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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
業火の月と落ちる星空、鉄を打つ巨人兵団
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二人と一匹と一体(5)

 フィセラはジャイアント二人を地面に座らせて、ここに来た訳を説明していた。

 ジャイアントを座らせても彼女の身長の倍の高さがあるため、フィセラは少し見上げる形になる。

 だが、武器を置いて敵意を見せない姿から威圧感はなかった。


「やはり、そのドラゴンは白銀竜なのですね。まさか……伝説を従えるとは……、あなたは一体?」

「アレより強いってだけよ。私は何でもないわ。ただのフィセラよ、よろしくね」


 フィセラが挨拶をしたことで、二人も名を名乗った。

 1つの剣アルゴル。

 1つの槍ナラレ。

 どうやらジャイアント族の中ではかなり地位の高い戦士らしい。

 ――いきなり当たりじゃん!


「いきなり本題に入るけど、あなた達、私の部下になりなさい」

「そ、それはどういう……」

「言ったまんまよ。私の家があんた達の後ろの山にあるの、まあ、引っ越してきたようなもんだけどね。そしたらご近所さんがいるって知ったから、仲良くしようかなって」

「仲良くするのですよね?それがどうして部下になるということに?共生することも出来ると思いますが」


 フィセラもそれは分かっている。

 だが立場があるのだ。

 配下のNPC達から主人だとか想像主だとか神だとか言われる毎日を過ごせば嫌でもわかる。

 足元にいる虫けらを無視することを許されないのだ。

 飼うのか、それとも、踏み潰すのか。

 2択なのである。


 そして、それを選ぶ側も選択肢は同じだった。


「悪いんだけどね。……はいかいいえで答えてくれる?」

 少し申し訳なさそうな顔をするフィセラ。

 だが、アルゴルはその小さな瞳から光が消えたことを見逃さなかった。

「フィセラ殿、申し訳ない。我らはただの戦士なのです。あなたの問いに答えることは出来ません」


 答えることを躊躇したことは確かだが、彼らがジャイアント族全体の未来を決める権利を持っていないことも事実だ。

 たとえ、部族に伝わる至宝を受け取っていようとも集落の守護を担う戦士に過ぎないのである。


「フィセラ殿の提案をお受けするかどうかを決められるのは、長老会のみです。命を救われた大恩があります。私が紹介しましょう。それだけの力は持っているつもりです」

 アルゴルはそう言って剣を地面に突き立てた。

 至宝を持つ戦士としての約束ということだろう。

 だが、フィセラは何かを渋っていた。

「それは後でお願いするわ。その長老会が一番偉いなら、事前情報なしの私たちをどう思うのかを知っておかなくちゃ」


 なにも敵対をしたり挑発をしたりはしない。

 ただ、救われたという者の視点からではない普通のジャイアントとしての第一声が聞きたいのだ。

 

 フィセラはアルゴルから長老会の方向を聞き、颯爽と飛び去って行く。

 白銀竜が飛び立つ時はとても穏やかな風を起こすだけで、優雅に舞い上がった。

 

 そんな光景を見ながら、ジャイアント二人はしばし黙っていた。

 ナラレが先に沈黙を破り、アルゴルに言った。

「長老会が滅ぼされても、お前のせいにしないでやる」

 アルゴルはムッとしながら反論する。

「俺が長老会の名を出すのは自然なことだ。それにもし滅んだとしても、それはあの爺さんたちがフィセラ殿の力に気づかないほど年を取ったということだ。いや…………絶対いらないこと言いそうだな」


 その時、いくつもの足音が二人の下に近づいてくるのを感じた。


「お~いお前たち!無事かー?」

 叫びながら走って来たのはへグエルだった。

 背後に戦士を何人も引き連れている。

「ここに来る途中で負傷したもの達に聞いた。ギガントがいたそうだな。お前たちは無事か?」

 アルゴルは見ての通りだと肩をすくめる。

 そして、大事な話をしようとアルゴルが口を開こうとすると、ヘグエルが二人にしか見えないように手でアルゴルを制した。

 アルゴルは振り返る部下に命令を伝える。

「ここは大丈夫だ。戻ってあいつらのケガの手当てをしてやれ」


 アルゴルは周りに誰もいなくなるまで待つと、やっと口を開いた。

「白銀竜がこっちの方角から飛んできたのを見た。お前たちも見たか?」

 部下に聞かれないようにするということは、白銀竜を確認したのはまだへグエルだけのようだ。

 アルゴルは事も無げに答えた。

「ええ。彼女たちに助けられた」

「彼女?」

「彼女は白銀竜と共に長老会に会いに行った。入れ違いでしたね」


「…………は?」


 

 最強の戦士が三人集まった後、そう時間をかけずにフィセラは長老会の面々と顔を合わせることが出来た。

 話していた時間はごくわずかだ。


「我々は人間に故郷を追われた種族の子孫、同じ人間に従えるわけがないだろう」「ジャイアントは戦いに生きる種族である、だが、わしらはとうの昔に戦を捨てた。武器や技を受け継いでも、戦いはしない」「恐ろしき白銀竜を連れ、血の匂いを漂わす女よ。即刻ここから立ち去るといい」「向こうの山にも、ある種族がいる。あれらの下に行ってみるといい。その者らがあなたの機嫌を損ねたならば、存分に滅ぼしたまえ」


「クソが!巨人どもめ!てめぇ等は滅ぼしてやろうか!」

 フィセラは白銀竜の背に乗って上空を飛んでいた。

 すでにジャイアント族の集落を離れている。


 フィセラは受け入れる気など更々ない長老会によって追い出されたのだ。


「それにある種族ってゴブリンのことでしょ?お前らがゴブリンと小競り合い中っては知ってんだよ」

 フィセラはヘイゲンの報告によってゴブリンの出現は把握していた。

 ――つまり、体よく私を使おうとしてるってこと?

「……マジで滅ぼすか」

 NPCたちはフィセラが興奮しながら言った罵詈雑言には、ただ困惑していたが、冷徹につぶやいた言葉には目の色を変えた。


「いつでもいける」

(僕も準備は必要ありません。ご命令を、フィセラ様)


 途端にジャイアントを滅ぼす気になった二人を見て、ようやくフィセラは落ち着いてきた。

「ま、まあ、あのぐらい許してあげましょう。シルバーを見て怖がってたからね、半分はシルバーのせいよ」

 シルバーが人の顔を持っていれば面白いほどの驚愕の顔を見られただろう。

 

 そしてムーンとコスモは感動していた。

「やさしいです。ご主人さま」

(寛大なお心、僕も見習います!)


 一行は集落の上空から抜けて、山へ向かっていた。

 砦がある大山ではない。

 ジャイアントが示した山、ゴブリンの巣くう山。

 1200年前、アゾクと名乗るゴブリン王の下で積み上げられた石の山へと、向かっていた。


「絶対!従える気は無いけど、顔ぐらい見ておこっかな」


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