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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに
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迷宮の罠(6)

 フィセラは壁に寄り掛かり、アイテムポーチを開いた。

「ダンジョン攻略用のアイテムを持ってるはずなんだけど、何だったかな~」

 空中に浮かぶ虚空。

 その中心はゆっくりと渦巻いており、どこか別の空間と繋がっていると思わせる光景だ。

 

 この虚空こそが「アイテムポーチ」。

 アンフルのプレイヤーならば誰でも持っているものである。

 プレイヤーレベルと共に収容上限も上がる仕組みになっており、120レベルのフィセラのポーチの大きさは大型のトラック2台の容量を超えるだろう。

 彼女はそのジョブ柄、多種多様なアイテムを必要とするため、ポーチの範囲を課金によってさらに広げていた。

 所持しているアイテムの全てを覚えるなど、到底出来る量ではない。

 

 例外として、1000以上のアイテムを暗記する者、ポーチからの取りだし時間を短縮させて高速スワップを戦闘中に行う者。

 そんな高プレイングスキルを持つ者等の中に、フィセラが居る訳も無い。


 ダンジョンの多くには迷路がある。それを攻略するためのアイテムは何十と存在する。

 と言っても、フィセラに覚えがあるのはその内の数個だ。

「<ダンジョンコンパス>……は使いにくいから捨てた。<籠の名の妖精>……は売った。<アンサーダスト>は、あ、持ってるな」

 目当てのアイテムを思い出した瞬間に、待っていたかのように虚空から小瓶が吐き出された。

 

 小瓶の中には入っているのは、黒色の粉塵。

 特別な光を発している訳ではなく、今に爆発してしまうなんて危険性のあるものでもない。

 ただの小瓶と粉塵だ。

 

「これがアンサーダストよ。この中のダストが出口までの道を教えてくれる。走って追いかけるのもめんどくさいから、あなたに任せるわ。カーニヴォル」

 フィセラは小瓶を高く持ち上げた。

 それを彼が見やすくするために。

 

 <巨悪・カーニヴォル>。

 フィセラが召喚した巨人である。

 と言っても、その大きさはこの世界のジャイアント族と比べると少し小さく、洞窟の天井にぶつからないまま立てるところを見ると、身長は4から5メートルほどだろう。

 肌の色は灰色。くすみや汚れではないことは、張りのある肌を見れば分かる。

 腕は6本。肩を起点にして、通常の位置に1対。その上にある形で1対。背中側の少し下の位置に1対。

 頭には分厚い布を巻いており、その素顔は輪郭さえ分からない。


 そんなカーニヴォルは目のまえに出された小瓶を見て、低く唸りながら頷いた。


 カーニヴォルの反応を見てフィセラは小瓶を下ろす。

 ――持ち上げてから気づいたけど、顔を布でぐるぐるにしてるのに見えてんのかな?見えてるよね、魔法的な何かで……多分。

「アンサーダストは動きが微妙に速いから、頑張ってね」

 そう言いながら小瓶の蓋を開けて、その中身の粉塵を軽快に辺りへばらまいた。

 すると、粉塵はキラキラと輝きだした。

 空中を漂う小さな鉱石が光を反射しているようだが、ここは完全な暗闇である。

 つまりは、粉塵自体が輝きだしたのだ。

 そうして、小さな光は洞窟にゆっくりと広がっていく。

 だがすぐに、ピタリと動きを止めた。

 アンサーダストが「正解の道」を見つけたのだ。

 

 光る粉塵は、壁の隙間に吸い込まれていく。

 暗闇の中では気になるものではなかったが、確かに幅10センチほどの隙間があった。

 だが、明らかに、それは道ではない。

「うわ――。マジ?」

 

 上に戻る方法は簡単だ。

 自分が落ちた穴を戻ればいいのだから。

 だが、もしかしたらさらに続くような道があるかもしれない。

 正規のルートというものがあるかもしれない。

 そう言った思いでアイテムに頼ったのだが、結果はこのとおりだった。


「さすがにこれは……」

 あきれるフィセラの隣からカーニヴォルが1歩踏み出す。

 そして、吠えた。

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!!」

 フィセラがヒッ、と小さく悲鳴を上げてしまうほど突然に轟音が洞窟を揺らしたのだ。

 彼女が呆気に取られている内にカーニヴォルは走り出し、その隙間に入っていた。

 

 当然、どれだけ身をよじらせようとあの巨体が10センチほどの隙間に入る訳がない。

 岩を削り、殴り、抉り、また殴る。

 そうして、無理やりにアンサーダストを追って行ったのだ。

 フィセラの命令通りに。


「うわ――。マジ?」

 アンサーダストが隙間に入っていた時よりも数段低い声で、そう言った。


 なんにせよ、フィセラの目の前には道ができた。

 それもおそらくは、この迷宮の外に繋がる道だ。

 

 ここで文句を言いながらカーニヴォルが道を整えるのを待つか。

 それとも、彼が戻ってきて真っ暗な道で手を引いてくれるのを待つか。


 そんな馬鹿な選択肢を思い浮かべる事もなく、フィセラはカーニヴォルが掘った穴を覗いた。

 

 巨人を彷彿させる体躯のカーニヴォルが作ったのだ。

 フィセラの身長なら、楽に進むことが出来るだろう。

 少しの歩きにくさは我慢するしかない。

 すでにカーニヴォルの姿は見えないが、まだ彼が地面を掘っていく音が聞こえている。

 その後を追おうと、フィセラは穴に入った。

 だが、一歩進んだところでふと後ろを振る返った。

「結局アレは何だったの?」

 

 この洞窟にいた「何か」。

 おそらくフィセラが落ちて来たずっと前からいたそれの正体をフィセラは思った。


「まあいっか。ミンチにした後で考えても意味ないし、怖くて瞬殺したし……、よし!忘れた!」

 そう言って、また歩きはじめる。

 彼女のスピードよりも、カーニヴォルが岩盤を掘り進めていく方が速そうだ。

 その証拠に少しずつ穴の奥から聞こえてくる音は小さくなり、今では音の反響がかろうじて耳に届く程度である。

「もうちょっとご主人様に合わせて欲しいよね~。完全に置いてけぼりなんだけど?…………それになんだか、すごい……酔う」

 頭をブルブルと振って、気を晴らす。

 何かがまとわりついているような、いきなり頭が重くなったのだ。

 フィセラはん~~、と唸りながら、穴を進んでいった。

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