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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
業火の月と落ちる星空、鉄を打つ巨人兵団
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ジャイアント

 未開領域。

 誰も踏み入れることの許されない危険地帯。

 そのうちの1つであるアゾク大森林。

 果ても見えない森林からすれば極めて浅層である、ある場所には見上げるほどの大山があった。

 

 その大山の背後には比較的安全な地帯が広がっている。

 その地帯には、付近の魔獣を超える大きさの人型の生物がいた。

 巨人だ。

 一般にジャイアントとも呼ばれる人間種である。

 森で生息している彼らは、決して野蛮な者達ではない。

 確かに彼らの服装は獣の毛皮や皮から作られたものが多いが、木の皮から繊維を取り出しそれを編んだ服もある。

 文化や知性のある種族なのだ。

 未開領域の中を好む種族ではないはずである。

 

 ジャイアントを勘違いする人間は多い。

 ゴブリンやオーク、オーガ。亜人と言われるモンスターだ。

 ギガントやサイクロプスなど、巨人を超えるモンスターもいるが彼らは人間種とは違う。

 知識のない者達は、ジャイアントはこのようなモンスターの近縁種だと言って恐怖する。

 だが、違う。

 エルフやドワーフも人間だと認めているのに、なぜジャイアントはダメなのだろうか。

 ヒューマン以外の人間種がそうであるように、ジャイアントも環境に適応しようとした種族だ。

 自然や精霊を愛したエルフ、土と鉄、火を身近に置いたドワーフ。

 巨人は戦いにその身を置いたのだ。

 百年、千年、万年の時を戦場で死に、また生まれた。

 強大なもの達へ立ち向かうために、強さと大きさを求めた真の戦闘種族。

 それこそがジャイアントである。

 

 巨人と共に生活を送る人間はいる。

 巨人を神とあがめる国家もある。

 だが、ある無学の国はジャイアントをゴブリンやオーガと同じだとみなし領地から追い出したのだ。

 アゾク大森林のジャイアントは、その怒りの火をかすかに残しながらひっそりと暮らしていた。

 つい最近までは。


「下がるな!前に出ろ!……今が好機だ!」

 あるジャイアントが切り倒された大木を軽々と投げた。

 それが落ちた先には、ワラワラと動く小さな影がいる。

「ゴブリンを優先して殺せ!こいつらがいなくなれば後はどうにでもなる!」

 ジャイアントは足元に走って来た小さな影、ゴブリンに斧を振り下ろす。

 ゴブリンからすれば、その鋭さなど意味はない。ゴブリンよりも大きな刃が、その小さな体を潰した。

 斧を持ったジャイアントの左右に並ぶようにいた他のジャイアントも剣や槍を使ってゴブリンを掃討していく。

 中にはゴブリンの倍はあるオークの姿もあるが、ジャイアントはさらにその倍だ。

 真正面から戦えば敵ではない。


「これで終わりだ!」

 ジャイアントが斧をゴブリンへ振り下ろす。

 彼が切ったのは岩に乗って他の亜人や魔獣に指令を出していたゴブリンだ。

 斧を持ち上げると、ゴブリンだけではなく岩さえも真っ2つになっていた。

 その様子を見てひとりのジャイアントが声をかけて来た。

「さすが、1つの斧だ。ヘグエル。あなたには敵わないな」


 この巨人の部族では、戦士は3つの武器を選ぶ。

 剣、槍、斧。

 ヘグエルは最も力強く英雄的だと言われる斧を使う戦士だ。

 さらに、それぞれの武器には至宝と呼ばれる武器はあるのだが、それを授かっている最強の戦士でもある。


「お前も無傷じゃないか。その剣が似合う戦士になったな。アルゴル」

 アルゴルと呼ばれた男も、ヘグエルと同じく剣の至宝を持つ最強の戦士だ。

 それほど歳は離れていないが、戦士としての力量は全く違う。

 アルゴルは、この称賛を素直に受け取った。

 二人はそれぞれ自分の武器に着いた血のりを拭き始める。

 戦闘後の至宝の手入れはこの武器を受け取ったときにした部族との約束の1つだ。

 ヘグエルは肩にかけた大型魔獣の毛皮に刃をこすり当て、アルゴルは乾燥した草で出来た布切れを使っている。

 この光景はいつものことだ。

 それを承知している他の仲間は、敵の残党がいないかを確認している。

 体格差があるためしゃがみ込んだりはしない。

 転がっている体を踏みつけてうめき声をあげないかの確認だ。


 そうやって亜人の体を踏みつける巨人たちの間を縫って、あるジャイアントが二人の下へ走って来た。

 あまり見ない顔だ。

 ヘグエルが率いる戦士隊の者ではない。

「1つの斧・ヘグエル。1つの槍・ナラレより報告を預かっています」

 ヘグエルが、話せ、と促す。

「暗がりの3つの集落でも亜人が出ました。命からがら逃げて来た子供の救援を受けて、ナラレが向かいましたが既に集落には誰も……」

 暗がりの3つ。

 大山の影となるエリアにある集落の数え方だ。

「連れていかれたか?」

「正確な数は分かりませんが、明らかに死体の数が少なかったです。ナラレがあなたにこの先の行動を聞いていました」

 ヘグエルは苦い顔を浮かべた。

「後を追うこと許さん。長老会の決定だ」

 それを聞いて、報告をもってきた男は帰っていた。

 

 男の背中が見えなくなると、二人は会話を再開した。

「アルゴル。暗がりの集落のすべての者を明かりの下へ連れていけ」

 これまで、亜人からの襲撃を受けているのはすべて暗がりの集落だった。

 ヘグエルはこれ以上、ここに留まるのは危険だと判断したのだ。

「分かった。あなたは?」

「長老会へ行く、皆を任せたぞ」

 ヘグエルは戦士隊の者にもこれからの動きを説明すると、独り森の中を歩いていく。

 

 ヘグエルは大山の陰になっているだろう太陽を探そうとする。

 だが、何も見つけられない。

 それほど山は大きく。影は深かった。

 数十分も歩くと、太陽の光が山の縁からあふれ出しヘグエルを照らす。

 光の下を歩きながら、ヘグエルは怒っていた。

「古の魔王アゾクの契約を忘れたか!?ゴブリンども!」


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