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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに
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誰が死んでも(2)

 剣と斧がぶつかり、重たい金属音が鳴り響く。

 その瞬間、フィセラの斧が停止するその瞬間を狙ってマルナが短刀を投擲する。

 その切先はほとんどをミレに向いているように見えたが、ミレはすんでのところでそれを回避した。

 そして、その短刀が次に向かう先は当然フィセラだ。

 

 短刀がミレの顔の横を通り過ぎてフィセラへ飛んでいく。

 距離にして2メートルほど。

 短刀がその距離を飛行する間に、4度の金属音が鳴り響いた。

 軽くしなやかに揺れる音と心臓を震わすような重低音のぶつかり合い。

 1秒にも満たない瞬間に飛び交う斬撃の往復だ。

 ――まずい!この2人思ってたより速いし、斧が重い!……いや、重いのは分かってたけど!ガラスの心鋼鉄の心臓を持ってきたのは失敗だったわね。

 ミレやマルナが振るう武器に比べて、フィセラの<ガラスの心、鋼鉄の心臓>の重さはその20倍近くあるだろう。

 ミレからすれば、その斧でもってこの速度について来れるだけで驚愕ではある。


 だが、さらなる驚愕を与えるほど、フィセラに余裕がある訳ではなかった。

 ミレの攻撃を受ける最中に、視界にチラつく短刀。

 フィセラは我慢できずにそれを振り払う。

「これ邪魔!」

 この時、思い出した。

 ――……マルナどこいった!?

 短刀の持ち主が視界から消えていた。

 キョロキョロと首を回す余裕はない。

 ならば頼りになるのは勘と運だ。

 フィセラは瞬時に脱力し、地面に吸い付くように落ちる斧に引っ張らせ、高速で自らの体をしゃがみ込ませる。

 ――ただ速いだけなら、どうにでもできる!


 よく言えば猫、悪く言えばカエル。

 そんな風に姿勢を低く構えるフィセラ。

 その瞳がマルナに狙い定めた。

「手加減してんだから、優しくしてよ」

 そう口にしたと同時に広場の石畳がミシッと泣いた。

 フィセラがどれほど床を踏み込み、そしてどれほど力強く跳ねようとしているかを物語る音だ。

 

 だが、ダンッと剛脚を放ったのはミレだった。

 当然、フィセラは斧の柄で防ぐ。それでも体勢を保つことは難しかった。

 溜め込んだ跳躍力は後方へ下がることに使われてしまった。

「……蹴んなよ」


 睨みつけるフィセラを意に介さず、ミレとマルナは挟撃に出る。

 

「あの斧をあの速度で……、腕力だけなら六腕の巨人よりもありますね。いや、あの細い体にそれが詰まっているのなら基本能力は全て上ですか……」

「だとしても手数が違う。斧一本で俺たちの速度について来られるわけがねぇ!いくぞ!どこまで凌げる!?」

 ミレは剣を、マルナは武器を槍に持ち替えていた。

 

 彼女達は唄われる英雄、<夜と闇の双星>。

 その者らは風よりも速く駆け、闇の中に光る刃の一振りは音よりも速い。

 星の輝きは強烈だ。人はその輝きをまだ追うだろう。

 だが、全ての輝きを、夜空で瞬く全ての輝きを追えるものなど存在しない。

 少なくとも、ミレとマルナから逃れられたものなどいなかった。

 2人の知る上では。


 このフィセラと戦うまでは。

「オーケー、ギアを上げていこう!」

 

 1歩踏み込み、構え、振り下ろす。

 単純な動作だ。

 それが瞬きの間に20、30、40度と行われていなければだが。

 

 ぶつかり火花を散らす3つの刃。

 間延びする金属音のような音は、鳴り止まない剣戟の音。

 誰も言葉を発しない。

 当然だ。

 口から発する言葉などもはやこの3人には、遅かった。


 それでも、彼女は口を開いた。

 これだけは言わなければいけなかった。

「ちょ待ってタンマ!やっぱ無理!キツいってこれ!」

 漆黒の大斧の生み出す乱気流の中で黒い艶のある髪を暴れさせながら、フィセラはそう叫んだ。

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