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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
頂を知りたくなければ、戦場で空を見上げるな

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コートデナールの巨人たち(7)

 ニコラが最初の攻撃を放つ直前。

 丘の下で軍隊への前進命令を出すタイミングを計っていた時のこと。

 ニコラは後方右側から近づく集団の気配を感じていた。

 

 ニコラを中央突破のための槍とするなら、それは陣形の右翼が形成する槍。

 その矛である戦士。マクシム・ミドゥを先頭にした一軍が後方から駆けてきたのだ。

 マクシムはこの後の陣形を考えてあまりにニコラヘ近づかず、声が届くところで馬を止めた。

 少し距離はあるが、英雄級の彼らには問題は無い。

 実際にニコラの目には、マクシムの顔がしっかりと確認できていた。

 マクシムの焼けた肌はこれまでに負った数え切れない傷とそれが治った痕でずいぶん荒れている。

 まだ残っている深い傷は頭の上まで届いており、刈り上げた髪の一部を禿げさせていた。

 それが分かるのは彼がヘルムをかぶっていないからだが、三極である彼を注意出来る者はいない。


 そんなマクシムは、丘を登ったすぐ先に敵がいると言うのに顔には笑みを浮かべていた。

 まるで街の酒場で古い友人を見つけたかのような顔だ。

「どうしたんだニコラ!?王都を放って来たのか?」

「事情は後で話す。作戦に変更は無い」

 短く応えるニコラ。

 マクシムも「おう!」と片手を上げて了解を示した。


 そして、2人の会話が終わるのを待っていたかのようなタイミングでまた声がかかった。

「デルヴァンクール殿!」

 ニコラにはすぐに声の主が誰か分かった。

 この王国で数少ない友人であり、最も若い三極と呼ばれる同僚だ。

「デッラ!」


 左翼の槍を担うデッラ・サンデニだった。

 当然、マクシムとは違いヘルムをしているが、ニコラには彼が集団の中でどこにいるかすぐに見つけられた。

 なぜならば貴族出身であるデッラの鎧は一般の兵が身に着けているものとは違い、意匠を施され魔力が込められた一品だからだ。

 ヘルムの隙間から出る髪の毛が揺れる様子を見ると、軍人としては珍しく髪の手入れをしていることが分かる。

 だからと言って、彼が三極に選ばれたのはただ前代の父の影響であると言う者はいない。

 傲りなく、その背筋はピンッと伸ばされている。


 デッラは鋭い視線をニコラに送った。

 ニコラが普段は持たない2本目の剣や見慣れない腕輪を確認したのだ。

 それらは、ニコラを王都からこの戦場へ送り、王国軍を矢の雨から守ったアイテムであった。

「陛下の命令ですか?」

「ああ」

 カル王国に伝わる国宝級のアイテムを持って来たニコラ。

 デッラその行動の意味を問う。

「……これは最初から作戦にあったことですか?」

 だがニコラは口を閉じて、首を動かすこともしなかった。

 

 デッラには、それが訳ありだと言うことはすぐに分かった。

 彼はその原因である相手を見ようと丘の向こうへ首を伸ばそうとしたが、当然視界に映るのは緑の草原だけだった。

「問題は?」

 デッラはまたニコラに問う。

「無い!」

「……信じましょう」

 その言葉を信じると言う意味ではない。ニコラを信じて付いていくと言う意味だ。


 ニコラはマクシムとデッラが作戦どおりの位置に着いたことを確認して剣を掲げた。

「三極が壁を破り道を開く!後に続け!」

 彼の宣言に続くのは、男たちの咆哮。

 そして、数百の咆哮を上塗りする号令が発せられる。

「…………全軍前進!」


「おおおおおおおおおおおおおおお!!」と空気を震わせる数千の咆哮が丘を駆け上がる。

 

 騎馬兵は2千。

 その後ろに歩兵が続く。

 一時的に前進を遅らせたために歩兵に遅れは無い。


 三極と呼ばれる理由を証明するかのように、乗馬技術さえ卓越する3人はこの短い距離でも後ろを突き放していく。

 だが後ろを見ていない訳ではない。

 先に敵の前に出て、するべきことがあるのだ。

 

 まずは、壁を破ること。

「<百戦剛剣>」

 ジャイアント族の盾という名の壁を目の前にしたニコラが淡々とスキルを放った。


 <スキル>。

 それは超常の技。

 魔術のように決まった詠唱や陣、必要な儀式や道具は無い。

 誰もが再現可能であるように定められた術では無い。

 始まりさえ定かではない奇跡。

 強者のみに許された技。それがスキルなのだ。


 魔力を帯びた剣の一振り。

 どれだけ手を伸ばしても剣が届く距離に盾は無い。

 だと言うのに、盾に使われた硬木は悲鳴を上げる間もなくひしゃげて弾けた。

 その衝撃は盾を押さえていた何人もの巨人にも伝わり、彼らを吹き飛ばした。

 

 同じようにマクシムとデッラも馬上から剣を振るう。

「<猛風剣>!」

 同じスキルを放つ2人。

 ニコラとは違うスキルだが、起こる現象は同じだった。


 壁は破れ道は開けた。

 あとは突き進むだけである。


 ニコラは馬を蹴りさらに速度を上げた。

 その先にいるのは体勢を崩した巨人たち。

 それが同じサイズの人間なら飛び越えることも、踏みつぶすことも出来るだろう。

 だが、相手はジャイアント族だ。

 突進するにはまだ厚い壁だ。

 それでも、ニコラは速度を落とさない。

 その代わりに背後へ咆える。

「ぅてえ!」

 次の瞬間。

「<マジックボール>」「<飛剣>!」「<アシッドボール>」「<風散>!」「<ファイアアロー><ファイアーアロー>!」「<猛風剣>!!」

 ニコラ達三極に続いていた兵士たちから飛ぶ中長距離攻撃の雨が、盾を破られた穴へ降り注いだ。


 彼らは弓や魔術を得意とする者や、三極に及ばずとも最高の実力を持つ最精鋭兵たちで構成されていた。

 幾重にも重ねられた盾を破る力はなくとも、三極によって崩された巨人たちを蹴散らす力ならば持っている者達だった。

 

 とてつもない衝撃で開けられた穴への集中砲火。

 飛来する斬撃と魔力を帯びた矢、何種類もの魔法。

 それらが直撃する敵の悲鳴、えぐられる土、舞う土煙。

 一瞬の出来事だった。

 その一瞬の中で、起きたことに即座に対応できるほどの強者は両陣営で合わせても数えられる程しかいない。

 ただの兵士は今までしていた行動を<続ける>ことしか出来なかった。

 

 カル王国の戦士たちは、土煙で閉ざされた穴へ向かって馬を走らせ続けることしか出来なかったのだ。

 そんな彼らを導くように、ニコラは声を上げる。

「手を止めるな!馬を止めるな!進めぇ!」

 

 横一直線に並んだジャイアント族。

 彼らを穿つのは3つの槍となったカル王国軍精鋭隊。

 勢いを少しも落とすことなくジャイアント族を突破したニコラ達。彼らには続くのはさらに勢いづく騎馬兵と歩兵の大軍。

 激流となった彼らはジャイアント族を4つに分けていった。


「散らせるな!囲め!」「回れ回れ!」「まだ攻撃を手を止めるな!」

 カル王国側では至る所でそうした声が上がっていた。

 その中で馬は動き続けた。

 4つのグループとなってしまった巨人たちをその中へ押し込み囲むようにぐるぐると彼らの周りを走り続けたのだ。

 当然、その間にも攻撃は放たれ続ける。

 今度は一般兵からの槍や弓矢も加わった全方位からの攻撃だ。

 

 その時、巨人の1人が叫んだ。

「盾を後方にも持って行って円になれ!」

 その巨人の言葉、盾は再び2つの陣営を別つ壁となった。

 だが、その壁はカル王国軍の行く手を阻むものには見えなかった。


 それはまるでジャイアント族を、彼ら自身を壁の内へ閉じ込めるもののようであった。

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