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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに
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迷宮の罠(2)

 他愛ない会話も早々に終わらせて、5人は遺跡の中へ入る。

 ミレが先頭を歩いて、崩落によって露出した階段の前に集まった。

 フィセラは期待と若干の眠気を胸に皆の後についている。


「俺らはこのぐらいの暗さでも問題ないんだが、お前らは無理だろ?」

 ミレが階段の前から、そう口を開いた。


 暗視が出来るのはダークエルフの特性ではないだろう。

 彼女たちのレベルか、スキルか、どちらにしても不思議なことではない。


 ミレの横からフィセラが階段の下を覗く。

「このぐらいって……、完全に真っ暗だけど」

 上から見る限りは、迷宮の中に光源は無かった。

 元々遺跡の地下に隠れていた迷宮である。明かりが灯っている訳もなかった。

 それでも、遺跡の入り口から入る太陽光がほんのりと照らすだけで、フィセラも問題なく進める程度である。

「まあ、行けるけどね」

 余裕だ、と胸を張るフィセラの顔を見て、ミレが頷く。

「そうかよし。行くぞ!」

 暗闇を一切気にせず下へ降りようとするミレとフィセラ。


 その後ろではマルナがあるアイテムをタラムとシオンに渡そうとしていた。

「お2人にはこちらを」

 ポケットから取り出したのは、黄色い石だった。

 流れを考えれば、暗闇の中でも進めるようにするようなアイテムのはずだ。

 差し出されたものを喜んで受けとるべきなのだろうが、どう見てもただの石にしか見えないそれについ微妙な顔で応えてしまう。

「……あ、ありがとうございます。とても助かります」

 

 タラムは明光魔法を習得している。

 だが、シオンと共に見えないふりをしていた。

 それは、魔法を持たず暗闇を見通すようなレベルでもないシオンに合わせているからだ。

 彼女らの「設定」では、2人は同程度の実力を持っていることになっているから仕方無い。


 マルナはタラム達の反応を見て、2人の考えていることに気づく。

「ああ!ごめんなさい、使い方がわかりませんよね?」

 申し訳なさそうにしながら、マルナはタラムの手にある石を指さした。

「これはこの辺りには無い鉱石です。ここからずっと北へ行かなくては見ることも無いかもしれません。使い方は簡単です。割ってください、ヒビを入れるだけでもいいですよ」

 ではどうぞと言いながら、タラムの杖と石に視線を送る。

 杖で叩け、ということなのだろう。

 

 タラムはほんの少しだけ力を入れて杖の先で石の真ん中を叩く。

 石には簡単に亀裂が入った。元から柔らかい方鉱石なのだろう。

 少しすると亀裂が光りはじめた。

 内側から漏れだす光。

 比喩ではなく、本当に光が漏れ出ている。

 その液体のように出てくる光が石から飛び上がり、空中で丸い光体を作った。


「この鉱石は<フェアリーストーン>と呼ばれていて、光をため込む性質をもっているんです。他の土地には、炎や水をためるものもあるとか。…………作られた光体はアイテムの所有者の周りを回り続けます。妖精みたいですよね」

 マルナの説明が終わると、彼女の言うとおりに丸く小さな光体がゆっくり動き出した。

 タラムから50センチメートルほどの距離を保ちながら周囲を照らしてくれる。

 これなら階段の下の暗闇は問題なさそうだ。

 

「おお!これはおもしろいな。ありがとうマルナ!」

 少し興奮したシオンがタラムの背後にいた。

 すでにシオンも石を受け取っている。

 彼女はタラム同様にアイテムを発動させており、光体を掴もうと手で光を追っていたのだ。

「光がつかめる訳ないでしょう?さあ、セラ様達を追いましょう」

 タラムの言葉にマルナとシオンは了解し、すぐに階段を下りていく。


 階段の壁には飾りは一切なく、燭台の跡や松明置きも無い。

 もとから光を必要としていない場所のようだ。


 そんな階段を下りていくと、タラムはすぐにフィセラ達の背中を捉えた。


 自分の足下に薄っすらと影が出来てそれが前方に伸びていく。

 フィセラはその光景を見て、背後を振り返った。

「なんかいいもの持ってるじゃん?」

 フィセラはタラムとシオンの周りを回る光を見ている。

 

 それに対してタラムが返事をする前に、ミレが話し始めた。

「<フェアリーストーン>だ。効果は周囲を照らすだけ。だが、かなり貴重だ。……安くはないぞ」

「へ~~~~、…………」

「……値段を聞けよ」

「やだ」

 あらぬ方向へ視線を向けるフィセラに、ミレは舌打ちをする。

「まあいい。貸しにしといてやる」


「私のですけどね」

 2人の会話の終わりにマルナが一言付け加えていた。


 5人が居るのは大きな部屋だった。

 四角い部屋で遮る物が無いから、光が大きく広がり部屋全体を確認できる。


 そして、みんなの視線はある一点にのみ集中していた。

 階段の反対となる場所にある扉だ。

 隠し扉などは無いと考えるなら、部屋唯一の扉、進むべき道と言うことになる。


「これがダンジョン?こういうのは迷路みたいになってなきゃダメだと思うんだけど!」

 突然のダメ出しを行うフィセラ。

 ミレは珍しく同意した。

「確かに、拍子抜けでつまらなくなるのは勘弁だな」

 続けざまにミレはフィセラに話しかける。

「だが、1つ訂正だ。ここは迷宮だ。ダンジョンじゃない。そう言ったろ?」


「あ、ああそうだったね。……ごめんごめん」

 フィセラは顔色を変えずにそう返した。

 この暗闇なら多少の変化でも気づかれないだろうが、それでも感情を表に出さなかった。

 ――は?それに違いがあるの?いや同じじゃない?日本語とか英語の違い?ここ異世界だよね?…………意味わからん!だまっとこ。


「何が違う?おなじだろ」

 シオンがミレに問いかける。


 ――よし!よくやった!

 心の中で親指を立てた拳をシオンに向けておく。

 ――な~んか。考えることが似てるのが……怪しいけど……、気のせい気のせい……のはず。

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