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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
業火の月と落ちる星空、鉄を打つ巨人兵団
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我らは人なり

 ゴブリン。

 身長は1メートルと少しの人型のモンスター。

 体色は深緑色で、人語を理解する知能を持っている。体は小さくともその力は大の大人と変わらず、大きく成長した2メートル近い個体の力は人間を凌駕する。

 そう言った人型でありながら決定的に人間種とは違う者達を人間たちは亜人と呼ぶ。

 

 ギガント。

 巨人を軽く凌駕する力、大きさを持つ亜人だ。

 高い知能は無いが、人型ではない生物と比べれば賢い方である。

 全身が灰色で、毛の一切ない姿をしておりジャイアントの変位種に間違えられることが多い。

 だが、ゴブリンの巨大化と考えた方がまだ近い遺伝子だ。

 

 スライム。

 不定形の粘液の体を持つモンスター。

 多く見られるのは、酸性の体液を持つ個体である。

 時折、住環境によってその性質を変えるが基本のスライムはこれだ。

 攻撃手段は酸性による攻撃ではなく、液体である体を使った窒息や捕縛である。

 あまり危険視のされない種族であり数えきれないほど討伐されているが、姿を見ない日は決してない。

 それもそのはずだ。

 人間では太刀打ちできないほどの親個体が存在し続けているからだ。

 

 ワーグ。

 簡単に説明するならば、魔狼、と言えばいいだろう。

 魔力を純粋な成長や力に割り当てているから、特別な力を持つことは無い。

 異形や異能を持ちはじめれば、それらには新たな名前がつけられる。

 魔犬、魔鳥などの姿形が普通の獣と変わらないモンスターたちをまとめてビーストと呼ぶ地域もある。


 ドラゴン。

 身体能力、魔力、異能、飛行能力。すべてを持つ最強の種族だ。

 完成された生物としてドラゴンの伝説は世界中にある。

 伝説を超えて今なお生きるドラゴンたちは、神や王、災厄と言われ畏れらている。

 名を呼ぶものを全て滅ぼした未知のドラゴンがどこかにいると言われているが、彼らが見つかることは稀だ。


 ジャイアント。

 人間種。

 間違いなく人の血脈に連なる種族である。

 少し大きい、少し力が強い。

 ただそれだけなのだ。

 ただそれだけの、人なのだ。


 ジャイアント族の集落は現在、ゴブリンたちの猛攻を受けている。

 へグエルは現最強の戦士・1つの斧として戦線を築いていた。

「柵を作るんだ!いたずらに戦っていては敵を逃すぞ!」

 味方に激を飛ばしながら、自身は大斧を振ってゴブリンを寄せ付けない。

 

 突発的に湧いて出て来た敵を相手にして散発的に戦っていれば、その後の対処が遅れてしまう。

 そのため、仮の戦線として柵を作って線引きをしようとしていたのだ。

 味方にとっても、敵にとっても、その線は大きな効果を持つ。

 

「柵?木を切るのですか?そこまでの余裕はありませんよ!」

 部下の一人がワーグを倒しながら、ヘグエルに答えた。

「木を切り倒している暇は無い。建物を崩して建材を持ってこい!女、子供も走らせろ!」

 

 山の上から太陽の日が差す光の集落にほとんどのジャイアントを集めていた。

 戦士の数も増えたが、敵はそれを越す軍勢だった。

 もはや避難をさせた非戦士も無関係ではいられない。


「立て!勇猛なる同胞たちよ。ここからが終戦場だ」

 へグエルは突如押し寄せて来たゴブリンの大群を蹴散らしながら、部下に指示を出す。

「戦え!戦士たちよ!我々の背後にはほぼすべての同胞たちがいる。これ以上下がることは出来ない。ただの一匹だろうとモンスターを先に行かせられない。戦え!最後の一人になるまで…………あるいは」

 へグエルは仲間を鼓舞する言葉を発した。

 だが、本人の顔はその闘志とは別に、少し曇っているに見えた。


 

 また別の戦場でも戦いは起こっていた。

 1つの槍、ナラレ。数少ない女戦士である。

 彼女の隣で部下が指を指していた。

「ナラレ。地面が、動いているぞ」

「言われなくても分かっている。弓矢部隊!準備はいいな?」

『おう!』

 弓矢を構えた5人のジャイアントたちが返事をする。


 弓矢を使うジャイアントは珍しい。

 弓兵が少ないのは、彼らにその技術がないからではない。

 単純に素材の問題だ。

 再利用を前提に矢を作ったとしても、丈夫な木の芯を何本もつかう必要がある。

 それよりも一本の武器を長く使った方が彼らの肌に合っていた。


「全身が出た瞬間に射るんだ。まだだぞ、まだまだ」

 ナラレはボコボコと動く地面が眺めていた。

 ゴブリンか何らかの魔獣が地面を掘って来たのかと思ったが、その予想はすぐに裏切られた。

 勢い付けて出て来たのは巨大な腕だ。巨人にしては細く長い腕だった。

「ギガントだ!」

 覚えのある腕を見て、ナラレはすぐさま部下に告げる。

「上半身まで出たら撃て!的はデカい、外すなよ!」

 

 ギガントの顔が地面から現れ胸まで見えた時、横の地面からまた違う腕が生えて来た。

 また一体、また一体とギガントが地面から出てこようとしていた。

 それに部下たちは動揺し、弓矢の先はどちらを狙うのかとぶれている。

 それはナラレが一喝した。

「惑うな!まずは前方の一体を確実に葬る。その次に、もう一体。あとは私がやる!」

 最初に腕を出したギガントが上半身を完全に地上に出した。

 そこまで行けば、足を出すのは簡単だ。

 だが、その隙を与えずナラレが号令を発した。

「打て!」


 ギガントの胸に巨大な弓矢が2本刺さった。

 ナラレは頷く。上出来だ。

「まだ動いているぞ。こんなにしぶといのか?」

 体の真ん中にを太い矢が貫いたというのに絶命しないのは、驚異的だ。

 だが、ナラレはもう次のギガントを見ていた。

「もういい!次だ!右のギガントを狙え」

 矢に射られたギガントは後十数秒は動くだろう。

 それでも、あの傷を負った後なら通り過ぎる瞬間に殺せる。

 その自信がナラレにはあった。

 

「1つの槍が誇るは速度。すぐに終わらせてやる。全員で帰るぞ!」



 アルゴルが率いる部隊もまたゴブリンたちの相手をしていた。

 少しの間だが敵の攻撃の波が収まり、その内に木と草縄で作られた柵を構築することが出来た。

「堀でも掘っておくか、ゴブリンが上がれない程度ならすぐに出来るぞ」

 部下の一人がアルゴルに提案をしている。

「ああ、そうだな。外堀が理想だが、今は危険だな。柵のすぐ内側を掘ろう」

 柵を登ってきた後に落ちるように堀を設置するようだ。

 余っていた木材や手で穴を掘っていく。


 ほんの少しの時間でかなり深く掘れた。

 まだ見張りの戦士たちから敵の知らせを受けていない。

 アルゴルはもう少し掘る様に部下に命じてから、穴の外に出た。

 その時、隣の穴を掘っていた仲間がアルゴルを呼んだ。

 

 「おい!水が出て来たぞ!」

 見ると確かに彼らの足元に水色の液体が染み出していた。

「内堀に水があってはかえって邪魔になる。少し土を戻しておけ。ん?待てよ」

 アルゴルはその水を覗き込んだ。


 地下から出て来たにしては色が鮮やかすぎる。

 それに少しも揺れていないぞ。

 まさか!


「離れろ!水じゃないぞ!それは」

 アルゴルの忠告を少し遅かった。

 地下から染み出してきたスライムが一瞬で膨張し穴にいたジャイアントを飲み込んでしまった。

「デカいぞ!」

 

 騒ぎ出した周りを無視して、アルゴルは剣を構える。

 仲間もろとも両断するのかと勘違いするほどの勢いで剣を振う。

 横薙ぎにスライムの体を入った刃はジャイアントの肌にも届いた。

 だが、決してその体が傷つくことは無い。


 1つの剣の名を継ぐのならば、その剣技ははるか高みにある。

 何を斬るか、斬らないかを決めるは容易だった。


 アルゴルは剣で押し出すように二人の仲間をスライムから救い出した。

 勢い余って転がる二人を指さす。

「腹の中にまだスライムがいるぞ。吐き出させろ」

 すぐに回りの戦士たちが集まる。

 大きな拳を濡れた腹へ叩きつけた。


 ゴブリンさえ潰すことのできるジャイアントの戦士の拳である。

 喉に張り付くスライム程度、簡単に吐き出させることが出来た。


 アルゴルは緊張を解いていない。

 まだ目の前にスライムがいるのだ。

 剣で裂いた部分はすで元通りになっており気にする素振りも無い。

「剣ではどうにもできないな。この大きさでは潰すことも出来ない」

 スライムは体内に入れたはずの獲物が一瞬でいなくなったことに動揺していて動きが鈍い。

「術士はどこだ?すぐに連れてこい!」

「さっきの戦いで魔力が無くなったとこで後ろに下がっています。呼び戻しますか?」

 

 集落に数人しかいない魔法を行使できる術士。

 先ほども戦いで顔を見ていたが、もう周囲にはいなかった。


「当たり前だ!すぐに連れてこい。死んでも魔法を出させろ!」

「わ、わかった」


 アルゴルはスライムを睨む。

 スライムは動こうとしない。

 敵がすぐにそこにいるというのに漂う妙な静けさがアルゴルに嫌な考えをお思い浮かばせる。

「地下から自然発生したのか?それともこれもゴブリンが?まさか、ここまで種族の違うモンスターまで操れるのか?……ありえない!……どうなっているんだ」


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