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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
業火の月と落ちる星空、鉄を打つ巨人兵団
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二人と一匹と一体(2)

 フィセラ達がシルバーの背に乗って砦を出発する、少し前。

 ジャイアントのヘグエルは、長老会に参加していた。


 アゾク大森林のジャイアントの集落はとても広大だ。

 彼は、あるエリアの中にある30以上の小さな集合地を「家」と呼び、それらを自分たちの領域だと考えていた。

 家族の繋がり、もしくは役割で家は分けられるが、互いの繋がりはしっかりとある。

 そんな家の集まりを広く見て、集落と呼んでいた。

 集落の中心にあるのは、長老会だ。

 ジャイアントの寿命はおよそ200年。

 長老会にいるのは300歳を超えるジャイアントなのだ。

 普通のジャイアントでも、ここまで長く生きるものは少ない。

 言葉通り、長く老いている者達の集まりだ。


 円錐型の大きなテントの中には、ジャイアントが5人。

 長老たちが肩を寄せ合い座っている姿を見ると、会を開くには少しテントが小さいようだと分かる。

 ヘグエルは、長老たちと同じように床に胡坐をかいて座った。

 

「それで、ヘグエル。お前は何をしたいと申した?」

 長老の一人、老婆が話す。

 

 唯一の女であるジャイアントだ。

 伝統と重んじるということを体で体現するかのように、集落に伝わるまじないの品々を身に着けている。

 

 ヘグエルは端的に答えた。

「ゴブリン共との戦です」

 すかさず老婆が口を開いた。

「我らジャイアントは戦を」

 老婆が厳しい口調で話し始めたのを、他の長老が止める。

 

 老婆の隣にいる筋肉質な長老だ。

 ヘグエルに斧の扱いを教えた師匠の、そのまた師匠である。

 

「先に話を聞こう。ゴブリンによる被害はどれだけ出ている?」

 歴代の長老としても珍しい、戦士としてここまで長く生きた彼だ。

 同じ戦士であるヘグエルを尊重してくれているのだろう。

 ヘグエルはあまり目立たないよう頭を下げる。

「ゴブリンはこれまでに2つの家を壊滅させています。そして、今日で3つとなりました。今日、ゴブリンは2つの家を同時に襲撃し、俺たちは片方の襲撃に気づかなかった。……暗がりの家にいるすべての者たちを明かりの家に移します。すでにアルゴルを動かしました。長老会の許可をもらう前に行動したことをお許しください」

 ヘグエルは許しを懇願する言葉を口にしているが、申し訳なさを少しもない。

「構わん、早急に移動させるのだ。物資はあとから戦士たちが運べばいいだろう」

 他の長老が問題なしと判断した。

 

 ヘグエルは許されることを分かっていたのだ。

 戦いから逃げるような行動であれば、長老会は文句を言わないということを。


「ならばそれで解決ではないか?なぜ戦を望む?」

 老婆の何も理解していないような言葉が、ヘグエルを刺激する。

 だが、耐える。

「この避難で状況は変わるでしょう。だが終わることはありません。必ず、ゴブリンはまた来る。明かりの家のみに集中すれば守りやすくなる。だが、それだけです。こちらから攻めなければ何も」

「戦争を始めたいのか?」

 その言葉がヘグエルの最後の忍耐力を超えた。

 長老たちは、なおも続ける。

「ゴブリンは、たかがモンスターだ。最近生まれた新たなゴブリン族が、腹を空かせて我らの集落まで来ているだけかもしれんぞ。そんな中、我らから攻めれば古のゴブリンが契約を破られたと知るかもしれん。そうなった時、お前に責任が取れるのか?」

「責任が取れないからと、仲間を守ることをあきらめるのか!?」

 ヘグエルは殺気立つ。

 長老たちは、声を荒げるな、と煩わしそうだ。

「なぜ気づかん?老いぼれ共!すでに戦争は始まっている!とうに契約など破られた!」

「口を慎め!ヘグエル!」

 元戦士の長老も怒気を強める。

 だが、現最強の戦士がそんなものに怯むことは無い。

「ここで何もせず死ぬのを待つか?それもいいだろう。あんたらは先の短い命だからな。……ならば願おう!あんた達の寿命が尽きる前に、俺たちに滅びが訪れることを!」

 ヘグエルは、出口となるところに掛けられた布を乱暴に開く外へ出て行った。


 残された長老会。

 怒りを持つ者はいなかった。

 元戦士の長老も穏やかな顔だ。

「あの子はまだ若い。耐え忍ぶことで得られる平和を知らぬのだ」

「それで良い。白銀竜が消えた今、あの長い夜のことは子らに伝える必要はないだろう」


 歴史を引き継ぎ、伝承を残す。

 それを使命とする長老会の言葉とは思えない発言だ。

 彼らは、前回の白銀竜の出現を経験していた。

 竜に気づかれないため息を殺し、寒い夜だろうとたいまつ一本つけることも許さない長い半年だった。


「白銀竜が消えたのだ、山を通って森を抜けるのは?ゴブリンという驚異があるのなら、それも1つの手だろう」

「森の先には人間という驚異がいる。我らの伝えられた最初の歴史だぞ、故郷を追われた先祖を忘れたか」

「ならばどうするのだ?」

 老婆はゆっくりと答えた。

「時期を待つのだ。我らは滅びん。我らは、いや……あの子たちは強い」


 ヘグエルはテントを出て、少し歩いていた。

 長老会のある「家」は集落の中心、人は多い。

 周りの彼らに聞こえないように文句を言う。

「長老会め!歴史を伝え残すことだけをしていればいいというのに、なぜ権力を持っている。このままでは……」

 その時、空気が変わった。

 

 些細な変化だ。言葉にもできない微妙なものだ。

 周りいる他の者は気づいていない。

 ヘグエルがあたりを見回すが、何も発見できなかった。

 すると、突然、空から轟音が降って来た。

 魂を圧迫するような轟音だ。

 だが、そう感じたのはまたしても彼だけだった。

 周りのジャイアントたちは、獣が近くにいる、遠吠えだ、と言っている。

 へグエルもそうだ。聞こえたのは小さな獣の声だ。

 だが、そこにある力はただの獣ではない。


 ヘグエルは一番近くにいるジャイアントを呼んだ。

「長老たちに伝えてこい。奴は……白銀竜は、いなくなってなどいないと」

 それを聞いたジャイアントの顔はみるみる血の気が引いていくが、構っている余裕はない。

「行け!」

 ジャイアントは走っていく。

 それと入れ替わりになるように他のジャイアントが走って来た。

 槍を背負った戦士だ。

「1つの斧、ヘグエル。報告が!」

 真っ青な顔な戦士を見て、ヘグエルは報告の内容を察する。

「分かっている。長老の判断を待て!」

 戦士は不思議そうな顔を浮かべた。

 なぜ?という戦士にへグエルはあきれる。

「俺達でどうにか出来る相手ではない。もう遅いかもしれんな」

 いっそう戦士は混乱していた。

「相手はゴブリンですよ?まだ間に合います!明かりの家に出たゴブリンと戦いましょう!」


「…………何だと?」


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