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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに
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湖の怪物(8)

「でっでは、皆さま、危険指定モンスターの討伐、お疲れ様でした」

 冒険者協会からの試験官アルノルドがセラ(フィセラ)、タラム、シオン、ミレ、マルナの5人前で頭を下げた。

「し、試験中に討伐したモンスターについても報酬を払う、と約束した事項は有効です。フラスクの支部に帰り次第、手続きを行います。ですが……」

 アルノルドは視線を5人の後ろに向けて話を続けようとする。

 後ろにあるのは、マルナが絡めていた鉄線を使って陸地まで引き上げたシーサーペントの頭。

 アルノルドはそれに萎縮していたのだ。

 だが、タイミング悪くマルナが鉄線を頭から外し回収する。

 それによって、僅かだがシーサーペントの頭が揺れた。

「…………ひ!……ふ~。あ~、なんの話だったか……そうだ。協会の調査に時間がかかるかもしれません。それだけは、ご容赦ください」

 

 元々は他の冒険者が依頼の受注をしていた案件。それを正式に冒険者登録をしていない者たちが解決してしまう。

 そのようなことはよくあることだ。

 だが今回のように、黒星ランクの冒険者に討伐を任せられた仕事を、冒険者登録試験の最中に新人が討伐してしまうケースは極めて稀だろう。

 協会の判断に時間がかかることは仕方ないことだ。


 話を終えたアルノルドが震える手でシーサーペントを指さす。

「それはもう死んで……」

「あ?どう見ても死んでんだろ?」

 ミレが頭だけになったシーサーペントをバンッと叩く。

「そう、ですか。頭だけになっても動くモンスターがいるという話を聞いたこともありますので、もしかしたらと」

「こいつはそんな特殊なモンスターじゃねえよ」


 アルノルドは死んだ魚の目の本物を見たことがあるし、そういう目をした人間にあったこともあるが、これほどの巨大な死んだ魚の目は初めてだった。

 そんな虚ろな目と断面からにじみ出る赤い血が、それの確実な死を教えてくれる。

  

 少しは安心したアルノルドがあることを思い出す。

「そう言えば、あの人達は?男性だけでパーティを組んでいた5人は……」

「死んでしまいましたよ、全員」

 マルナが答える。視線の先は湖に浮かぶシーサーペントの胴体向いていた。

 あの中にある、と言うことなのだろう。

「そう、ですか。なにか彼らの体の一部や装備などの遺品はありますか?あの胴体をさばいて5人の体を見つけるのは難しいでしょうから、このままでは行方不明扱いになってしまう」

 ミレが何かを思い出してフィセラを見る。

「確か、奴らの剣を掴んでたな。セラ、渡してやれよ」

 突然話を振られたフィセラは一瞬何のことか分からなかったが、掴んだ剣の記憶は1つしかなかった。

「……は?要るの?そういうのは先に言ってもらわないと……。その辺の放り投げて来ちゃったよ」

 フィセラはそう言いながら、背後の広大な湖を指さした。


「あ、ああ。まあ、全員の証言が会えば大丈夫でしょう。多分」

 その後、アルノルドは少し黙り考える。

 他に伝えるべきことがないかを思い出しているのだ。

 だが、それらはもう無く、後はフラスクへ帰るだけだということに気づく。

「では皆さま、これにて試験が終了です。……都市へ帰りましょう」

 

 アルノルドはそう言ったが、少し待っていてくれとも言ってその場を離れていった。

 もう一人の協会員エリンとカップルの冒険者を迎えに行ったのだ。

 想像していた冒険者の戦闘とは全く違う怪物と強者の戦いを見て、戦闘後も近づいてこなかったのである。


 アルノルドが彼女らを連れてくるまで、ほんの数分の間だ。

 その間は、フィセラ達だけとなった。


 ミレはマルナと目で会話すると、フィセラ達3人に話しかけて来た。

「セラには話したが、お前らに頼みたい仕事がある。正確には、手を貸してほしい仕事が2つあるんだ」

 タラムとシオンは疑いの目を2人に向ける。

 だが、既にフィセラに話しているという言葉がある以上、口を挟むことは出来なかった。

「お前たちは強者だ。それもかなりの、な。ただ生きて来ただけでは、ただの訓練では……そのほどの力を手にすることは出来ない」

 ミレは自分の剣に触れた。自分もそんな強者の一人だとでも言うかのように。

「どこで何をしてきたのか。ここで、この国で何をするつもりのか」

 その言葉にタラムの警戒がより強くなり、フィセラはタダ黙って話を聞いていた。

「そんなのを詮索するつもりはない。互いに、事情があるだろう?だから頼みを聞いてくれたら、俺たちはそっちに干渉することは無い。だから」

 

 ミレが最後の言葉を口にする前に、フィセラが横槍を入れる。

「頼みを聞いてくれたら干渉をしない?じゃ、断ったら?…………それは、私を脅してるの?」

「……あ?」

 雰囲気が変わるフィセラ。それに応えるように殺気づくミレ。

 

 そんな2人の間に素早くマルナが入る。

「セラさん!私たちは脅してなんていません!これは……姉さんの言葉が悪かっただけです。私たちはただ、皆さまのお力を貸してほしい。それだけなのです」


「ああ。そう言うことだ」

 ミレがマルナの言った通りだと適当に頷く。マルナはその様子を恨めしそうに見ていた。

 フィセラも怒ることのことでもないと考え、一歩下がる。

「まあ、いいわ」

 

「こういうのには鋭いんだな?」

「…………?別に」

 こういうのには鋭いフィセラであった。


「とにかく!…………ああ~。どうなんだ?」

 ミレが話を再開しようとしたが、途中でやめる。3人に全て任せることにしたのだ。

 だが実際、その判断を下すのは1人だということは気づいていた。

 だからこそ、ミレとマルナの視線はただ一人に向いている。


 そして、タラムとシオンの目もその彼女に向いていた。

 ――え……私が決めるの?なんで?まあ、良いけど。

「…………内容によるかな」


「迷宮攻略だ」

「じゃ、良いよ」


「………………は?良いのか?」

 あまりにも自然に得られた了解の言葉についあっけにとられるミレ。

「なに?断られると思ってたの?」

「そういう訳じゃないが、よし!分かった。やろう!…………明日だ!」


「………………え?明日?」


「どうした?明日じゃないと思ってたのか?」

「うん…………早くない?」

 正直すぎる答えにミレは返す言葉が上手く見つからなった。

「いろいろあるんだよ……まあ、ごめん」

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