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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
業火の月と落ちる星空、鉄を打つ巨人兵団
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二人と一匹と一体(4)

 アルゴルは見た。

 白銀に輝く鱗を持つ竜の姿を。

 その姿はまさしく生物の王、世界の王のようだった。


 ギガントに挟まれたアルゴルは竜の姿を一瞬だけ捉えた。

 その後は見失ったのか。

 違う。

 飛ばされたのだ。

 白銀竜によって巻き起こされた風が壁となって、アルゴルやギガントまでを吹き飛ばした。


 ゴロゴロとアルゴルは転がるが、すぐに剣を杭のように地面へ突き刺し止まる。

 対して、ギガントたちは周囲の木にぶつかってすぐには立ち上がれなくなっていた。

 ギガントの包囲を抜けられたことを喜ぶ前に、周囲を確認する。

 

 ナラレは今の突風を槍を柱代わりにすることで耐えていた。

 おそらく誰よりも早く白銀竜の接近に気づいて、構えていたのだろう。

 強い女である。


 アルゴルは後方上空を見る。

 竜の姿を探したが、もういない。

 あの速度の飛行を、視界を木々が邪魔すれば、まず、肉眼で追うこと不可能だ。

「あれはたしかにドラゴンだ。それも白銀の鱗……奴は姿を消したはずじゃ」

 

「何している!アルゴル!来るぞ!」


 アルゴルが大山の方角を確認していた時、ナラレが叫んだ。

 その声は確かに彼に届き、アルゴルはナラレを振り返った。

 

 彼女は構えていた。それも上空を見てだ。

 だが、方角は竜が飛び去って行った方角とは反対、つまりついさっき飛んできた方角を見ていたのだ。

 

 アルゴルは嫌な予感がして空を見る。

「まさか、周って来たのか!なんて速さ!」

 そう言っている瞬間にも白銀竜は進み、ついさっきと同じような光景で突っ込んできた。

 アルゴルは構える。

 少しでも剣で逸らすことが出来得れば、上出来と考えてのことである。

 彼は白銀竜の巨体のせいで、竜の狙いを計れなかった。

 竜が狙っていたのは自分ではないということに気づかなかったのだ。


 頭を振りながらようやく立ち上がったギガントを、白銀竜は踏みつけながら大地に降り立った。

 ギガントの体は2,3メートルは地面にめり込み、白銀竜の足からはみ出た手足はピクリともしない。

 明らかな敵意を持った踏みつけだ。おそらく即死だろう。

 

 仲間を殺されたギガントが白銀竜の前に立った。

 高さだけ比べればギガントの方が頭1つ分大きいようだが、もはや細い体躯は小枝のようである。

 互いに咆哮を上げ、牽制を行う。

 だが、両者の体のつくりは決定的に違った。

 白銀竜は咆哮のために開けた大口のまま、首を伸ばしてギガントの頭を口の中にすっぽり覆ってしまったのだ。

 もちろん、その口にはギロチンよりも鋭い何百という牙があった。


 ゴクンッという音が竜の喉から鳴る。

 同時にズルッと竜の肌を滑って頭部のないギガントの体が倒れた。


 その時。

 

 今何を…………そんなの……ダメ……。


 アルゴルの耳に人の声らしきものが聞こえた。

 ギガントに一定の知能はあるが、言葉を持たない種族だ。

 ならば、この声はどこから発せられたのか。

 アルゴルは念のために周囲へ眼を配るが、人の気配はない。

「今、たしかに声が、まだ誰かいるのか?……いや、戦士たちは全員逃がした。もしや、このドラゴンが?」

 そんなはずは無い、と思いながら目の前に光景を観察しようとした時、白銀竜が動いた。

 ナラレの近くにいるギガントに目を付けたのだろう。

 白銀竜が自分の目の前を横切っていく。

「ナラレ!ギガントから離れるんだ!もうここにいる必要は……」

 アルゴルは言葉を途中で区切ったが、ナラレはしっかりとギガントから距離を取っていた。


 今、何かがおかしくなかったか?

 ドラゴンが目の前にいた。

 それだけだったか?何か上にいたような。

 まるで小さなジャイアントが……、いや、あれは人間?

 あの白銀竜の背に人間が乗っていなかったか?


 アルゴルが見た光景に漆黒の黒い影が確かに映っていた。


「シルバー、次は向こうのでかい奴ね」

 フィセラは思いのほか優雅にシルバーの背中で戦闘を見守りながら、時には指示を出していた。


 それは全て騎獣用の鞍の効果のおかげである。

 アンフル産のアイテムとして、あらゆる揺れを軽減し乗り心地を向上させる力が働いていたのだ。


「どっちだ?」

 シルバーは珍しくしゃべった。

 だが、その内容は驚くほど愚かであった。

「は?今、あんたが頭を食べちゃったモンスターと同じ奴よ!分かるでしょ!」

 

 ただの獣の形をしたモンスターならいいが、人型のモンスターの頭を飲み込んだ時はフィセラもかなり騒いでいた。


 そして、馬鹿な質問をしたシルバーに再度きつく当たる。

 了解の返事が返ってこなかったことで、少しキレかかっていた。

「もしかして、まだ分からないの?…………右の奴!」

 

 もちろんシルバーの目が悪い訳じゃない。

 問題はドラゴンという種族の特性だ。

 彼らは他のモンスターよりも敏感に、魔力や相手が持つ実力を測る。

 それによって、シルバーはギガントとナラレがほぼ同格と認識したのだ。

 それに、モンスターの方、と言われても、シルバーもモンスターなのだ。正直、何が違うのか分からなかった。


 フィセラの言葉に従いシルバーはギガントに向かって行った。

 どちらに立っているのか示されれば簡単だ。

 ギガントを押した押し、そのまま頭に噛みつき首の骨を折った。

 食らいついてもいいのだが、食べるなと命令された以上は従う必要があった。


「よし。次は……あれ?あの巨人は……ああ、合流したのね」

 シルバーは次に向かう方角を指示されて、そちらに体を向ける。

 その先にいるのは、ジャイアントが二人。

 牙を見せ深く唸りながら、近づいていく。

「おい」

 シルバーがビクッと体を震わせた。

 フィセラの怒りのこもった声を聴いたからだ。

「なに威嚇してんだ?敵はもういない、お前はもう何もするな。いいな?」

 シルバーは唸り声を少しずつ小さくしながら、頭を下げることで了解の意思を示した。

 その低姿勢のままジャイアントたちのもとまで行く。

 威圧感を与えないようにと、シルバーが考えた結果である。

 

 シルバーの背中からスル~とすべりながら降りたフィセラはジャイアントの前に立つ。

「さて、何から始めようか?」

 フィセラは、さも敵意がないよう態度で気さくに話しかけた。


「3つ聞きたい」

 アルゴルは額に大量の汗をかきながら、フィセラの正面に立った。

「何?」

「あなたのこと、そのドラゴンのこと。それと、我々をどうする気なのか」

「いいけど。どうする気なのかが最初の方が良くない?」

 

 フィセラはニコリと笑みを浮かべた。


「殺す気だったら、前の2つ意味ないじゃん」

 

 フィセラの場を和ますジョークは、ジャイアント二人の手を武器に触れさせるほどにウケたようだ。


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