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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに
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迷宮の罠(4)

 フィセラはスタッと華麗に着地を決めた。

 体感10秒の落下はかなり高速でフィセラを地面に打ち付けようとしていたが、彼女の身体能力は無重力を感じさせるほどの柔らかさで彼女を地面に降り立たせた。

 ――魔法陣が光った後に床が無くなったからただ下の階層に落とすだけの罠だと思って、素直に引っ掛かってあげたけど……思ったよりも落ちたわね。

「なんかすごい強がってる人みたいになっちゃたな。まあ、いいわ」

 フィセラに緊張感は無いが動揺もしていない。

 彼女は冷静に周囲を観察しはじめた。

「遺跡じゃないわね。完全に地下洞窟って感じ。それにこれは……」

 フィセラは鼻をこすった。

「死臭と腐敗臭ね」

 

 先ほどまでいた「上」とは違い、自然の岩肌の壁と天井。

 少し空気が重いのは、漂う臭いだけが原因ではない。

 壁がしっとりと濡れるほど湿気があるのだ。


「あああ!絶対ゲジゲジいる!わんさかいるわこれ。黒い太陽召喚して、ムカデで相殺しようかな。いや……、どっちも気持ち悪いわ」

 そう無駄口を叩くほど、フィセラには余裕があった。


 異世界に来てから短くない時間が経過した。

 ゲナの決戦砦とラガート村しか知らないが、転移したと言う事実を受け入れ心を慣れさせるには十分だった。

 

 そして、僅かだが分かっていることもあった。


 自分がこの世界でどれだけ強いかと言うこと。

 能力、スキル、アイテム。これらが問題なく使えること。

 その全てを使った「本気」をまだ出していないこと。


 それを理解しているだけで、不思議な無敵感が彼女を安心させていた。


 フィセラは上を見上げる。

 真っ直ぐに落ちてきたのだから、消えた床が見えるはず、もしくはあの部屋の天井か。

 だが、何も見えなかった。

 おそらく床はすでに戻っているのだろう。

 そんな一切の光が無い状態と、自分が落ちた高さを考えれば、フィセラでも見通せない闇がそこにあると言うことは分かる。


「別にここを登っていく訳じゃ無いからいいけどさ」

 

 気を取り直して、散策を始める。


 床は整った石畳では無い。

 それに滑る。

 少しバランスを崩せば簡単に転んでしまうような環境だが、フィセラは散歩するように歩き進んでいた。


 コン、コン、コン。


 硬い地面を叩くのはフィセラのブーツだ。

 その規則的な音だけが、洞窟にこだましている。


 コン、コン、コン、ペタ。


 ――ミレ達はこんな所で何をしたいの?何をさせたいのかって方が正しいか……。


 コン、コン、ペタ、コン、コン、ペタ。


「……、何か踏んだかな?」

 ブーツが地面を叩く音とは違う音が混じっていることに気づき、足を止める。


 ペタペタペタペタ。


 踵を上げて、背中からブーツの裏をみる。

 足は動かしていない。

 それでも、ならない「足音」。


 ペタペタペタペタ!ペタ、ペタ……ペタ。


 裸足の何かが近づいている。

 おそらくそれはすぐ目の前にいる。

 フィセラはそんなイメージを想像した。

 

 とても正確なイメージを。


 靴裏を見るために後ろへ顔を向けていたフィセラ。

 ゆっくりと前に視線を戻す。

 なるべく驚かないように、地面を見ながら、前方に視線を滑らせていく。

 そしてそれを視界に入れた。

 

 真っ白な足。

 

 完全な暗闇で正確に色を捉えているか正直分からない。

 ただそれでも言えることがある。

 足の先を見ただけだが、これだけは分かった。

 

 絶対的な生気の無さである。


 フィセラはその何かの素足を見た瞬間にビクリと体を震わせて、走った。

「無理無理無理!キモいって!ジャンルが違うって!」

 風のような速度、を出すにはあまりにも洞窟は小さかった。

 フィセラはすぐに洞窟の端に着いてしまったのだ。


「別に怖いわけじゃ無いよ!?倒せるし、どうせ倒せるし!でも、絶対あれはキモい」

 逃げてしまった悔しさに唇を噛みながら文句を言い続ける。

「全身見ておけば良かった。そうすればこんなに身構えなくてもいいのに」

 

 ペタペタペタ。


 足音のリズムを考えると早足だろうか。

 アレがこちらに向かってきているのが分かる。


 ――嫌だな〜。1人で相手したく無いな〜。

「ああ!呼べばいいのか!」


 ハァァアァァアア!!

 身の毛がよだつような悲鳴が正面から発せられる。

 まだフィセラの視界にそれは映らない。

 だが、それがそこにいることは確実に感じ取れる。

 徐々に輪郭を持ち始め、その形を見せようと言う距離まで来た。


 その時、フィセラが手を叩いた。

 パァン。

 洞窟に鳴る破裂音にある言葉が混じっている。

 フィセラだけが、その口から漏れる言葉を知っていた。


 <正義は存在しない>。


「殴り、捻り、潰し、叩け。<巨悪カーニヴォル>!」


 その瞬間、顕現する巨人。

 六腕三対の灰色がかった巨躯。


 フィセラの背後に現れた巨人は2本の腕を前へと伸ばした。


 合掌。


 目の前で合わされた掌がフィセラの視界を遮る。


 そして、巨腕が放たれた。

 背後から風を切りながら飛んでいく大砲のようだ。


 続けて右上腕が放たれる。ほぼ同時に左下腕が放たれる。間髪入れずに右下腕が放たれる。

 再度、左下腕が放たれる。次は、左上腕、右上腕、右下腕、左上腕、右上腕、左下腕、左上腕、右下腕。

 止むことなく続く殴打。


 拳が敵を打ち、地面まで壊す音はまるで連続した爆発音だ。

 続けて打ち上げられた花火が目の前で爆発しているかのようだった。


 だが、フィセラがそれに目を眩ませることはない。

 この巨人、<カーニヴォル>の中段の腕が作る合掌によって彼女を護られているのだから。

 

 強かな巨腕に包まれ、爆発音を聞きながら、フィセラは口を開いた。

「爆音が体を叩くこれ!気持ちいいねぇ。最強って感じじゃん?」

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