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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに
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迷宮の罠(5)

 フィセラが落下していった直後の話。

 迷宮上層に残された4人。と言うより、1人落ちていったフィセラ以外の4人。

 彼女らは、その場を動けずにいた。


「くそ!なぜ開かない?さっきは魔法が発動していただろう!?」

 シオンはまさしくフィセラが落下した場所の真上で地面を蹴っていた。

「もう、やめなさい」

 タラムが冷静にシオンをなだめる。

「そのトラップからはもう魔力を感じないわ。設置型の魔法のようだけど、少しずつ魔法陣に魔力を溜めることでようやく作動するのでしょう」

「落ち着いて分析をしている場合か!?フィセ……、セラ様とはぐれてしまったのだぞ!…………もういい」

 シオンは腰の剣を抜いて、刃を地面に突き立てる。

「無理やり開ける!問題ないな?」


 タラムは返事をしなかった。


 フィセラ様ならばあんな罠程度、容易に回避できるはず。

 でも、そうしなかった。

 実際あの瞬間の…………、私が見たお顔は冷静そのものだった。

 故意に罠を発動させた?

 なぜ?私たちを置いて……。


「おい!いいのか?タラム!聞いているのか?」

 シオンからの再三の呼びかけにようやくタラムが反応を返す。

 タラムの目が自分に向いたを見て、シオンは話をつづけた。

「床を壊しても魔法は大丈夫か?暴走したり迷宮に影響を与えたりは」

「そう言った事を引き起こすのは強力な魔法よ。これは違うわ」

 

 シオンはタラムの答えを聞き終えた瞬間に剣を持ち上げて、刃を床から離す。

 勢いをつけるには距離が必要である。

 思いっきり振り下ろそうとした時、タラムがつぶやいた。


「こんな物は罠とも言えない」


 シオンは手を止めた。

 なにが言いたい、シオンがそう聞かずとも、タラムの言葉は続いていた。

「罠に落ちたのではなく、下に向かわれたのよ。それも御一人で」

「……考えがあるということか?」

「かもしれないわね。何にせよ、私達には関係ないことよ」


 その言い方だけはシオンは無視できなかった。


「貴様!この任務を!」

「……あの御方にそう思われた。ということよ」

 

 キンッ。

 シオンの手にあった剣がなんの勢いもなく重力に従ってただ落ちた。

 そんな剣と同じように、シオンの瞳からも光が薄れてた。

「この任務、私達には最初から」

 萎れている。

 そんな言葉の体現をしているシオンの言葉をタラムが制止した。

 慰める訳ではない。

 やめろ、という手を挙げたジェスチャーをするタラム。

 そうした理由はすぐに分かった。


 近づいてくる2つの足音。

 部屋を出て左側から聞こえてくる。

 そちらの方向は迷宮の奥。

 つい先ほど、ミレとマルナが偵察のために向かって行った方向だ。

 

 そして、マルナが指定した、この部屋に戻るまでの時間が経とうともしていた。


「よお。元気か?」

 ミレが変わらぬ調子で声をかけながら、部屋に向かって歩いて来ていた。

 タラムが少し頭を下げて会釈をする。

「そちらは何かありましたか?」

 タラムの質問には、ミレの後ろを歩いていたマルナが応える。

「いいえ。何もありませんでした。下に繋がる道さえも」


 2人がこの先の道を確認するために使った時間は、ほんの数分だ。

 それで十分なほど、迷宮は小さかったのだ。

 

「正確に言えば、道は閉ざされていました。見た目にはただの崩落ですが、覗いてみるとずっと先まで壁や天井が崩されています。それも何百年も前に」

 そのことから導き出される答えは1つ。

 その時、同じタイミングで4人はある場所に視線を向けた。

「つまり、先に続く道は「これ」だけだってことだな」

 

 ミレ達の視線の先にあるのは、フィセラが落ちた穴のあるあの部屋だった。


 シオンが最初に視線を戻して、ミレ達を相手に声を荒げた。

「迷宮がそんな単純でいいのか?階段から降りた先は大きな部屋、そこからは迷うことも無い道が続いて、最後は罠が1つ…………、この迷宮の目的は何なんだ?」

 シオンの疑問はもっともだ。

 「迷宮」この字のごとく。それを表していないこの場所は普通ではなかった。

 

 だが、タラムは「逆」だと考えていた。


 マルナが言っていたように、迷宮とは単なる総称に過ぎない。

 であるならば、今は囚われた考え方をするべきではないはず。

 迷うことが無いように、ある場所に必ず着けるように。

 ここはそのために作られた場所。

 ここは目的を持って作られている。

 それも、かなり限定的な目的。

 …………さらなる地下に何かを…………。


 タラムの頭が答えを導き出そうとした瞬間、ミレがタラムの質問に応えた。


「ただ捨てるだけなら、これで問題はないんだろうよ」

「捨てる?」

 ミレが自然に口にした言葉が、余計にシオンの耳に引っかかった。

「……あ。いや、別に、なんでもねえよ。……それよりも!」

 ミレが話を逸らそうと、無理やりにタラムへ質問を投げる。

「お前らの方はどうだった?この床は開けそうなのか?」

 周囲の偵察をミレとマルナが、罠のある部屋の調査をタラムとシオンがと言う役割分担をしていたのだ。

 マルナ側の成果を聞いた以上、次はこちらの番である。

 

 たとえミレとマルナが何かを隠していたとしても、今知らせないのならば、それはシオンやタラムが今知らなくて問題ない情報なのだ。

 

 きっとそうなのだろう、と自分に言ってから、タラムは聞かれたことに答える。

「いいえ、床の魔法を無視して床を開くのは得策ではありません。ここは……、セラ様が戻るのを待つべきだと私は思います」


 シオンは頭を傾げた。

 いつの間にか、さっきまで自分が言っていた事とは真逆の決定がされているからだ。


「ちょっと待て!私は……」

「誰がそう考えたのか、分かるでしょう?」

 タラムこと、ルビーナ・ラムーはそれこそがフィセラが自分たちに望む事だと考えている。


 シヨン、フィセラ様の行動には意味があるのよ。

 フィセラ様は迷宮で唯一の道を選択して先へ行かれた。共に行くことを望むならそうはしないはず。

 あの御方はまだ、私たちが隣を歩くことを望まれていないのよ。

 

 シオンこと、シヨンはタラムの無言の瞳を見つめた。だが彼女達はテレパシーやメッセージの魔法やスキルを持っていない。

 それでも、タラムの「言葉なき言葉」を理解できなくても、「意志」は感じ取れる。

 シオンがタラムの瞳から感じ取ったのは、今は何もするな、と言う意志だ。


 分かってる。

 私たちの2人の最終決定権はお前だ。

 素直な従うさ。


 2人の一瞬の視線の交わり。

 だが「一瞬」とは、ミレには長い時間だった。

「……お前らの訳アリ感にはもう飽きたよ。セラを持つならそれでもいい。とりあえず外に出よう、ずっとここにいてもすることはないだろ?」

「いいえ。迷宮に外に出ることは出来ません。セラ様を置いて私達だけ陽の下に戻るなど、許されることではありません」

 タラムの意志は強い。隣ではシオンも頷いている。

「誰が許さないんだよ…………、まあどっちでもいい。階段の下の広間で待とう。セラがいる下層から戻る道が他にあるとしても、あの階段は必ず使うだろうからな」

 それならば、とタラムは了解した。

 

 4人が来た道を戻る中で、ミレは最後尾にいた。

 後ろを振り返り暗闇に目を凝らす。

「お前がそれを見て、何を感じるか。どうするのか。セラ、お前の心を教えてくれ」

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