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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに
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迷宮の罠

「で?………………、ここはどこなの?」

 フィセラはあくびを噛み殺しながら隣のミレに問いかける。

「言っただろ。迷宮だ」

 彼女らの3倍ほどの大きさの建物を前にして、5人がただ待っていた。

 迷宮への突入を。


 都市フラスクの南門から出て、東の平原に向かって半日。

 小高い丘が増えてくると、それらの中へ隠れるようにして小さな村が見えてくる。

 その村に入らず通り過ぎるとすぐにそれが姿を現す。


 遺跡。と言うよりは大きめの石組みの小屋と言った方が適切だ。

 だが中には銅像や壁画が並んでおり、供え物が残されている。

 最近は人が来ていなかったのか、供えられたほとんどの作物が傷み腐っていた。


 フィセラはその様子を目の端でとらえながら、恐れることなく中へ足を踏み入れる。

「全然それっぽく無いけど?本当にここが」

 だが、すぐに足を止めて頷いた。

 「それ」が目の前に現れてしまっては、納得するしかないのだ。

「入り口はここって訳ね。ね!そうでしょ?」

 フィセラが遺跡の中から、外にいる仲間へ向かって叫ぶ。


 フィセラの視線の先にあるのは崩落した床だ。

 遺跡の真ん中にぽっかり空いた穴。どこまでも続くような暗闇が旅人を誘い込んでいる。

 そんな穴の先が人工で作られた石壁や人が降りやすいような階段で出来ていれば、その誘惑は尚のことだろう。


「そうだ。……少し前に冒険者がここに来た。そいつらはある依頼を受けていた。この近隣で目撃されたモンスターの討伐、よくある依頼だった」


 だが、その冒険者たちはなかなかモンスターを見つけられずに、予定していなかった二日目の捜索が必要になった。

 野宿の準備をしていなかったため近くの村へ戻ることも考えたが、その途中で丁度いいものを見つけた。

 それがこの遺跡だった。

 あたたかな毛布や出来立ての料理は無いが、壁と屋根がある。

 それだけで十分。

 だが、遺跡の「床」は彼らを歓迎していなかった。

 村人よりも体が大きくさらに多くの装備を持つ彼らを支えられるほど遺跡は健在でなかったのだ。

 

 そうして露出した迷宮の入り口。

 自分たちが発見したのだと、意気揚々と迷宮に入るほど冒険者は馬鹿でもなかった。

 村に戻り、報告した。

 今まで発見されていなかった迷宮なのだから魔獣化した動物やモンスターがいるかもしれない。

 当然の忠告だ。


 それに対して返って来たのは、村人全員からの暴力と刃だった。

 その後、フラスクの協会支部に戻って来たのは傷だらけの若い冒険者1人だけ。それ以外の者は、行方不明となった。

 とは言っても、帰って来た冒険者の話からある程度の事情は推測できた。

 彼らが入った遺跡あるいは迷宮が村人にとって神聖ものであり、それを暴いた冒険者に怒りを覚えた可能性。

 あるいは、解放された迷宮から漏れ出た魔力の影響で村人が狂人化してしまった可能性。


 どちらも過去実際にあったケースである。


 少なくとも、発端が冒険者にあるというのははっきりしていた。

 そのため、協会は国への報告の前に自分たちだけで解決しようとしたが、起こるのは次の行方不明や村人との戦闘ばかりであった。

 これ以上は国との衝突となると危惧した協会は、ただ1つの依頼をだけを出してすべてを忘れることにした。


「それがこれだ」

「…………いや、最後だけ省略しすぎじゃない?」

 ミレの説明を黙って聞いていたフィセラが口を挟む。

「依頼を受けたのが私達だったということです」

 姉の代わりにマルナが説明を続ける。


「冒険者協会、カル王国。どちらにも関係が無く、村人の調査や妨害、迷宮の攻略をすることになっても問題が無い実力を持っていること。それを条件とした依頼が協会から出されたのです」

 マルナをミレの隣に立ち、自分の胸に手を当てる。

「それを私たちが受けた、と言うことです。私たち2人はそうした「裏の仕事」を受けながら、各国を旅しているのですよ」

「ま、そう言うことだ。質問あるか?無いな?よし行くぞ」

 ミレが質問を受け付けるつもりの無い速さで歩き出す。

 

 シオンやタラムはヤレヤレと言った様子だが、質問も文句も無いようだ。

 だがフィセラには気になっていることがあった。


「あなた達が、私たちに、手伝わせるほどなの?ここにはもの凄い強い奴が眠ってる?もしかして、村人はもう手遅れって感じ?……殺してほしいの?」

 ――ミレとマルナのレベルがあれば、そうそう苦戦する相手はいないでしょう。2人がかりならあのゴブリン王もどきにも勝てるはず……、私たちを呼んだ理由はおそらく別ね。


「何かがいるのは確認してるが、俺1人でも問題ない程度だ。それと村人には手を出さない。そもそも、人間相手なら、……話はもっと簡単さ」

 獣の血よりも人の血を多く吸ってきた剣をミレ指先が触れる。

 だが、その刃を鞘から抜きはしない。

 今回の敵は「人間」ではないのだ。


「そう、まあ詳しいことは正直どうでもいいんだけどね。確認したかっただけよ、あなた達の依頼の「メイン」がいつなのかを」

 ミレはフィセラに感心して、彼女の顔をまっすぐ見る。

「察しがいいな。……お前の言う通り。「次」が本当の……本気の戦闘になる。覚悟してけおけよ」

 そう話している最中にも、フィセラは飄々としている。

 そのフィセラにミレはニヤリと笑みを浮かべて、脅しをかけた。

 

「本気の?ふ~ん、期待しておくよ」

 本心から来る言葉を返した。

 そして、それはフィセラの希望でもあった。

 ――暴れたい訳じゃないけどさぁ。私は刺激が欲しいんだよ。あ~あ!このダンジョンに怪物とかいてくれたらよかったのに!

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