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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
頂を知りたくなければ、戦場で空を見上げるな

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鉄を打つ巨人(5)

 一般住居ステージ管理者、ベカ・イムフォレスト。

 彼女は他のステージ管理者よりも忙しい。

 彼女個人の仕事量ではなく、管理者としての仕事量が多いのだ。

 その原因は、ステージの稼働率である。


 他のステージと比較すれば、それは明白だ。

 

 城門周辺はそもそもNPCが少ない。

 農園の稼働率については高い。だが、あそこはシステムが整っておりほぼすべてのNPCが効率よく働いている。

 ベカ曰く、あそこで能無しなのはカラだけ、だそうだ。

 本館にはそもそも稼働するような施設が無い。

 地下のステージについても言うに及ばないだろう。

 

 そうして、ベカは今日も忙しい日を送る。

 

「ベカ様。水中牢獄で試験繁殖している水生モンスターについてなのですが、コスモ様から規模の縮小をするよう要望がありました。海獣の行動範囲を侵しているとのことで」

「はぁ!?たかが数匹の海獣のために砦全体の食糧問題の計画を変えろってのか!それにこの繁殖は将来的には砦の外へ移す計画だ。コスモには、我慢しろと言っとけ!」


「ベカ様。各施設から宝物庫のアイテム使用申請が届いております。特筆するようなものは、食堂からの<スペシャルキッチンセット>、服飾店からの<五色出目金の皮>、<黒色糸>の最大強化済み、それに」

「おい待て!食堂のキッチンセットはいいが、あの服屋は何を作ろうとしてんだ?こんな状況でアイテムを使いまくれる訳ねえだろ。他の仕事をさせろ!」


「ベカ様。先日設置した目安箱である種の苦情が多数ありまして……。地下四階の異形種の中でも、食人種や不浄の瘴気を纏う者たちなどの一般住居ステージへの立ち入りを制限してほしいという内容が多く投函されております」

「チッ、……気持ちは分かる。だが奴らは仲間だ。あまりそういうことを言ってやるな。だが……そうだな、何か方法を考えておこう」


「ベカ様?」

「ああ!次はなんだ!?」

 ベカは同ステージにある自らの魔術塔の自室にいた。

 そこへ途切れることなく入ってくる部下たち。

 彼女は最後に入ってきた部下へ声を荒げながら応えた。

 そんな反応に驚きながらも、そこにいた女はすぐに落ち着きを取り戻していた。

「いえ、そろそろ昼食のお時間ですのでご休憩を取られてはと思いまして」

 

 暗い色のローブを着た女は、ベカの直属の部下だ。

 与えられた役職としては、魔術塔の魔女見習いと言ったところだ。


「……そうか。分かった、少し休もう」

 ベカのその返事を聞くと、魔女見習いの女は一礼して部屋を出ていった。

 1人残されたベカは机の上に積まれた書類の山をかき分ける。

 どこかにあるはずの昼食を探しているのだ。

「前に造らせた栄養剤がまだあると思ったんだが、仕方ないか」

 

 嫌な顔をするシェフに無理やり作らせた、ポーション型の完全栄養食。

 少し色が変わり始めていた最後の一本が残っているとベカは記憶していたが、結局見つからなかった。


「今日は何を食うかな」

 NPCと呼ばれても、今は心を持った存在だ。

 そんな彼女たちの仕事中の楽しみはやはり食事だった。

 彼女はあらゆる事態を考えて実験的にポーションだけで食事を済ませていたが、食事に興味が無い訳ではない。


 最近の味気ない食事を払拭するような味の強いものを食べようかと思い、ベカは部屋を出ていく。

 曲がりくねった裏路地の奥にある魔術塔。

 ステージの大通りの中心にある食堂へ行くには当然その裏路地を通らなくてはいけない。

 両側を壁に囲われた暗闇の中を歩きながら、ベカは独り言をつぶやいていた。

「少し気温が下がったな。山の中だと言ってても、城門をほとんど開けっ放しにしてればこうなるか。だが、この程度でよかったと思うべきだな。俺のレベルじゃ気温差なんて気にならないが、低レベルには行動制限がかかるからな。…………これ以上寒くならないように何か手を考えておくか」

 そんなことを言いながら歩いていると、すぐに大通りに着いた。

 偽の太陽に照らされた肌は少し温かみを取り戻した。

 

 穏やかな気温の中、食堂からほのかに香る匂い。

 それに反応して腹が鳴る前に食事をとるため、ベカは少し早足でまた歩き始めた。

 

 そして十歩も歩かぬうちに彼女は足を止めた。

「なんだあいつら?」

 そこにいたのは珍しい2人だった。

 ステージ管理者のカラ・フォレストとホルエムアケトだ。


「ホルエムアケトちゃんはどんな方法があると思う?フィセラ様はカル王国の沈黙を望んでいるけど、それは国を滅ぼすこととは違うのよね。どうしたものかしら?」

 カラはベンチに座って、サンドイッチが詰め込まれたランチボックスを膝の上に置いていた。

 おそらく、サンドイッチは細かく切り分けられているのだろう。

 カラが手に持つ欠片は、齧った跡が無いのにとても小さかった。

 そんなカラの食事をじっと見つめるのは、隣に座るホルエムアケトである。

「知らん!それくれ!」

 ホルエムアケトはそう言いながら、カラの手にある欠片ではなくボックスの中にあるサンドイッチを鷲掴んで取っていった。

 

 それもボックスの中の四分の一ほどの量をだ。

 

「おそらく、巨人たちだけでは勝てません。一番の理由は強者の数です。それなら、私が戦争の後にするべきはその強者の殲滅?特に三極を屠るべきなのでしょうか?カル王国の牙を折るのにはこれが一番最小だと思うのですが……」

「美味い!もっとくれ!」


 そしてまた四分の一が減る。

 カラの手にはまだ同じ欠片があるが、膝の上のボックスの中身は半分になっていた。

 

「ヘイゲンに聞けばよい意見をくれそうですが、それはフィセラ様の意に背く行為なのでしょう。あのお方は私に任せるとおっしゃられたのですから、私の力だけで果たすべきです。そう、ですよね?」

「ヘイゲン?それよりももっと肉が欲しいのう」

 

 いつの間にか、ボックスの中身は空になっていた。

 ベカの視力をもってしても追えない速度で、ホルエムアケトが横取りしていたということだ。


「いいえ、それとなくヘイゲンに聞いてみるべきですね。失敗はもってのほかですし、聞かぬは一生の恥とも言います。意味は合っているでしょうか?」

「…………」

 ホルエムアケトはすでに大通りの彼方に走り去っていた。

 そして一口、小さなサンドイッチを口にしたカラは2つ目を取ろうとして首を傾げた。

「あら?こんな食べたかしら?」


 そんな最高幹部と言える同僚の2人を眺めていたベカはただ静かに、ほんの少しの怒りを混ぜてこう言った。

「…………暇人共が」

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