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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
頂を知りたくなければ、戦場で空を見上げるな

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192/203

コートデナールの巨人たち(5)

 213人のジャイアント族と約4300人のカル王国軍精鋭隊が激突する直前というこの時。

 同時刻。

 ゲナの決戦砦・頂上の玉座にて。

 フィセラはその瞬間を見守っていた。

「こうなるならもう少しアイテムを貸せばよかったわね。こりゃあ、すぐ終わっちゃうわよ」


 彼女は玉座に腰を下ろして目の前の視界を埋めるような大きな画面を見ていた。

 ヘイゲンが発動している<スクリーン(遠隔で監視カメラ映像を見ているようなもの)>の魔法で出現した画面には、ジャイアント族の背中が映っていた。

 その画角は、アルゴルたちの後ろにいるカラの少し上空から草原を撮ったものだ。

 ちょうど今は、アルゴルたちが盾を正面に並べ終えて、その奥から迫る小さな人間の集団を迎えようとする瞬間であった。


 この視界は現場の誰よりも俯瞰的なものになっていることだろう。

 物理的な高高度に置かれた視点ではあるが、実際カル王国軍陣形の変化に一番に気付いたのはフィセラであった。

「……ふ~ん」

 その状況の変化には特に反応を示さず、フィセラは見守るのみだった。


 それもそうだろう。

 今の彼女の監視態度、いや鑑賞態度を見れば、<見る>こと以外への関心の無さが分かるはずだ。

 左手にはストローの刺さった少し大きなサイズの飲み物。

 その飲み物は黒い気泡が下から上がり続け、かすかにだがパチパチという音もなっている。

 右手、玉座に接するように置かれた小テーブルの上には、飲み物よりもさらに大きなサイズの入れ物に入った食べ物。

 入れ物には吹いたら飛んでいくような見た目の白い小さな綿が積みあがっている。

 フィセラはその綿を3つ掴んで口に運ぶ。

 そして、小さく呟いた。

「お、当たりだな」

 

 そこにあるのは炭酸コーラとポップコーンである。

 それもポップコーンは塩味だ。

 

 フィセラは塩味の濃かった当たりをもう一度見つけようと手を伸ばした。

 あえて端の方から1つ手に取り、また口に入れる。

 そして一言。

「外れだ」

 はじけなかった豆を噛んでしまったのだ。だが、今のフィセラの歯と顎はそんなものをものともしない。

 フィセラは固い豆を簡単に嚙み潰してコーラで喉に流した。

 ――特大サイズを頼んだけど、食べる終わるよりもこっちの終わるのが先かもね。

 そうして、フィセラはまた画面に視線を向けた。


 現在、頂上の玉座にいるのはフィセラとヘイゲン、そして玉座の後ろに立つメイドが1人。

 この3人だけだった。

 ステージ管理者であるカラ・フォレストが主導する戦争だ。

 他の管理者を同席させてもよかったが、フィセラはそれをしなかった。

 アルゴルたち、ジャイアント族が命を賭して戦っている姿をただの見世物にしたくなかったのだ。

 そのため、<スクリーン>の魔法を持つヘイゲンと待機するメイドを除いた、フィセラ独りだけが彼らの戦いを見届けようとしていた。


 ただ、この玉座の間に彼女の今の姿を映す鏡が無いことだけが、本当に残念だ。

 そうして、ポップコーンの山が少しずつ高さを低くしていった。

「それにしても、向こうは思ったよりも準備がよかったわね。まあここが異世界だって言うなら、摩訶不思議なことを1つぐらい起こしてくれなきゃつまらないけどさ」

 

 フィセラの独り言に反応は無い。

 メイドNPCは当然として、ヘイゲンもこの場では<スクリーン>を発動させるだけの存在に徹していたのだ。

 

「英雄の転移あるいは召喚。それに加えて遠距離攻撃の無効化かな?」

 ――フラスクから走ってきた男が変身したのって、昨日の夜に王都で会ったあのおっさんだよね?私はシルバーに乗ってたから、日が出る前に帰れたけど、陸路じゃ到底間に合わないはず。

 事実、フィセラはシルバーこと白銀竜の背中に乗ってゲナの決戦砦へ帰ってきたのはほんの3時間ほど前だ。

 それが出来たのも、上空を一直線に飛んだからだけでなく、飛んでいたのが高レベル(少なくともこの世界では)の白銀竜だったからだ。

 王都にいたニコラ・デルヴァンクールがこのコートデナール草原に来るには、どれだけ足の速い馬が休まずに走っても丸1日はかかる。

 ――転移魔法だとしたら、あの馬の上で旗をぶん回して騒いでたのは何?条件がある?……あれをやることで位置の交換ができるってのがしっくりくるな。

 フィセラはカル王国の行った現象を分析し始めた。

 彼女は自らの行動に関しては行き当たりばったりを良しとしているが、戦い方に関してはそれなりにアイテムやスキルを用いる、つまりは頭を使った戦法を好んでいた。

 だからこそ、この世界の存在が用いる技には興味を持っていた。

 ――……でも、アイテムでこの交換をやるには複雑に作らなきゃ発動しないわね。対になる2つを用意するやり方はあるけど、それは互いに位置を特定して単純に入れ替わるだけ。殺気みたいに不自然な動きをする必要は無い。たぶん……、アイテムを持っているのはあの三極のニカ、ニケ…………、アイテムの所有者はおっさんの方ね。

 

 彼女がニコラ・デルヴァンクールの名前を覚えることは永遠に無いだろう。


 ――アイテムが特定の動きを感知するタイプなんだろうけど、探知範囲は国全体?所有者は応答するだけ?……面倒なことをやっているみたいに見えるけど、アンフル(VRMMORPG・Unfulfilled wish)でも、プレイヤーは言う程簡単に転移出来なかったのよね。出来るのは、ゲームシステムのエリア移動や砦の中での移動ぐらいで、個人で自由に転移効果を持っているのはかなりレアだった。やっぱり、組織としては転移出来るようなアイテムやスキルは1つぐらいほしいわよね。

 その時、フィセラが思い出したのはあるアイテムだった。

 それは<王都の浮上>。

 この異世界に来ることになった原因である可能性が極めて高いアイテムだ。

 今までとは変わって、真剣な顔でフィセラは考えた。

 ――適当な誰かに使わせてみるか。ビビッて使えないんじゃ、緊急時の切り札にならないもん。

「でもまっ……、その内ね」


 この瞬間、もはや置物と化していたヘイゲンの長い眉毛がかすかに揺れていた。


「あとは、遠距離攻撃の無効化か。こっちもレアではあるけど定番ね」

 ――対軍効果を持ってるアイテムは最低でも100以上だっけ?プレイヤーのスキルでも同じことはできるけど、対象が数百を超えたあたりからは指揮系統の職を特化させなきゃ使えなかったはず。5大ギルドのリーダーが1人持ってたわね。……懐かしい。

「でも、あのレベルがいる訳もないか」

 ――だとしたらアイテムだけど、あ~……アルゴルたちが200人ぐらいしかいないから無効化だと断定出来ないわね。回避率の上昇か、回数制限、攻撃力の最低限の設定。それぐらいなら、90レベル台にあったわね。というか、うちの宝物庫にいくつかあるし……。

 フィセラはつまらなそうにコーラを手にしてストローを口にくわえた。

 ――どうせ、草原丸ごとひっくり返したら全員死ぬんでしょ?


「このレベルの手札があと1つでもあると本当にすぐ終わっちゃうなぁ。……カーニヴォルでも召喚して貸してあげればよかったわね」


 その時、今までピクリとも動かなかったヘイゲンが片手を上げた。

 耳に手を持っていこうとしたのだろう。

 だがすぐに手は止まった。

 正確には、彼に繋がった<通信>が数秒で切れただろう。


 フィセラは「ん?」と、ヘイゲンに報告を促す。

 ヘイゲンは躊躇する様子なく、少し頭を下げて話し始めた。

「森の外で待機させていたベカが正体不明の存在と接触、交戦に入りました」

「ふ~ん、おけ。任せるよ」

 フィセラは気にしなかった。

 ヘイゲンがすぐに報告をしたこと、それにこの状況で戦い始めた相手など容易に想像できたからだ

 フィセラは目の前のスクリーンに映るその相手を見た。

 4000人以上のカル王国軍の兵士たちをだ。


 だが、あることが引っ掛かった。まるで、喉に刺さる骨のように。

 ベカの遭遇した相手がカル王国の兵士ならばそう言えばいい。

 深いローブをかぶり所属を隠すような相手だとしても、ヘイゲンならば正体不明と言うはずが無い。


 フィセラはスクリーンとヘイゲンを交互に見て、4度目にヘイゲンを見たあたりで声をかけた。

「それって、こいつらなのよね?お願いだから…………新キャラ登場とは言わないでよ」

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