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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
頂を知りたくなければ、戦場で空を見上げるな

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鉄を打つ巨人(4)

 案の定、アルゴルの話はカラだけでなくフィセラの表情さえも曇らせるものだった。

 

「自分達だけで戦いたいって?いいよ、私たちも最初からそう言ってるでしょ」

 目線を合わせるために膝をつくアルゴルに向かって、フィセラはそう言った。

「俺たちの先祖が1000年前に受けた屈辱と、この1000年で散っていた戦士たちのため。この戦いは俺たちがするべきです。俺たち……だけで」

 

 フィセラは分かっていた。

 彼の言う「だけ」と言う言葉には、フィセラが加えようとしている者たちが除外されているのだ。

 

「はぁ、分かった!シルバーはまだいいよ。本気でけじめをつけるって言うならアレは……王国にとってもあなた達にとっても敵側だからね」

「いいえ、俺たちの白銀竜への恨みは薄い、と思います。あれはモンスターと言うよりも災害のようなものでしたから」

 

 ――こいつら、頑なにシルバーって呼ばないわね。私のネーミングが気に入らないのかしら。

 アルゴルの言葉にフィセラは少し安堵した。

 シルバーと巨人たちでギスギスした関係になっていないかを心配していたからだ。

 それが杞憂だと分かって、的外れなことに対して文句をつけ始めたのだ。

 

「あそう。で、シルバーだけじゃないんでしょ?……ミレとマルナも戦争に参加させるなって?」

「出来るならば」

 アルゴルの短い返答にフィセラは眉間に皺を寄せた。

 意図せず眼光は鋭くなり、それはアルゴルを委縮させるほどだった。

「出来るかどうかは私が聞きたいわよ…………、てめぇら勝てんの?」

 

 アルゴルは言葉を喉に詰まらせ、カラは目を伏せた。

 

 フィセラはつい口が悪くなったことを反省しながら、話をつづけた。

「私はカル王国の三極を知ってる。2人だけね。あいつらの相手はあなたでも出来るでしょう。向こうにいる槍持った女の……」

「彼女の名はナラレです。フィセラ様」

 カラからの助け舟だ。

「そう、その子でも大丈夫、たぶん。でも、ミレとマルナなら楽勝よ」


 白銀竜の討伐準備を目的としていた先遣隊が消滅した後、その調査と討伐のために三極はすでにこの森に訪れていた。

 その内の1人とは手合わせをしたが、フィセラの体感した実力では当てにならないだろう。

 だが、レベルは知っている。

 そして、10大強者と呼ばれているミレとマルナについても同じだ。

 

「あの二人なら、もしかしたらもう1人の三極を加えた3人を相手にしても勝てる。だとしたら、あとは強いのがいなくなった有象無象の軍隊よ。どうとでも出来る。シルバーをぶつければ戦いにもならないかも知れないけど、それはもう忘れていいわ。いなくても問題は無いでしょう」

「俺とアルゴル以外にも信頼できる戦士はいる。その三極と言う強者さえ抑えられれば」

 アルゴルがまだ喋っていたが、フィセラは構わずカラを呼んだ。

「都市に集まってる軍の情報は聞いてる?」

「はい」

「数と練度はどの程度なの?」

 

 カラはすぐには答えられなかった。

 この問答の最後の言葉が予想出来てしまったからだ。

 だが、黙っている訳にもいかなかった。


「今日未明までに800。南部周辺都市に滞在している兵士が1500。残るは北部と王都に散らばった2000人です。彼らは精鋭隊と呼ばれ、王国軍の中でも実力、戦闘経験、軍備が充実している者たちです」

「少数精鋭と言うには、少し多いわね。こっちは?」

「我らに従うジャイアント族で参戦出来るのは213人です。老いも若いも全員含めております」

「1人当たり20人、かな?」

「はい。巨人側には戦闘能力の高い者たちが幾人かおります。彼らが」

「レベルの高い低いはどこにだってあるでしょ。カル王国にも当然、精鋭中の精鋭がいるはずよ。1人で……そうじゃなくても数人で巨人1人と互角な奴らがいるでしょうよ」

 

 カラは巨人側に立ち、彼らに偏った考え方をしていたのか。

 いいや、そう言う訳ではない。

 だが、巨人寄りになっていたのを否定は出来ないだろう。

 

 それに対して、フィセラの冷静な客観的視点はカラを驚かせた。

 彼女は今この状況で中立に立っていたのだ。


「失礼しました。フィセラ様のおっしゃる通りです」

「…………それで、勝てるの?」

 

 カラとアルゴル。

 この2人は、フィセラの問いの答えを分かっているようだった。

 ただ、その言葉を今まで口にしないように意識していたのだろう。

 

 そのことを理解できるフィセラは自分の首を撫でながら、遠くを眺めた。

 ――この戦いには勝てないでしょうね。アルゴルは、いいえ、おそらくこの巨人たちは全員うっすらとそれを分かってる。それでも戦いんでしょうね。戦闘狂だからとか、恨みを晴らすためとかそういう話じゃなくて、戦いを終わらせたいのでしょうね。

 フィセラはアルゴルが最初に言った言葉を思い出した。

 ――1000年か。挑みたいんだろうね。1000年間彼らとその親とまたその親と、先祖たちが願っても叶わなかった挑戦へ……、勝つにせよ負けるにせよ、分かりやすい答えが出る。


「アルゴル。この戦争で何を知りたいの?あなた達の1000年にどんな意味を持たせたいの?」

 フィセラは優しく問う。

 これは彼の無茶な願いを否定する質問ではない。彼らの覚悟を否定する言葉ではない。

 フィセラは正しく、彼らを理解していた。

 

 アルゴルは目の前の<魔王>が自分達と同じ場所に立っていることに驚いた。

 彼はこの時思い出した。

 彼女は遥か彼方の玉座から見下ろすだけの者ではないと言うことを。

「……あそこは一日のほとんどが大山の影に入っていました」

 アルゴルはそう言いながら、大山の方を見た。おそらく、その向こうにある彼らが追いやられた土地を見ようとしているのだろう。

「光の下を歩くことはほとんど無かった。だが今は、木の葉の影から差し込む朝日で目を覚ますのです。俺は、俺は……満足なんです」

 満足だと言う男の顔には少しも見えなかった。

 だが、その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

「だが自由ではない。なんでもできる訳じゃない。俺たちには出来ないことばかりだ」

 

 アルゴルはまた視線を変えた。今度は仲間を見た。

 そこにはフィセラが持ってきたアイテムをうれしそうに触る仲間たちの姿がある。

「先祖の恨み、怒り。いつか復讐を果たせと教えられた者もいる。それをすべて忘れることは出来ない」

 

 また顔を動かして、大山とは反対の方向を見た。

 大森林の外をだ。

「戦いが始まったら、あのダークエルフの双子や白銀竜が人間たちを蹂躙するのを見て何を思えばいい?笑えと?喜べと?出来る訳が無い」

 彼が口にする言葉とは裏腹に、彼の顔は清々しいものであった。

 出来ることは1つ。だたそれをやるだけ。

 それを分かっているようだった。


 フィセラはそんなアルゴルを見て疑問に思った。

「で、もし負けることになったら、あんた達は……」

 そこまで口にしてフィセラは気づいた。

 ――そうなったらどうするのか?それは私が聞くんじゃなくて、私が聞かれるべき質問ね。

 フィセラは長いため息を吐いた。

 ――まったく、かっこ悪いわね。

「いいわ。好きにしなさい。もしも、負けそうになったら助けてあげる。これには文句は言わせないわよ」

 アルゴルは静かに頷いた。

「あなたに任せよう」

「そう、じゃあ……頑張りなさい」


 フィセラは頭を下げるアルゴルを後にして歩き出した。

 目的地なく、ただ歩いた。

 当然、カラが付いてくると分かっていたから。

 ――この世界に来てからずっとこうね。起こるままに身を任せて、結果が気に食わなければギャーギャーと。まるで馬鹿な子供ね。私は私として…………やりたいこと、やらなきゃいけないことを探さなくちゃ。でもそれを見つけるにはいい加減……カル王国はうるさいわね。

 

 フィセラはカラの名を呼んだ。

「ここにおります。フィセラ様」

「アルゴルたちの手助けをしてあげなさい。そして、戦争に勝つにせよ、負けるにせよ。そのあとは任せるわ」

 カラはこの言葉の意味を理解出来なかった。

「フィセラ様?」

「今回でカル王国の相手をするのは終わりってこと!二度とちょっかいを出せない程度に黙らせなさい。それをあなたに任せるわ、カラ」

「はい……」

 

 カラはどこか自身なさげだった。

 彼女は頭を使うのが苦手だったからだ。

 他のステージ管理者と比べれば、彼女は冷静であり、自分勝手なことは決してしない。だがそれは賢いという意味ではなかった。

 カラは剣を振るうことの方が得意だった。

 それだけならば、千万の軍さえ彼女の前では意味を成さないのだから。


「では、殲滅ということですか?」

 

 ――ああ、忘れてた。この子はこの子で訳ありなのよね。……何とかは<手加減を知らない>だったっけ?


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