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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
 滅竜の先導者と蟲毒そして白銀の鱗
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頂上の玉座にて

 <頂上の玉座>。

 その名の由来は決して高所にあるからではない。その玉座を飾る至宝の数々から来ている。

 玉座の後ろには異様な光を放つアイテムが無造作に置かれている。これらすべてが、エルドラドが集めた100レベルアイテムなのだ。

 直線的な漆黒の両刃の戦斧、燃えてもいないのに火の粉を噴き上げる篭手、十字架のような形の刃の無い鉄棒、深紅の眼球が埋め込まれた風化した装丁の本、何十という手が空を目指すように絡みついてできた杖、玉座を覆う光沢のある真っ黒の布、そしてさらにそれらを飾るようにいくつもの宝石が武器や装備の上で輝いていた。

 ここまで攻め入った敵はこの場で愉悦に浸り、価値を知る者ならばその場でむせび泣くだろう。

 我々は頂上にたどり着いたのだと。

 当然、偽物である。

 100レベルのアイテムが偽という訳ではない。それらは本物だ。玉座さえも高レベルで作られたアイテムだ。

 偽物なのは頂上だということ。

 こんなに分かり易い最終エリアなどあるわけがない。ここは拠点所有のために必要な真の鍵のありかまでの時間稼ぎ。

 そんな偽りの玉座だということはエルドラドだけが知ることである。

 

 フィセラは謁見の間にはあまり来ない。

 玉座に座ることが出来るのは確かに彼女だけだが、アンフルでは、それに意味はなかった。ここには100レベルアイテムが保管されているだけである。しかも玉座を飾るだけで使おうとするものがいなかったため放置されている。

 謁見の間への客はほとんどいなかった。

 ――改めて見ると豪華すぎるよね。もったいない。

 フィセラはほんの少しだけ、古い記憶を思い出していた。仲間と共にアンフルを駆けた日々を。

 

 ヘイゲンに転移魔法で連れられてから数秒。

 気づくと彼がフィセラの横(少し後ろか)に跪いていた。空気が違う。彼女の部屋で謝罪のために膝をついた時とは、明らかに違った。その変化を感じ取ったフィセラが振り向くと、そこには精錬された空気が漂っていた。

 玉座を飾るのが至宝のアイテムであるなら、そこには最上のNPCが揃っていた。

 120レベルという最高レベルとして創られ、ステージ管理者という特別な地位を与えられているNPC達。

 その者達が少しも乱れの無い姿勢で跪いていたのだ。フィセラただ一人に。

 ――私だけなんだ。ここにいるのは、この子たちの上にいるのは、私だけなんだ。

 王。

 その言葉が脳裏をよぎった。

 仲間にもてはやされて座った昔とは違って、深く、背を任せるように腰を下ろす。

 王を玉座が飾った瞬間だった。

 

「…………………………………………ヘイゲン。進めて」

 王様らしい言葉を言おうと思ったが、何も出てこなかった。

 

「はっ!」

 ヘイゲンが立ち上がりフィセラの斜め前に立つ。国王の補佐を行う高官のようだ。

「面を上げよ」

 ヘイゲンから出された許しに従って、6人が揃って顔を上げる。正確には5人と表現するべきだろうか。人ではない者が複数いるが、それでもほとんどが人の形を保っている。その中に1体、人の形を成していない者がいるため数え方に戸惑う。

 この世界に来てからは初めて主人の顔を見るものばかりだ。主人に置いて行かれたと涙を流したものもいる中、今だけは決して表情を崩さない。

 彼らのまなざしから感じ取れる思いは、忠義のみ。

 だからこその管理者である。

「面々、我らが主に名をつげ」

 フィセラが手を上げて止めた。

「その前に言っておきたいことがあるの。いい?」

「はっ!傾聴せよ!」

 今から自己紹介でもやろうとしたのだろうか。だが、それを聞くよりも先にフィセラにはしなくてはいけないことがある。

 誰だろうとそれをないがしろにするとこはできないことだ。

「ごめんなさい」

 フィセラが頭を下げる。

 管理者はただ茫然としていた。絶対なる君臨者が謝った。頭を下げた。

 たったしれだけのことに管理者の頭はパンクしてしまったのだ。

 何も反応がないが、フィセラは顔をあげてその行為の理由を話す。

「この世界はアンフル……いえ、元居た世界ではないわ。私たちからすれば異世界よ。そんな世界で、あなた達を置いて行ってしまった。私が責任をもって……導かなくちゃいけないのに、寂しい思いをさせてしまったわね。本当にごめんなさい」

 NPCが自我を持ったから謝っている訳ではない。彼らがたとえ意思を持たない人形のままだろうと、彼女は頭を下げただろう。とても大切だから。

「頭をお上げください!」「おやめください!フィセラ様!」「うぅ、うっうぅ」

 感動のあまり泣いている者もいるが、ほとんどは謝る必要などないと、頭を上げてくれと膝をつきながら前のめりになっていた。

「もし!」

 フィセラは頭を下げたまま言葉をつなぐ。

 管理者にはフィセラの言葉を遮ることはできない。また、頭を下げたままの彼女の言葉を待たなくてはいけない。

「もしも、許してくれるなら。もう二度と置いて行ったりしないって約束する。だから……許してほしい」

 その言葉を聞いてすべての管理者が姿勢を正す。

 

 この言葉を言ってはいけない。これは主を縛ってしまう。

 いや、そんなものはどうでもいい。我らの願いを叶えるためならば。

『今までの全て、今より全て。謹んでお許しいたします。どうか、我らと共に』

 ステージの管理者の総意である。

 

 ――なんか大きな話になったけど、まあいっか。

「フフッ。ありがとう」

 ようやく顔を上げたフィセラの顔はとても晴れやかであった。

 対して管理者はその身を焦がさんばかりの炎の意思と固い決意を持っていた。

 

「で?自己紹介してくれるの?」

 ――本当はみんなの名前は分かるけど、喋ってるところは見たいな。好物とか言うのかな?

 先ほどの謝罪を既に忘れてしまったかのような様変わりだが、管理者に動揺はない。

「では、地上管理者より名を告げよ」

 ヘイゲンがもう一度命令を出した。

 示し合わせていたのか、ちょうどフィセラから見て一番右にひざまずいている戦士が名乗りを上げる。

「城門および城壁、門前広場ステージ管理者、レグルス。エルドラドに安寧を!」

 獅子頭の戦士。銀色の甲冑にも獅子を模した装飾が施されている。実直な男だと感じさせる張りのある声だ。身長は2メートル近くある。門番を務める戦士職を多数、部下に持つ隊長でもある。部下はみんな人間種である。

 

 続いて、二人目は女だ。

 

「複合住居ステージ管理者、ベカ・イムフォレスト。エルドラドに永劫の発展を!」

 赤い髪の魔女。とんがり帽子は外しているようだ。その長い耳を見なければ彼女がエルフだと気づけないだろう。肩を出し胸元が開いた赤いドレスを着ており、防御面に不安を感じる装備だ。少し威圧的な雰囲気を持つ美女だ。研究所の所長という肩書も持っており魔術解析という珍しいスキルを持っている。

 刺さるものには刺さるとメンバーに評価されていた。

 少し目元が赤く腫れている。さっき泣いていたのは彼女のようだ。

 

 三人目はベカとは対照的な女だ。

 

「庭園農場ステージ管理者、カラ・フォレスト。エルドラドに永劫の豊穣を」

 金色の髪に白いエプロン、その下も柔らかい茶色や緑、白の服を着ている。明らかに戦闘用装備ではない。農作業用の服装だ。1つ目立つのは、左手首についた鎖とその先に繋がった長剣だ。特別な装飾の無い剣で目を引くというほどではない。その剣が<世界戦争>という名の100レベルアイテムだとは、彼女の柔らかな雰囲気からは思いもしないだろう。

 ベカよりも少しだけ背が高く170センチ前半ぐらいある。

 

 次、地上のステージ管理者を先に言うならヘイゲンなのだが、彼はフィセラの隣に立っている。先に地下ステージへ行くようだ。

 

(地下2階水中牢獄ステージ、コスモ。敵対者に苦痛を!)

 スライム。丸いスライム。目や口も見当たらない粘液系のスライムだ。形を一定に保っており粘着さは感じない。よく見ると体の中に小さな光の粒子が浮かんでいる。体の色が青色より少し濃い色をしているため、まるで小さな宇宙のようだ。

 視覚ではなく周囲の環境を索敵する力があるはずだが、面を上げよと言われたときはどうしていたのか疑問が残る。

 サッカーボールほどの大きさのスライムがここに並んでいると視線移動が大きい。

 それに、今の言葉は耳に聞こえたんじゃない。頭の中に直接入って来た。念話スキルをつかったのだ。種族的に会話機能がなかったようで、仕方なく念話スキルを付けた、と完成間近になって残念がっていたメンバーを覚えている。


 見下ろす形から少し視線を上げた。

 

「地下3階熱帯砂漠ステージ管理者、ホルエムアケト。敵対者に激突を!」

 褐色の女だ。肌の露出が多く、その肌には白い文様が刻まれている。靴やグローブ、関節のサポーターを見ると、ファンタジーには似つかわしくない現代の格闘家を彷彿とさせる。実際、ローブのように来ている装備の名前はボクシングガウンだ。

 プロレスラーという、以上に耐久力の高い特殊職に就いている半神である。

 コスモが隣なため、比較しづらいが背が高い。185センチほどだろう。

 

 並んでいる6人では最後。一番左の(おそらく)男が名乗る。

 

「地下4階血色墓地ステージ管理者、梅心バイシン。敵対者に恐怖を」

 落ち着いた声色だが、その姿はいつ見ても驚かされる。巨大な赤い塊がそこにいた。まるで深紅の鋼鉄の脳みそだ。全身に赤い皺が刻まれていて、顔も皺で作られており、かろうじて顔のような皺を認識できる。太い腕に太い脚をもち、無手の格闘家として基本能力値はトップクラスである。首や腰に、ぼろ布を巻いており、申し訳程度に体を隠している。

 地下4階は、ゲナの決戦砦の元ボスモンスター<ゲナ>が封印されている、この拠点の最下層だ。そういった設定もあり、一部のメンバーが率先して、梅心を筆頭にした恐ろしい見た目のNPCやギミックを作った。そのため、フィセラ含む女性メンバーは数度しか地下4階に降りたことがない。

 

 そして最後にフィセラの隣(ほかの管理者がいるところからは数段床が高い)で、ヘイゲンが跪く。

「本館ステージ管理者、ヘイゲン・へスタ・ユルゲンバルム。エルドラドに繁栄を」

 管理者に序列はないが、なかでも中心的な施設を管理するヘイゲンが他管理者を含めた全NPCの上に位置している。

 

 これがエルドラドの誇るもう1つの最上である。

「全管理者がここに」


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