の全身鎧について勘違いするのも仕方ないだろう。


「私の名はシヨン!栄ある決戦砦の門を守る最高守護者に代わり、私が貴様に問おう!」


 シヨンと名乗った人間はどうやら女のようだ。

 凛とした声にはナラレに似たものがある。

 だが、ナラレ以上の力を彼女の小さな体から感じるのは錯覚だろうか。


「ここに来た目的はなんだ?」

 

 防具に顔を完全に隠しているが、刺さるような視線を隠す気はないようだ。

 自分と同等の実力、あるいはそれ以上か。

 戦士として勘があれは自分より強いと言うが、今はそんなことはどうでもいい。


「俺はアルゴル。戦士だ。ここにはある人に会いに来た。名前はフィセラ…殿、だ。ここにいるのなら、話をしたい」


 彼女の名前を口に出した瞬間、シヨンの雰囲気が変わったとアルゴルは気づいた。

 今、フィセラを呼び捨てにしたとて、適と見なされる訳ではない。

 それでも、友好的、従順な姿勢をとるべきだろう。虎の尾を踏まずとも、今は尾に触れることさえ避けたい状況だ。


「貴様があの御方に会うために来たということはわかった。それで?」

 シヨンは言葉を区切って問いかけた。

「あの御方が貴様に会う理由はなんだ?」

 

「俺の話にはフィセラ殿も興味を持つはずだ。この話はもともと彼女から提案されたものだからな。その返事を…真の返事を持ってきた」


 アルゴルはまっすぐ眼差しをシヨンに向ける。

 その瞬間、威圧的な眼光が薄れた。

「開門!」

 シヨンの声に従って、決して軽くはないだろう扉はスーッと静かに動き始めた。

 

 アルゴルは扉の先を見てもあまり驚かなかった。

 それも当然だろう。

 光り輝く黄金の山、万の軍勢、未だ知らぬ竜の姿。

 彼の想像を絶するような光景は、少しも無かった。

 そこにあるのはただの闇だけであったのだ。


「どうした?すでに門は開かれたぞ。貴様のためにな」

 

 シヨンがそう問うてくる間に、アルゴルは闇の異質さを目にする。

 闇は真っ黒な靄のようでありながら、黒い水のように質量を持っていると思わせるゆらぎ方をしていた。

 光が無いのは無い。闇があるのだ。

 だが、アルゴルは進まぬ訳にいかない。

 たとえ先が見えなくても、扉が開かれた以上はそこに道がある。

 そう信じて前へと進んでいく。

 

「アルゴル」

「…なんだ?」

 突然名前を呼ばれて驚いてしまった。

「その先に待つ御方の前では、誇りや疑いは持つな。ただ正直に彼女の求める言葉のみを紡げ。さもなくば、彼女の下に集う方々に…喰われるぞ」

 シヨンをアルゴルに顔を向けず、森の方向を見ている。

「同じ剣士、戦士としての忠告だ」

「ありがとう」

 アルゴルはただただ純粋な感謝の念を告げた。


 そして、シヨンの横を通り過ぎて闇の中に入っていく。

 迷いは無い。

 あるのはたった一つの願いのみ。

 

 どうか、俺たちを救ってくれ。

 俺たちを「人」と呼んでくれ。


 アルゴルはそんな願いを胸に抱きながら闇に身を任せた。そのはずだった。

 次の瞬間には彼の瞳に光が戻って来たのだ。

 希望の光ではなく、視界をかすませるほどの光源ではあるが。

 

 事態を掴めないアルゴル。

 そんな彼を砦の主人が迎え入れる。

「ようこそ!我が美しきゲナの決戦砦へ!」

 アルゴルの動揺を気にする様子のない明るい声がそこに大きく響いた。


 玉座に座るフィセラ。

 アルゴルはただそれしか理解できなかった。

 それ以外のものは彼の知識の外にあるものだ。

 

 ジャイアントの長老を彷彿とさせるようだが、決して彼らでは持てない老賢さをもつ白髭の男。

 

 長い耳を持つエルフが二人。

 一人は金髪に穏やかな顔立ちで、絶世の美女である。

 一人は乱雑な赤髪の女。鋭い目つきからは今も怒りを感じる。

 アルゴルは不思議と金髪のエルフを恐れた。彼の勘が、彼女の持つ剣の強さに気づいたのだろう。

 

 獣の顔を持つ戦士は銅像のように固まっているが、ふさふさのたてがみが揺れるさまは彼の絶大なオーラを表すようだ。


 妙な体の持つ真っ赤な何か。アレを人間と呼ぶには、流石のアルゴルも出来なかった。


 褐色肌に獣の手や耳、毛皮を付ける女。珍しい獣人である。

 アルゴルはこれまであって来た獣人とは比べることも出来ない強さを感じていた。


 始めて見る彼らに加えて、玉座の横に立っている幼女とスライム。

 どちらも見覚えがあるが、この場に並んでいる所を見るとまったく違うように見える。

 それとも、あの時は力を隠していたのだろうか。


 アルゴルはこの時、何を思っていたのか。

 恐れか、不安か、憧れか、喜びか。


 それとも、後悔か。


 ここは違う。俺が助けを求める場所じゃない。

 ここは……こいつらは……人の領域の外にいる奴らだ!

 

「どうしたの?もっと近くに来ていいんだよ」

 人外共の主がアルゴルを玉座の下へ招いた。

 


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