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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに
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嵐の前(2)

 フィセラの関わる事件などと口にされて、黙っていることができるNPCはエルドラドにはいないだろう。

「何があったの?」

 その疑問をぶつけるステージ管理者を代表したのはカラだ。

「随分と悠長に構えているのね?それはその出来事が重要では無いから?それとも、「私達にとって重要では無い」からかしら?」

「重要では無い事などありはしない。正確に言えば、フィセラ様にとっては小事であってもカル王国にとっては大事である。ということじゃ」

 抽象的なことしか言わないヘイゲンの言葉に、カラは首をかしげている。

 レグルスがそれを見て、横から入った。

「それはお前が勝手に動かしたあの者たちからの報告に、気にかけるものがあったということか?」

「………………うむ、そうじゃな」

 ヘイゲンが目を細めてレグルスを見る。

 目元により一層のシワがよるが、口元には乾いた肌があるだけだった。


 一時、視線を交わらせる2人。

 

 動いたのは外野だった。

 レグルスの言葉と2人の反応の不自然さに、ベカがたまらず口を開く。

「勝手にって?フィセラ様の護衛と報告は下の墓地から連れ出した影の何ちゃらシリーズだろう?」

 ベカの話にバイシンが頷いた。

「フィセラ様はお一人で外の世界を見てみたいと仰った。だから、フィセラ様からも隠れられる隠密に長けた我が配下、<影の住人シリーズ>を送ったのだ」


 だったら問題ねぇじゃねえか、と呟きながらベカが横目にレグルスをみる。

 その視線を真っ直ぐ捉えるように彼女へと向き直ったレグルスが喋り出す。

「皆、修練場の者達を近隣の国家都市に潜伏させる計画は知っているな?」

「あ、ああ。まぁな」

 

 明らかに知っている者の反応ではない。

 話を聞いている他の管理者はそれぞれ頷いているが、ホルエムアケトに至っては、どこをみてるか分からない目をしてぽけーとしてしまっている。


「…………まぁいい。当然あの者らは我が部下であり、手始めにここから最も近い都市へ2人送り出している。フラスク、フィセラ様が今もいらっしゃる都市だ」

 獅子の顔を持つ騎士はほんの少し開いた口元から息を吐き、呼吸をする。隙間からはチラリとその鋭い牙が見えている。


 新たに加えた護衛か?

 フィセラ様がその2人を仲間に引き入れたのか?

 管理者の頭にこのような疑問が浮かぶ。

 そして、それらをかき消すようにレグルスがさらなる真実を語ろうとする。

 

「そして、今、その2人はフィセラ様と共に行動している。それも自らの身分を偽ったままにだ」

 レグルスが続けて発言した、ある者たちの主人に対する行い。

 紛れもない嘘。それが主人につかれている。


 管理者たちがそう理解した瞬間、彼らは様々な感情を持った。

 何にせよ、その感情に呼応するように魔力が視認できるほど濃く揺らめき、空間を歪ませているほどの感情の渦だ。

 真紅、冥色、金糸雀、極彩の朱。

 それらが入り混じり混沌と化した「黒い感情」が向けられる先は、ヘイゲンである。

 

「てめえ、フィセラ様を舐めてるよな?ああ!?」

(僕もそう思うな。少なくとも、あなたは勝手が過ぎるように思うよ)

「お前が悪いことは分かった!…………それで?」

 ベカ、コスモ、ホルエムアケトがそれぞれの言葉でヘイゲンに檄を飛ばす。


「訳を聞こう。話をそれからだ」

 3人とは変わって落ち着いているのはバイシンだ。

 彼は変わらず腕を組み、ヘイゲンの言葉を待つだけだった。


「…………うむ。お主らの怒りは出来る。わしはある意味で、創造主の願いを無視した、というこなのだろう。だが、わしの行いが罰せられるべきものかどうかの判断は、お主らには無理じゃ」

 ああ?とベカが凄むとヘイゲンはそれを冷たく見下ろした。

「お主らは拠点の守護者であって、我らの主の守護者ではない!」


「……は?」

 ベカは理解不能に陥り、固まる。

 ホルエムアケトは自分のしっぽを追い始めた。


 そして、バイシン同様に冷静を保っていたもう一人の管理者、カラが口を開く。

「あなたはこう思っているのね。私たちは、フィセラ様が願えばすべて叶えてあのお方の意思にそぐわないことは決してしない。でも、あなたはフィセラ様の安全のためなら、フィセラ様を止めることは厭わない。あるいは嘘も」

「事実、わしはお主らがフィセラ様を外へ送り出した時は失望したものじゃ。何が第一かを勘違いしているお主らにな」

 カラは少し感がるそぶりを見せてから、またヘイゲンに向き直った。

「今の通信でフィセラ様はなんと?」

「何も……」

「では、あなたは秘密裏に同行させている者らは?」

「近いうちにフィセラ様がここに戻るだろう、と。それもある者たちを連れて。それと、こうも言っていた、その者たちは間違いなくフィセラ様の「敵」である、とも」

 

 管理者たちはまた目の色を変えた。

 だが、今度はそこに感情の色は無い。

 そんなものは必要ない仕事の時間が来たのだから。

 

「フィセラ様に逐一報告をお願いすることが出来ません。とすると、同行者がいることは間違いではないかもしれませんね」

 カラがそう呟く頃には、面々から向けられていた鋭い気は嘘のように無くなっていた。


「フィセラ様がどう動くかまだ分からない。あのお方のことだ。直前になってわしらに命令をするかもしれん。各自、それぞれに持ち場で待機じゃ」

 いつも通りじゃねえか、と文句を言うベカ。

 だが、それだけだ。

 彼女を含め、管理者たちはヘイゲンの言葉に了解していた。

 

 特別な議題もなくステージ管理者の会議は終わり、管理者たちは戻っていった。

 バイシンやコスモが先に頂上の間から出ていくと、レグルスやカラもそれに続いていく。

 

 カラに遅れをとらないようにと、速足で外に出ようとするベカの背中を誰かがつついた。

 相手は分かっている。

 ベカはため息をつきながら、後ろに立っていたホルエムアケトを見上げた。

「……なんだ?」

「話終わったの?」

「ああ、とっくにな。敵をぶっ飛ばす。とりあえずはそれだ」

「敵って?ヘイゲン?」

「…………お前話を、……まあいい。敵が誰かはしらねえよ」

 それだけ言って、ベカはホルエムアケトを置いて歩き出す。

 

「…………どうせ雑魚だ」

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