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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
業火の月と落ちる星空、鉄を打つ巨人兵団
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星と月

 フィセラは、森の中に奇妙な山を見つけた。

 緑がほとんどない黒い山だ。

 土ではなく岩肌がむきだしになっており、そこまで大きくはない。

 

「多分あそこがゴブリンの巣穴だと思うんだけど、山ちいさくない?」

 

 ゴブリンの巣の種類は多様だ。

 地上に集落を築く部族がいれば、洞窟を掘る部族もいる。

 フィセラはゴブリンたちは山の中にいると聞いてゲナの決戦砦のようなものをイメージしていた。

 だが、視界に映る山はその中に空間を作れるほどの大きさの山ではなかった。


「とりあえず降りようか。シルバー!」

 山の上空を回っていたシルバーの背に乗って、一行は降下する。


 岩山に降り立ったフィセラ達の視線は1つの場所に集まっていた。

「やっぱり洞窟か~。ゴブリンらしいね」

 岩肌の一部をくり抜くように大きな穴が開いていた。

 ゴブリンの出入りのみを考えるのならば、かなり大きな穴である。直径5メートルはあるだろう。

 フィセラは穴に近づいていく。

 ――下に向かってる?この傾きと深さだと山の中じゃなくてもっと下ね。どれほど深いの?私でも先が見えない。


 現在、レンジャーであるフィセラの視力は尋常じゃない。

 途中で洞窟が曲がり壁があるならば、そう見えるはずだ。

 だが、そうではない。

 光が一切届かないほど深く下へと続いていたのだ。


 フィセラが洞窟の先に目を凝らしていると、ある思念が彼女を呼んだ。

(フィセラ様。洞窟の奥から何者かがこちらへ上ってきています)

 コスモの報告を聞いてフィセラは再度目を凝らすが、そこにあるのは変わらない闇である。

 だが、コスモの報告を嘘だと言ったりはしない。

 フィセラとコスモでは「眼」の造りが違うのだ。


 コスモは視覚を持たない代わりに魔力による空間把握を行えるように設計されている。

 洞窟の先がどれほど暗かろうと、コスモには関係ないのだろう。


「私達に気づいたか……威嚇ぐらいはしておこう。シルバーちょっとこっちに来て」

 シルバーは巨体を動かして穴の前まで来る。

「どうしたのだ?」

「ブレスして、火を噴くやつ」


 むごい。

 そう感じたのはシルバーだけだった。

 NPCである他二人は表情を変えないでいる。


「この穴に吹き込むのか?」

 白銀竜と恐れられるシルバーでも、ここまで容赦ない攻撃には気が引けるようだ。

 フィセラが、イエス、という返事をする前にコスモが新たな報告を行った。

(駆けあがってくる者の形から推察すると、おそらくゴブリンです。ですが、一体のみです。威嚇ではなく、殺してしまう可能性がありますが……)

 フィセラは軍団のようなゴブリンが洞窟を埋め尽くしている光景を思い描いていたが、どうやら勘違いだったらしい。

 ――たった一体?案内かな?……ゴブリン一体にドラゴンブレスじゃ死ぬな。

 

「分かった。シルバーは下がってなさい。あなたは……」

 フィセラは少し考える素振りをしてから、大山の方向に顔を向けた。

 つられてシルバーもそちらを向くが、なにもない。

「……もういいわ。よくよく考えたら戦いに来た訳じゃないしね。シルバーがいたらゴブリンが怖がるわ。少し空を飛んでいなさい」

 フィセラは当たり前のように、そう言った。

「いいのか?」


 逃げても。

 シルバーは、この言葉は口にしなかった。


 フィセラはもちろん、コスモ、ムーンもシルバーから降りている。

 自分を縛るものがないというのに、逃げない選択をしない方が馬鹿だ。


 シルバーが空を見上げ翼を開こうとすると、フィセラが声をかけた。

「大丈夫よ……あなたが一人で飛んでも、殺さないように伝えたから」

 シルバーは大山に勢いよく振り返った。

 先ほどフィセラが目を向けていた方向だ。

 そして、またゆっくりフィセラに向き直った。

「そうか…………」

 そう言うと、シルバーはうなだれながら飛び上がっていった。


「ご主人さま。他に誰かいるの?」

 ムーンが首をかしげながら近くに来ていた。

「どうだろうね~。いないかもね~」

 フィセラははぐらかすように適当な返事をした。

(さすがです。フィセラ様)

 コスモがいきなり、彼女を褒めた。

 コスモならば、フィセラが通信を行っていないことは魔力で感知できたのかもしれない。

「まあ、せっかくのドラゴンだし。逃がさないようにね」

 ムーンは首を反対にかしげ、まだ話の意味が分からない様子だった。


 そうこうしていると、洞窟の奥から足音が聞こえて来た。

 足音は一人分。

 コスモの言う通りなのだが、フィセラが足音を確認するまで、少し時間がかかっていた。

 彼の感知範囲はフィセラの想像の何倍もあるということだろう。

 120レベルのスライム種の力は信頼できそうだ。


 ゴブリンは洞窟の途中で足を止めた。

 地下で生活する彼らだ。

 闇に眼は慣れているが、やはり明かりの下に出たときは少し視力が落ちる。

 持ち場の監視エリアの先から音が聞こえたので確認に来たのだが、つい近づき過ぎてしまった。

 引き返そうと思ったその時。


「ねえ、お話ししましょ。それか、案内してもらえない?あなた達のリーダーのところまで」


 ゴブリンは人の言葉を理解できる。

 だが、返事をしなかった。

 洞窟の入り口、ほんの10数メートル先にいる者が敵かどうかを探っていたのだ。

 

 それと同時に返事が出来なかった。

 少しずつ理性を失っていたからだ。

 姿形、声、匂いが脳を刺激する。

 古から引き継がれる刻まれる遺伝子が、目の前に「好物」がいると伝えてくるのだ。


 ゴブリンはその欲望にあらがうことはしなかった。

 洞窟を駆け上がり、目の前の「好物」に襲い掛かった。



 そして、両腕を折られた。

 両足は案内のためだということで許してもらった。


「これどのぐらい長いの?というか明かり欲しいんだけど」

 フィセラは傲慢な態度で目の前を歩く(歩かせている)ゴブリンに話しかけた。

「まだ、ながい。もうすこし、さき、ヒがある。それがあかり」

 拙い言葉にフィセラは顔をしかめる。

 ――あんまり長いと、閉じ込められた時に大変だな。それにヒ?火のことかな?

 

「火ならムーも出せる。ムーが明かり作る?」

 ムーンがフィセラの顔を覗き込んできた。

 確かに、ムーンは火を使うことは出来る、だが。

「ム―の火はちょっと大きいかな~。火力調整できる?」

「わかんない。やってみる」

 するとムーンは両手を前に出した。

 ワ―!とフィセラが慌ててムーンを止める。


 ムーン・ストーンが能力を使うには、杖が必要である。

 両手を出したのはその杖を取り出すためなのだろうが、万が一でも洞窟で能力を使われたら大惨事になってしまう。

 

「大丈夫だから、また後でね。試してみよう。ね!」

 ムー!と不機嫌そうな声が聞こえて来た。

 ――定期的に魔力を使わなくちゃパンクするとかじゃないよね?

 フィセラはそっとムーンの頭を撫でた。


「あ!ほら!たいまつだ。」

 フィセラが遠くにたいまつの火を確認すると同時に、いくつかの足音も耳にしていた。

「もうそろそろってことかな?ゴブリン君」

「まだまだ。アゾク王のギョクザはもっとした」


「アゾク?王?」

 フィセラはつい鼻で笑ってしまった。

 ――たかがゴブリンが王を名乗るのね。哀れだな~、ゴブリンは。

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