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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
業火の月と落ちる星空、鉄を打つ巨人兵団
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砦探索(4)

 フィセラの出現に、二人のNPCは即座に平伏をする。

 ホルエムアケトは音より速く膝をつき顔を伏せた。

 ルペラナも顔を伏せたがまだ宙に浮いている。

 浮遊効果のある羽衣では、即座に地面に降りることは出来なかったのだろう。

 フワフワとゆっくり地面に降りていく。

 

 ホルエムアケトが額に一滴の汗を浮かべた。

「フィセラ様。いつこちらに?」

「今さっきだよ。まあ、それは気にしなくてもいいよ。なにしてたの?」


 今はまずい。

 ゴーレムは粉々だし、フィセラ様に任された白銀竜もあの状態だ。

 やばい、怒られる~。


「そうなのですね。白銀竜の特訓に集中していて気づきませんでした。申し訳ありません」

 ホルエムアケトはより深く頭を下げた。

「特訓ね~。あんまりやりすぎは良くないと思うけど……」

 フィセラは静かに鑑定魔法を発動した。

 ――レベル上がってんのかな?…………え?マジで上がってる!89。確かに、80レベル台ならまだ簡単にレベルが上がるけど。こいつはずっとこの階層にいたはず、経験値はどこで手に入れたの?

 白銀竜の以前のレベルはゾロ目の88。

 偶然覚えていたレベルから確実に1つレベルが上がっていた。

「特訓って何してたの?詳しく、教えて」

「は、はい!でも詳しくと言われましても、ほとんどは殴ったり投げたりばっかりで……」

 ――何も倒してない?いや、ここはゲームの世界じゃない。「討伐による経験値」は必要ないんだ。「戦闘から得た経験」が重要だとしたら、ホルエムアケトとの闘いで生き残ったのは、確かに自分を強くする経験になる。……面白い!

 フィセラは、それで……あの……召喚で……、とまだしゃべっているホルエムアケトの頭になでる。

「仕事を頑張っていたみたいね。お疲れさま」

 フィセラの言葉に、ホルエムアケトはキョトンとしたがすぐにとろけたような笑顔で頭を撫でる手を満喫し始めた。

 

 半神半獣の120レベルNPC。

 褐色の肌は艶と張りがあり健康的だ。その肌にある白い紋様は、全身に繋がっている。

 白い髪は腰まで伸びているが、あまり整ってはいない。まるで獣の毛皮のようだ。

 ガウンのような装備を付けているが、肩にはかけず腕を通しただけで服は背中に垂れている。

 そのせいで、肩や胸元が隠されておらず野生的な雰囲気を纏っていた。


「……頑張ってたのは分かるけど、あれは大丈夫なの?」

 ホルエムアケトの頭から手を離すと、それを追うように頭も付いてきた。

 だが、フィセラが話し出すとすぐにそちらに注意を向ける。

 フィセラの視線の先にいるのは、やはり白銀竜だ。

「回復とかしないの?ずっとほっといてるけど……」

「それではすぐに!……よろしいですか?」

 今すぐに駆けていきたいがフィセラの許可なく御前を離れる訳にはいかない。

 やらなくてはいけないことがあるけど足がくっ付いて離れない、という様子でフィセラに許可を求めた。

 フィセラが頷くと、ホルエムアケトを後ろを振り返った。

 カエルように手を地面に着いて、足を限界まで折り畳み太ももが膨張する。

 そして、残像を残すほどの速度で竜の元まで跳んで行った。

「そこまで本気で行かなくても。ま、いっか」


 白銀竜の元までついたホルエムアケトは、ドラゴンの鼻先まで素早く移動した。

 良い位置を見つけた彼女は、大きく息を吸った。

 そのまま何秒間も吸い続ける。

 そして、白銀竜に向かって、一気に吐き出した。

 吐き出された白い煙は、竜の鼻先に当たるとそのまま体を沿って全身へまわっていく。

 どこからどう見ても攻撃にしか見えないが、いきなりそんなことを行うほどホルエムアケトは馬鹿ではない。

 一応回復スキルなのだ。

 彼女が持つ、唯一にして最上位の回復スキル<神の吐息>。

 使用者が違えば、もっと優しい光景になるだろう。彼女のそれはまるで咆哮だ。

 だが、どう使おうと効果に問題はないようだ。

 白銀竜の手足がかすかに動き、翼が砂を舞い上がらせるほどしっかりと動き始めた。


 そんな光景をよそに、フィセラはルペラナと会話していた。

「少し見てたけど……ゴーレム壊されちゃったね。もったいない」

「召喚されたモンスターは私の管理下にありました。責任はすべて私にあります」

「誰が悪いかの話をしたら……」

 ――絶対、ホルエムアケトが悪いよね。あの攻撃は手加減なしだったもん。でも、召喚されたモンスターで怒ったりはしたくないな。

「……あれも人間を使って召喚したモンスターでしょ?そのモンスターでも体力を直接減らされたら消滅するって結果が得られた。ってことで、良しとしましょ」


 人間を使った。

 その言葉通りの意味である。

 フィセラは少し前に、カル王国の白銀竜討伐を目的としたある部隊を壊滅させた。その時に、いくらかの人間の死体を手に入れていた。

 その人間を犠牲にして召喚魔法を行使すると、どういう訳か活動限界が無くなっていたのだ。

 本来は時間経過や体力消費で消滅するはずのモンスターが、どれだけ時間が経とう消滅しなくなった。

 これは、大事件である。

 ギルド・エルドラドの戦力を何倍、何十倍にも出来る可能性を持っているのだから。

 そのため、より詳細を探るために実験を行っていたのだ。

 

「寛大なお心に感謝いたします」

 ルペラナは淡々とそう言った。

 消滅するなんてことはとっくに分かっていたのかもしれない。それでも、フィセラの配慮を無視できないのだろう。

「あれは人間何体分?」

 召喚するモンスターによって、使用する人間の死体の数が変わることは事前に聞いていた。

 無駄になってしまったものを聞いても仕方ないが、興味本位で聞いてしまう。

「50体分です。……ゴーレム一体につき」

 そんなに、とフィセラ顔が少し引きつる。

「はぁ~。他のモンスターは問題なし?人間の残りは?」

「すでに呼び出したモンスター78体は今も現界しております。人間の残りは……コスモ様の方がお詳しいかと」

 ルペラナはフィセラがずっと抱えていたスライムに目を向けた。

 そう、砂漠に来てからずっと抱えていたのだ。

 

 ホルエムアケトが言及しなかったため、ルペラナも突っ込まなかったが、ステージ管理者であるコスモがフィセラに抱えられている状況はずっと気になっていた。

 ホルエムアケトに関していえば、フィセラしか見ておらずコスモに気づいて可能性もあるが。


 ルペラナはコスモを無視し続けることが出来ず、つい話を振ってしまった。

 コスモの方が詳しい、と聞いてフィセラは閃いた。

「ああ。地下2階の牢屋に入れてるのね」

(はい。涼しいですから)

 コスモの返答にフィセラは素直に頷いたが、あまり理解はしていなかった。

(人間の体は、合わせれば約300体分ほどです)

 ――合わせれば?そんなに沢山いたら、牢屋も1つじゃたりないのか。


 フィセラは勘違いしているが、数を合わせたらという意味ではなく、体を合わせたらという意味である。

 フィセラが召喚した<黒い百足>によって、もともと4千人はいた兵士たちは無残に食い荒らされ、五体満足の体をひとつもなかったのだ。

 つまりこういうことだ。

 バラバラの四肢を誰かの胴に合わせれば、1体分。

 その数300体。


「ふーん、そんだけか。じゃあ適当に全部使っちゃっていいよ。残すのは気持ちわるいしね」

 

 フィセラは入手したアイテムを、微妙に残すが好きではなかった。

使うのなら、全部使ってしまう方が気持ちがいいのだ。

 アイテムボックスの整理もしやすい。


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