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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
 滅竜の先導者と蟲毒そして白銀の鱗
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エピローグ・ラガート村

 のどかなお昼時。

 少し気温が下がり、朝起きるときに少しだけ毛布を外す覚悟が必要な季節。

 それでも、まだ服装を大きく変えるほどではないような、そんな日。


「フャイヤー!」


 ラガート村は、フィセラや白銀竜、王国軍が来る前の姿を取り戻していた。

 不思議なほど簡単に元通りの日を送ることが出来ていた。


「フャイヤー!」


 村長や村の大人たちはフィセラが誰なのか知ろうとはしなかった。彼らの中ではその必要がなかったのかもしれない。

 彼女は、この地に君臨した「フィセラ」なのだ。

 知ることはそれで十分なのだろう。


「フャイヤー!」


 村人は黒髪に赤目、服装も全く違うをフィセラを見ても大きく驚くものはいなかった。

 似合っている、あなたらしい、と言う村人もいたことで逆にフィセラが驚いていたほどだ。

 そんなフィセラを、一番すんなり受け入れたのは、ソフィーだった。

 たとえ子供だろうと、目も耳も心もある。ソフィーなりに感じるものがあったようだ。

 

 そして、その当人たちはラガート村を大きく外れた平原で黒い煙を立ち昇らせていた。

「フャイヤー!」

 フィセラはそう言いながら、前方に指をさした。

 ソフィーはその方向に手をかざして、フィセラの真似をするように大きく叫んだ。

「フャイヤー!」

 すると、ソフィーの手のひらから炎の塊が高速で飛び出した。

 30メートル離れた地面に着弾すると、大きく炎が燃え上がり、轟音は上げる。

 遅れてやってくる爆風に耐えながら、二人の後ろにいたフランクが声をかけた。


 彼はソフィーの父親。村で唯一の狩人だ。

 村の中では頭1つ分レベルが上だ。


「まだ続けるのですか?この特訓?は」

「もちろん、体力を増やすために体を酷使するように、魔力を鍛えるには魔力を使うのが一番!魔力が枯渇するぐらい続けたいけど、ちょっと時間かかるね」

 後ろでそんな会話をしていても、ソフィーはお構いなしに炎の玉を打ち続けている。


 この日の朝、いきなりフィセラがソフィーのもとへ来て、あるアイテムを渡した。

 指輪の形をしたマジックアイテムで、レベルは48。指輪には中級魔法の<火炎球>が内包されている。その程度の魔法行使アイテムでは、58レベルは少し高い。

だが、それには理由がある。

 まず、所有者に魔力消費をほとんど求めない点。それと、所有者の魔法適性に依存しないで所持できる点。

 この2つがあるからこそ、少し高いレベルのアイテムとなっていた。

 ソフィーの安全を守れるようなアイテムで、さらに鍛える。

 その目的を果たせそうなアイテムがあまり見つからなかったのは、公言しないようにするべきだろう。


 ――魔力減らないからあんまり意味ないかもな~。

 かれこれ、30分は「フィイヤー」(意識すれば魔法は発動するため、気持ち的な掛け声)を叫び続けるソフィーの隣でそんなことを考えるフィセラ。

「戦闘が一番なんだけど……それはまだ早いよね」

フランクは、信頼するフィセラだろうと娘を戦わせることの容認はさすがに出来ないと考えた。

 だが、自分で発言を撤回したフィセラにそっと胸をなで下ろす。

「ま!続けてれば強くなるでしょ!」


 フィセラの強さは経験「値」によるレベルアップだ。

 この世界の成長の方法が分からないため、かなり適当な特訓ではある。

 それでも、アイテムを持たせるだけで、ソフィーの安全度は跳ね上がる。


 ――アイテム武装させれば、この前会った三極って奴らと同じぐらいの強さにはできるけど、過剰防衛かな?

 ソフィーでも、扱えるようなアイテムをいくつかリストアップしていたが、途中であることを思い出した。

「あ、そうだ。ソフィー。……ちょ、聞いてる?」

 もはやこの世界で、最高ランクの冒険者でも持つことがかなわないアイテムに、ソフィーが熱中してしまうのも無理はない。

 フィセラがソフィーの肩を叩いて振り向かせた。

「私は明日から何日か村に来られないと思うから、寂しがらないでね」

 村意外にどこに行くのか、それを正確に知っている村人は一人もいないが、皆それを詮索せずに受け入れていた。

「うん。分かった」

「次来るときは、またプレゼント持ってきてあげるからね」

 今日のような破格のアイテムをまた持ってくるようだ。20年冒険者をしていたフランクが、その間に稼いだ金額でも買えないようなアイテムを旅のお土産のように渡すフィセラに、少しフランクは恐ろしくなる。

 と言っても止められる訳もない。


 フィセラ、ソフィー、フランク。

特訓も早々に切り上げて帰ることにした。フィセラがソフィーの魔力量が全然減らないのを見て、アイテムのレベルが高すぎたか、と後悔し始めたことが原因ではないはずだ。


ラガート村まで続く道。

モンスターも盗賊も軍人もいない。平和な道だ。


三人が横に並んで村に帰る途中、フィセラが世間話のように二人へ語り掛ける。

 それは何気ない疑問なのか、彼女のこれからの予定を暗示するものなのか、ソフィー達にはわかない。だが、いつもと変わらない様子のフィセラの質問を、黙って聞くことにした。

 彼女をこう聞いたのだ。

「ねえ。巨人って知ってる?」


これで第1部「滅竜の先導者と蟲毒そして白銀の鱗」が完結しました。


すぐに第2部が続きますが、ぜひ第1部の感想をいただけると嬉しいです。


今年や来年でも終わらない長編を考えているので、興味が湧いた方はブックマークをお願いします。第1部としての評価で構いませんので★評価もお願いします。

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