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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
黄金を求める冒険者たち、饗宴と死闘の果てに
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冒険のはじまり(4)

 ――まじかー。ゴブリンかー。……別に苦手って訳じゃないけど、あいつらはもうお腹いっぱいだよ。

「嫌だなー」

 肩を落とすフィセラ。

 

 それを見ていたシオンも賛同する。

「そうですよね!ゴブリンなんで下等なゴミを、なぜサラ様が、ゥ!」

 突然、言葉が途切れたシオン。

 気になって後ろを見ると、彼女は腹を抱えてうずくまっていた。

「ゴブリンの討伐なんて、私たちには役不足だ!ということですよね?」

 タラムは痛がるシオンなど見えていないかのように、彼女に話しかける。

「あ、ああ、そういう、ことだ」

 それを聞くとタラムはニコリと笑顔をフィセラに向ける。

 

 芸術のような笑みだ。

 笑顔を向けられただけで、この瞬間が幸せになったと錯覚してしまうだろう。

 だが、この状況での美しい笑みは怪しさ満天だ。

「……だいじょうぶ?」


「もちろんです」「は、はい。なんでも、ありません」


 その時、全員の注目を集めるような声が上がった。

「皆様!こちらにお集まりください!今から札を配ります!」

 エリンが袋を持ち上げながら、大声を出していた。

 他の参加者は言われて通りに集まっている。

 フィセラたちも素直に従った。


 すぐに、エリンを囲むように集まると、彼女はもう一度袋を掲げた。

「順番に!パーティごとで!袋から札をお取りください」


 近くにいたカップルや男たちが札を取っていく。

 フィセラはエルフたちの後に続き、最後にタラムが袋を空にした。


 フィセラは取り出した札を観察する。

 そこには大きく1本の線が書かれていた。

「<1>だ……」

「流石です!」

 シオンがすぐ近くで叫ぶ。

「私は<4>です」

 タラムが不服そうに呟いた。

 覗いてみると何かの模様が書かれている。少なくとも、彼女の知る<4>ではないことは確かだった。

 ――ヤバ!数字なのは合ってるみたいだけど、もしかして1じゃない?……この一本線で1じゃないとかある?

 フィセラは文字が読めないことをすっかり忘れていた。

 数字も読めないのではかなり怪しまれてしまう、と心配をしたが、流石に<1>で合っていたようだ。

 

 フィセラが1番。

 カップルが2番。

 男たちが3番。

 タラム達が4番。

 エルフが5番。

「その番号が洞窟に入る順番となります。札はもう使いませんから、私に返してもらっても」

「お待ちください!!」

 フィセラは背後から発せられた制止の声に驚いて肩を上げる。


 今日1番の大声を発したのは、やる気が溢れるほどありそうなシオンではなく、物静かタラムだった。


「それはつまりセラ様がお1人で、その中へ入るということですか?」

 物凄い剣幕でエリンに迫る。

「え、ええ。そうです、が」

「許可できません」

「きょ、許可?」

「私たちはセラ様とパーティを組む予定です!共に行動しても問題はないでしょう?」

 エリンは洞窟のすぐ前まで後退したが、タラムは尚も詰め寄る。


 ――知らない人のフリしとこ。

 フィセラはまるで他人事のように隠れて成り行きを見守った。

 タラムの中ではパーティを組むのがほぼ確定していそうなのが少し怖いと思うが、正直なところ、1人で入るよりかは彼女達と行動を共にした方がマシだとも考えていた。


 だが、そのほんの少しの期待が叶えられることは無かった。


「だ!ダメです!一応、規則で決まっています。冒険者の登録を希望した際の申請人数で試験を受けなくてはいけないんです!」

「その規則の意味は?そのような適当なもので」 

「試験後は自由にパーティを組んでもらっていいですから!今日のところは」

 

 エリンはタラムに押されながらも、毅然とした態度で決まりを守ろうとしている。

 アルノルドはその姿をめんどくさそうに眺めていたが、しっかりと働くエリンを放っておくことはできず、ゆっくりと動きだす。

 

「ええ……。セラさま?洞窟へどうぞ……あなたの<順番>ですよ」

 アルノルドが洞窟へと手で促した。


 タラムの文句を無視するアルノルドを、フィセラはつい睨みつけてしまう。

 絶世の美女に睨まれるなど、喜ぶ者の方が多そうだが、フィセラの瞳の奥の闇は人の恐怖を煽る色をしている。

 だが、彼はなんの反応も示さなかった。

 ただ鈍感だと言うこともあるが、心が強いことも確かだ。


 日々、冒険者を相手にする仕事である。

 だからこその協会の組合員。だからこその監督官、なのだろう。


 一切動じないアルノルドを前に、フィセラも諦める。

「ハイハイ、分かりましたよ。というか、わがままを言ったのは私じゃないし……」


「な!いけません!セラ様」「お待ちください!」

 タラムとシオンが後ろで騒いでいるが、これ以上グダグダしているつもりは無い。


「タラム。今回は私1人で行くから、後でね!」

 ウインクをしてカッコつける。

「今回、とは?もしかして……」

 フィセラの予想通りの反応に彼女は少しニヤつきながら、それでも振り返ることなく後ろ手に手を振る。

「わかるでしょ?」

 フィセラは颯爽と洞窟へと足を踏み入れていった。


 洞窟の入り口からすぐに、下へと降りる坂になっている。剥き出しの岩肌を少し湿り気があり、すでに異臭が漂う。

 ――どこも同じか……。


「ねぇ、君」

 フィセラは洞窟の下り坂を3歩ほど降ったところで、後ろを振り返ってアルノルドは声をかけた。

 逆光となってシルエットしか見えないが、彼もこちらを見ているのは分かる。

「何匹倒せばいいんだっけ?」

「まぁ、3体程度なら……上限はありませんよ」

 顔はよく見えなかったが、ニヤリと口角が上がったようにみえた。フィセラを煽ったのだろう。

 彼女もそれに応える。

「上限?そう…………それじゃ全部でも?」

「……できるのなら」


 フフッ、と笑ってフィセラは下へ降りていく。

 いつかのゴブリン洞窟と違い明かりは一切ないのだが、この程度は彼女にとって誤差だ。

 スイスイと進んでいく。

 

 入り口が少し遠くなったところで、アルノルドの声が洞窟の壁を反射しながらフィセラの耳に届いた。

「制限時間は最初の日が落ちるまで!洞窟の中では確認できないでしょうから、気をつけてください!それでは……ご武運を」


「日没ね……良かった良かった。時間はあるみたいね。全部殺すのは大変だからな〜」


 その時、フィセラの鋭敏な聴覚がある音をとらえた。

 数十、数百、あるいはそれ以上。

 いくつもの何かが移動する音。

 ゴブリンの<蠢く>音。


 聞き覚えのある音だ。


「だいだい……3分ぐらい?」

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