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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
 滅竜の先導者と蟲毒そして白銀の鱗
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報告会

「ヘイゲン!ウチの手柄を横取りしたな!?ズルいぞ!」

 ホルエムアケトがヘイゲンに詰め寄った。ヘイゲンは煩わしそうに落ち着いて答える。

「手柄とは?」

「太陽時計のことだ。あれはウチが提案しただろ。使い方も教えたのに!お前だけ褒められていたじゃないか!」

 確かに、フィセラが太陽時計について褒めたときの視線はヘイゲンに向いていた。

 

 ホルエムアケトが管理するステージはほとんどが砂漠だ。一部にはオアシスがあり自然に近い環境を作っているため、地下でありながらも空を再現したかった。そうして、ギルドメンバーによって太陽時計が加えられた。他にもいくつかのアイテムを使って1日の空の動きを再現していた。

 他の地下ステージでは火の明かりや光る鉱石を使っているが、地上階ではそれらの光源では足りなかった。

 農場では昼夜の区別が必要な田畑があるらしく、太陽時計の仕様が検討された(他アイテムは使っていないので夜はかなり暗くなる)。

 そこで、一応は管理者としてステージに使用されているアイテムの使用方法を知っているというホルエムアケトが太陽時計を設置した。

 

「お主が主張すればよかったのだ。あれは伝え方も悪かったのう」

 ホルエムアケトは否定できないようで、グヌヌヌと唸っている。

 

「馬鹿が露呈したやつはほっといて、なんでお前は一言もしゃべらなかったんだ」

 ベカが足元のスライムを足蹴にした。プルンッとコスモの体が揺れる。

(……僕が念話を使ったときにフィセラ様の表情が少し、動いた気がしたんだ。念話を不快に思ったのかもしれない。だから、黙ってた)

 

 <念話>というスキルは言葉通りの効果しかなく、特別な能力はない。アンフルでの仕様はテキストメッセージが送られてくるというものだった。

 コスモは相手にのみ念を送るだけでなく、<公開念話>という一定範囲に念が届くスキルも有している。

 今はそれを使っている。

 

「へ、へぇ~、それはかわいそうにな」

(どちらがだい?)

「てめえと誰を比べようとしてんだ?おい」

 カラが止めに入る。

「よしなさいベカ」

「あ?」

 ベカはなぜだがカラにはあたりが強い。ベカという存在に書き込まれた設定の影響なのだろう。

 カラはコスモに心配ないと語る。

「コスモ。私も見ていたけど、フィセラ様は嫌な顔なんてしていなかったわ。あなたの気にしすぎよ、元気をだして」

(カラ。君は喋れるじゃないか。僕の気持ちが分かるのかい?)

「え~!?」

 なぜかコスモの矛先がカラに向けられてしまったが、それを見てベカは大笑いだ。

「ヒー、面白いぜ。……お前らは何で今になって黙ってるんだ?お前らの顔は分かりにくいな、なんの顔だ?それ」

 ベカは、静かにたたずむレグルスと腕を組んでいる梅心に声をかけた。二人の身長はかなり高いので、ベカは大きく見上げる形になっている。

「怒りだ」

 獅子顔から予想していなかった言葉と低い声が返ってきた。

 ベカは緊張感のない様子で、単純に理由を聞く。

「……なんで?」

 レグルスは自分のこぶしを強く握り上げる。

「自分の不甲斐なさに腹が立つのだ。俺があの場で侵入者を倒せていれば、フィセラ様に逃亡という選択をさせてしまうこともなかった。情けない!」

「貴様の責任ではない、レグルス。ここのいるすべての者の究極の意義は、砦を守ることにある。だというのに侵入者が来ても何もしなかった我らこそ、情けないだろう?……誰にも非はないさ」

「そうだと、いいな。すまん。」

 レグルスを梅心が慰めている。大男たちの傷の舐め合いにベカはたまらず。

「きも」

 設定で互いの関係が記されていなければ、管理者を含むNPC達は互いのことをほとんど知らないはずだが、異様に仲が良い二人に女性管理者は若干引いていた。

 

 カラは、みんなの注意を引かないようにそっとヘイゲンへ話しかける。

「ねえヘイゲン。あなたはフィセラ様のお話を聞いてどう思った?」

「どうとは?」

「創造主の方々を置いて来てしまったという話よ。それはあり得ないのではと、私は思うのだけど、あなたはどう思った?あなたが、ただ聞いていただけなんてことはないでしょう?」

 ヘイゲンの目つきが鋭くなった。

「お主はフィセラ様のお言葉を疑っているのか?」

 そんなヘイゲンの詰問にカラは気にする素振りもない。

「あなたがそう言うってことは、やっぱり私と同じことを思ったのね。悲しいわね」

 カラが怪しい動きをすればベカが必ず気づく。

「何がだ?」

 ヘイゲンとの会話を監視していたベカが会話に割って入って来た。

 何も答えない二人に我慢できず。

「おい!なんの話をしてたんだ!?」

 ベカの大声によって離れていた他の管理者も近づいてきてしまう。

 カラはため息をつきながら頭を抱えている。代わりにヘイゲンが自身の考えを打ち明けた。

「お主たちは、わし等をお創りになった創造主をどんな方々だと思う?」

 ベカたちは逆に質問されるとは思わなかったため、すぐに答えることが出来なかった。だがすぐに、それぞれがイメージを口に出し始めた。

 

 梅心は言う。

「地獄の王を彷彿させる方々だ」

 コスモは言う。

(神様のような方々だよ。あの方々がすることはまるで神の戯れだよ)

 ベカは言う。

「超強い人達だ!」

「ウチも。ウチもそう思った!」

 ベカに小突かれながらホルエムアケトが同意した。

 レグルスは答えなかった。少なくとも実力という点では、主人に匹敵する敵と戦闘したことがあった彼はより適切な言葉を探していたのだ。

 カラも答える気は無いようだ。

 

 みんなの意見を聞いたヘイゲンが語りだす。

「ふむ。フィセラ様はアイテムの転移効果によりこの世界に来たとおっしゃっていたな。それが失敗であれ、異常事態であれ、そんな尊き方々が何もできないのか?1つのアイテムが引き起こした事態を?100レベルアイテムという至宝の制御。フィセラ様おひとりでは解決できないかもしれない。助けが必要でも、わし等ごときの力など何の足しにもならないだろう。だが、ここにはいない22人の御方々ならば?」

 ホルエムアケトが閃く。

「この状況を解決できる!」

「わしはそう思う。あの方々ならばな」

「帰ってきてくれるんだな?」

「それは違う!」

 ヘイゲンのプレッシャーに管理者たちが圧される。

「出来るのに行わない理由は?……分からないか?それを行う必要が無いからだ。ここを探す必要が無いと考えられたのかもしれない。……我らはその程度の価値であったのかもしれないのう。だが!」

 全員がヘイゲンの言葉に注目している。

「フィセラ様はお戻りなられた。たった一人、今、ここに居られる。約束も口にしてくださった。不確かな話など気にする必要はない。わし等はただフィセラ様に最大の忠誠を尽くすのみだ」

 

「フッ。忠誠?……そんなの最初から分かってたことだろうが!長い話聞いて損したぜ」

 ベカがくだらないと一蹴した。

 それを見たヘイゲンが珍しく驚いた反応を示した。混乱や落胆を想像していたのだろうか。

 顔が曇っていた数人に向けて、カラが声をかけた。

「皆、今の話は1つの仮説にすぎないわ。気にしすぎないでね」

「わかっているとも、悩んでいる暇があるなら働くさ」

 心配はないと梅心は返し、続ける。

「だが、我らだけの働きでは最大とは言えないな。部下にはフィセラ様のことは伝えてよいのか?それとも、演説か何かされるおつもりか?」

「いや、それはやめておこう。これは全員に伝えていた方が良いな」

 ヘイゲンに何やら話があるようだ。

「フィセラ様はこう言っておられた――」

 

 そうしてヘイゲンがフィセラのことを管理者に共有した後も、管理者だけの会議は、フィセラが眠りについてから起きるまで6時間も続けられることになるが、フィセラには知る由もないことである。


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