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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
頂を知りたくなければ、戦場で空を見上げるな
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鉄を打つ巨人(3)

「巨人用のアイテムよ。好きに使っていいわ」

 フィセラはそう言って、適当な巨人に指さして包みを広げるように合図を出す。

 困惑しながらも、その巨人はひとり前に歩み出た。

 ちょうど上に見えている布がある。それを一枚持って思いっきり引いた。

 

 すると聞こえてきたのは、おお!という感嘆の声だ。

 

 剣槍斧の3つの武器の使い手でも持っていない、ギラギラと光るアイテムの山がそこにあったのだ。

 実際はそれぞれが大きいため本当の山のような数は無い。

 だが、魔力を宿したアイテムがこれほど積まれている様子は見たことが無いだろう。


「これほどのアイテムを……よろしいのですか?」

 そう言ったのはカラだ。

 今、この場の代表は彼女だということだろう。

 

 ――これほどって言うのは、数?それとも質。どっちにせよ私たちが持っていても意味はないのよ。

 

 ここにいる巨人たちが知る由は無いだろうが、これらのアイテムの説明欄には共通してある文言がある。

 それが<巨人族専用>だ。

 この世界の種族名としてはジャイアント族とされる彼らのことだ。

 

 ――巨人族なんて種族はプレイヤーが選べる種族には無かった。なのに、アイテムには使用制限がある。それにサイズが常にこれなのよね。

 

 プレイヤーの用いるアイテムは、プレイヤーの身長によって多少のサイズ変更が自動でされていた。

 だが、これらのアイテムは巨人専用の名前どおり、巨大なままだったのだ。

 使用できないというのに、アイテムポーチやアイテムボックスを圧迫するだけの存在であった。


 ――まあ、いつか来るアップデートでプレイヤーも巨人になれるとか。まだ発見されていない巨人族の王国での交換アイテムだとか。私を含めて、皆は隠し要素があるって言って捨てれずにいにいたけど…………、結局、答えが分かる前にこの世界へ来ちゃったから本当に邪魔なだけのアイテムになっちゃったわね。

 

「勿体ないなあ……」

 フィセラはどこか寂しそうにそうこぼした。

 

 それを見たカラはフィセラの名を呼んだが、すぐに彼女はケロッとしていた。

「言葉通りの無用の長物ってわけ。巨人専用の指輪に腕輪。ガントレットやヘルム。それに、能力値上昇のポーションもいくつか。今日だけ特別にタダよ」

 そう言うフィセラの言葉が皮切りとなって、見物していた巨人たちがすぐにアイテムを囲み始めた。

 

 その様子を眺めるフィセラの背後にカラが近づいていた。

「ありがとうございます。フィセラ様」

「いいのいいの。本当に邪魔で余ってるのをかき集めてきただけだけだから」

「……フィセラ様はこの戦争への介入には否定的だと思っていました。私にこの任を命じられたあの時も、そうおっしゃっていましたので」

「うん?ああ、そうだっけ?」


 今から15日前。

 つまり、フィセラがヘイゲンからカル王国の戦争の準備についての報告を聞いた後のことである。

 

 頂上の玉座にて、若干不貞腐れているようなフィセラが玉座に座していた。

 その隣にはヘイゲン。下にはカラがいた。

「いま説明したように、フィセラ様の巧みな采配によってカル王国が軍隊を動かしている。それも、我らがここにいると気づかせることなくのう」

「お見事です。フィセラ様」

 

 ――……え?馬鹿にしてるこいつら?


「カル王国はこう思っているはずじゃ。白銀竜と言う脅威がなくなった内に巨人が大森林に姿を現した。それも、カル王国建国の裏に隠された秘密を知る、かもしれぬ巨人たちがじゃ」

「以前、砦に侵入したダークエルフの双子はその調査を任されていたのですよね?」

「そうじゃ。王国の使わした密偵がよりによって巨人たちに寝返り、依頼を出した者らに牙をむいた。それも王国の強力な権力者たちにじゃ。無視できぬ被害であっただろう」

「今の話では、カル王国が持つ情報は少ないはずです」

「じゃろうな。だが王国にとってみれば、もとより忌まわしき巨人たちよ……。恨み忘れぬ巨人たちが武器を手に取った、という物語を作るのは彼らにとっても好都合なのだ」


 ――へ~~、そうなんだ。


「フィセラ様?」

「…………?ああ、私の番?」

 フィセラは背中を玉座から離して、カラの前で姿勢を正した。

 カラも同様に直立不動である。

「そこで、あなたにしてもらいたいことがあるの。この戦争の指揮よ」

 カラには驚く様子は無い。代わりに質問を返してきた。

「お聞かせください。この戦争への、我らの参戦はどれほどと考えていられるのでしょうか」

 ――すぐにその質問が出るってだけで、十分優秀ね。

「私たちエルドラドからの参戦は無いわ。これは、カル王国と巨人たちの間で解決するべき問題でしょ。まあ、この世界由来の力なら協力させてもいいわよ。シルバーとか、あの双子とか」

 

 その言葉を聞いて、カラは渋い顔を造った。

 フィセラの望みは何なのか。

 それを考えようとしたが、答えは出なかった。

 唯一答えを持っていそうなヘイゲンに視線を送ったが、彼がこの場でそれを言う訳も無かった。

 

 カラは片膝をついて、自らの主に向かって宣言した。

「分かりました。では……、この任、カラ・フォレストが拝命いたします。フィセラ様のお手を煩わせることは決してありません。玉座に座して、我が勝利の報をお待ちください」


 そして、15日後の現在。

 過去の会話を、フィセラはその乏しい記憶能力で掘り返していた。

「ああ、エルドラドからは何もしないてやつね。べつに意地悪で巨人たちに戦わせるわけじゃないんだから、このぐらいの支援は最低限にも満たないわ。心変わりとかそういうのじゃないから、気にしなくていいわよ」

「はい」

 

 フィセラはまた、巨人たちがアイテムを物色するのを見ようとすると、カラが止めた。

「その、フィセラ様。お伝えしたいことがありまして……」

 太陽のように暖かく朗らかなカラとは思えないほど、今の彼女はどこかオドオドとして叱られるのを怖がる子供のようだった。

「……どうしたの?」

 カラの唾を飲み込む音が聞こえる。

 それほどの不安や緊張をカラが感じていることに、フィセラも心配し始めた。

「その、数日前より彼から相談を受けていたのですが、やはり、そうしたいと。無理な話だとは思いますが……」


 要領を得ないカラの言葉にフィセラは首を傾げた。

 その時、気付いた。

 カラの背後から歩み寄ってくるある巨人がいた。

 それはフィセラでも名前を憶えている巨人だ。

 名前はアルゴル。

 <1つの剣>と呼ばれる、この巨人たちの中で一番の剣の使い手である戦士だ。

 

 カラの神妙な表情。

 対して、アルゴルの覚悟を決めたような凛々しい表情。

 それを見てフィセラは心の中で呟いた。

 ――変な話だったら、ダッシュで帰ろ!

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