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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに
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拠点攻略の鉄則(3)

 マルナの額に汗が浮き出る。

 言葉を発した事に驚いてでは無い。

 獅子の門番レグルスが口を開いた瞬間、自分たちに意識を向けられたその瞬間の殺気の鋭さが彼女を貫き、重圧の重さが彼女を押し潰そうとしたのだ。

 それを助けるのはやはりミレの言葉だ。

「しっかりしろマルナ。ただ……、猫が鳴いただけだ。そうだろ?」


 それに言葉を返したのはマルナ、ではなく猫と呼ばれたレグルスであった。

「猫?……それは挑発か?それとも、恥を知らずに自らの無知を晒しているのか?」

「違いがあるのか?」

「フッ。よい。貴様らが我が種族を知る必要は無い。だが……」

 

 レグルスの雰囲気が変わる。

 ミレとマルナは戦闘の開始を予感したが、レグルスはただ言葉を続けるだけだった。


「教えておくべきことはある」

 2人は身構えた。

 レグルスが口にする言葉の真意を計るためにだ。

「これは侵入者が弁えておくべき拠点攻略の鉄の掟だ。これを破ることができるのは生命の創造主である我らの主達。あるいは……、同等の力を持つ者達だけだ」

 

 ミレとマルナは黙って聞いていた。

 情報収集の為ではあるが、その意味が理解出来ていないからでもある。

 それを無視してレグルスはさらに続けた。


「我らが主は玉座に座して貴様らを待っておられる。だが、その玉座に行くためには、3つのステージ、3人の管理者を超えて行かなければならない。これが掟、ルールだ」

「すると、最初をお前か。そして、最後にフィセラがいるんだな?」

 ミレの言葉にレグルスは唸った。

「敵である貴様らに我が主に対して敬称をつけろとは言わぬ。だが、不敬は死を早めるぞ」


 レグルスが放つ殺気に当てられ、ミレとマルナはついに剣を抜いた。

 圧に押されるマルナは抵抗の意思を言葉に変えて吐き出す。

「どう呼ぼうと殺しに来たのです。それに、魔王と名乗った彼女へ敬意など、あるはずがありません!」

 

「いいだろう!もう1つ貴様らに教えてやる!フィセラ様は我らステージ管理者にルールを言い渡された。我らはそれに従い動く!」

 レグルスは一歩前に出た。

 ここで顔を合わせてから初めての動きだ。

「貴様らとの戦いに使うスキルは1つのみだ!」

「舐めんなよ!?クソが!」

「これは正当な評価から下されたルールだ!」


 レグルスはさらに一歩進む。

 ただ一歩。

 それだけの距離が近づくだけで、ミレとマルナに降り掛かる重圧は何倍にもなっていった。

「違うというのなら、証明してみせよ!スキルはただひとつ、耐えてみせよ!」

 

 ミレとマルナは姿勢を低くした。

 筋肉の稼働により脚の形が変わる。

「耐えるだ?お前には何もさせねぇよ!」

 

「力量の差が分からぬ訳ではあるまい。それでも挑むか!侵入者よ!」

「俺の名は!」

「名乗るな!貴様ら如きの名など、この黄金の地に刻むことは我が許さん!」

「いいでしょう。その1つだけというスキルが空を切った後に、この名を知れ!」


 褐色のダークエルフが地を蹴った。

 その瞬間、ダークエルフはただ地を這う影となった。

 2つの影がレグルスの下に着くまで、ほんの少しもかからないだろう。

 

 だが、レグルスの瞳は2つの影を正確に、瞬間も遅れることなく捉えていた。


「最後に教えてやろう!獅子というものを!百獣の王の咆哮を!」


 <竜を落とす獅子咆哮>。


 激情が獅子の胸を焦がそうとする。

 その熱を外へ流すために、獅子は喉を開く。

 小麦色のたてがみがザワザワと揺れる。

 獅子の口からは4本の一際大きな牙があらわとなる。

 

 そして、レグルスから広がる音の波が、山を揺らした。


 ミレとマルナがその咆哮を「聞いた」のは、ほんの一瞬であった。

 耳にそれが届いたその時に、彼女達の世界から音は消えた。

 それでも、レグルスの咆哮は響き続ける。

 

 骨を軋ませ、筋肉を断裂させるほどだ。

 視界は震え、最後には全てが無となる。

 脳は形を崩し、ただの泥となる。


 未だ人の形を保っていようと人の機能を全て失った2つの肉体は、自らの運動エネルギーに従って前に進む。

 足が体を支えることはなく、2つの肉体はそれぞれが血の一本道を作りながら地を滑る。

 最後に残ったそれはただの肉塊であった。


「<魔王>への挑戦。誰もそれが間違いとは言わぬ。お前達の間違いは、ただひとつ!……<フィセラ様>に挑んだことだ!」

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