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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
頂を知りたくなければ、戦場で空を見上げるな

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187/201

物語は人知れずに

 アゾク大森林の入口。ラガート村を眺められる大木の下に4人の人影があった。

「ふぁぁ、眠い」

 4人の内の1人が口を大きく開けて、薄目の端に涙を浮かべていた。

 

 その4人は全員が黒いローブを着ていた。

 だが、あくびをした女だけは服の装飾が他のものよりも凝っているように見える。

 それに、燃えるように揺れる赤毛は普通ではなかった。


「ベカ様はお休みいただいて結構ですよ。私たちがいますから」

 エルドラドのNPCであり、ステージ管理者でもあるベカ・イムフォレストは、部下にそう言われた。


 部下の服もやはり魔女のそれだ。

 3人の顔を並べれば違いはすぐに分かるだろうが、遠目には全く同じ格好の3人だ。

 今日はある仕事を任せられたベカの従ってここまで来ていた。


「……いやいい。まあ、ヘイゲンが心配していた通りに戦争の隙をついて誰かが森に近づいてきたらお前たちに任せる。3人なら大丈夫だろ」

 そう言ってベカは目を閉じた。

 部下の3人は信頼されていると思ってか、すこしうれしそうだった。

 だが喜びを口に出すことはなかった。

 ベカの眠りを妨げないようにだ。

 だが、彼女は眠っている訳ではなかった。

 索敵範囲を限界まで広げて、2つ向こうの丘の先で今にも始まろうとしている戦争を盗み見ていたのだ。

「まだ始めてないのか?」

「え?」と部下の1人が聞き返すが、ベカは気にするなと告げて索敵を続けた。


 クソが!

 カラ1人に戦わせて、とっとと終わらせればいいんだ。

 フィセラ様がカル王国への攻撃は必要最低だとおっしゃたとしても、この戦争を巨人どもにやらせる必要なんかないんだよ。

 なんでこの俺がこんなところで待機してなきゃいけないんだ。

 あ~、めんどくさ!


 大木に寄りかかって不機嫌な表情のベカ。

 その時、彼女の焼けてない方の耳がピクリと動いた。

「…………ん?」

 3人は今度は反応しまいとベカをあえて無視していた。

 だが、この後の言葉は無視できるものではなかった。

「……何か来たな」

 低い声でそう口にするベカ。

 その表情は先ほどよりも暗く見えた。

 

 3人はそのベカの表情を理解して、即座に杖を構えた。

 ラガート村の誰かが近づいてきた程度の話では無いということだ。

 

「ああ、……いい。お前らはここで待ってろ」

「ですが、先ほどは」

「こいつはお前らじゃ無理だ。こいつは…………強すぎる」

 ベカはそう言うと、隣に立て掛けていた杖を手にとった。

 

 黄金製の大きな杖だ。

 上部には様々な動物の頭蓋骨を杖に突き刺したかのような装飾がされていた。

 一番上には人間の頭蓋骨があった。

 

 ベカはそんな杖を地面に突き刺して斜めに置いた。

 その杖に片足を置くと、もう一方の足で地面を蹴った。

 すると、ベカの体はふわりと浮き上がり空中でぷかぷかと浮遊し始めた。

「少ししてから来い。このレベルじゃ……、巻き添え食らって死ぬぞ」

 ベカは目を細めて遠くを凝視した。

 

 見ている方向はラガート村の東側。

 3人がどれだけ目を凝らしても、ベカの言う者は影さえ見えなかった。

 だが、ここは従うしかない。


「わかりました」「お気をつけて」

「ヘイゲン様に報告は」

 順番に喋り始めた3人。

 だが、ベカにはもう彼女たちの声は聞こえていなかった。

「<噴火推船・八号>」

 最後の部下が喋り終える前に、ベカは空へと飛んだ。

 

 まるでロケットエンジンを積んでるいるのかと言うように、白い煙と火の粉を残していた。

 そうして、ベカは轟音を響かせながら瞬きの内に上空百メートル付近まで飛んで行った。

 そのまま緩やかな弧を描いて、ベカはミサイルのように東に向かった。

 

「…………、それで、どうするの?」

「え?待つんじゃないの?」

「報告するのかって話よ!」

「なんも言ってなかったからいいんじゃない?」

「聞く前に行っちゃったからでしょ!」

 そうやって3人の魔女が言い合いをしている内に、ベカはすでに降下しようとしていた。

 

 眼下に見つけたのだ。

 自らの索敵範囲の中で、亜音速で移動する正体不明の人物をだ。


 ベカが地面に着地する寸前、その正体不明の人物は足を止めた。

 目の前にした気づいたが、それは男だった。

 人外の怪物ではなく、特殊な装備をしているようにも見えない。

 ただの人間の男だった。


 だからこそ、ベカの警戒度は高まった。

 互いに超高速で移動してきたと言うのに、男は少しも息が乱れていないのだ。

「悪いが、こっから先は立ち入り禁止だ」

 ベカは杖を持っていない左手を前に出して、男を牽制した。

「だが帰れとは言わん。お前の能力は容認できるレベルを超えてる。だから、ここで死ね!」


「ハハッ、ただの怪しい魔女が森に入らないよう警告をしているだけならよかったんだけど……。同じようなことを言うようで申し訳ないが、君は怪しいと言う言葉で無視するには、大きすぎる力を持っている。少し話をしようじゃないか」

 

 端正な顔立ちだった。

 男にしては長い肩口までの白髪。碧い水晶のような瞳。

 背は高く、体は細い。

 だが、もろさを感じさせるような細さではない。

 鍛えられた体だ。


「ああ?ナンパか?地獄で鬼を口説いてな」

 ベカは話は終わりだとでも言うように杖に魔力を込めた。

 それだけで、周辺の草花は萎れていった。

 急激な温度上昇に耐えられなかったのだろう。


 数秒でその気温は人間の生存限界にも届こうとしていた。

 だが、男は何ともないようだった。

 当然、この男も普通ではなかった。

「ジゴク?オニ?……マジかよ。これは嫌な予感がそっくり当たってそうだな」

 男は右腕の袖を捲った。

 露わになったのは男の肌、ではなかった。

 キラキラと光りを反射する何かを腕に付けていた。

 それは腕から手首、指へと広がっていく。

 まるで銀の鱗のようだった。

「あなたは俺の会いたい存在じゃないみたいだね。仕方ない……、少々手荒にいこうか」


 カル王国の端、王国の歴史を左右する戦争とは関係のない場所で、人知れずに人類最上位の衝突が起こってしまっていた。

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