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最悪の魔王を誰が呼んだ  作者: 岩国雅
 滅竜の先導者と蟲毒そして白銀の鱗
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はじめての村に到着(5)

 フィセラ、村長に加えて村人二人が近隣の都市へ繋がる整備されていない道を進む。

 馬などの乗り物はないらしく、徒歩で盗賊のいる森を目指していた。


 街道を少し進んだところで、すぐに森が見えてきた。

 ギルドの砦が転移した森の何十分の一というほどに小さく見える。


「森の中を道が通ってるの?危なくない?獣とか……ほら」

 モンスターや魔獣、そういった類の名前を出してもいいのか迷ってしまう。

 フィセラは今のところ、そういったモンスターの姿は一度も見ていないのだ。

 この世界にそんなものはいないと言われて、不思議がられるわけにもいかないので濁しながら会話を始める。

「森と言っても、大森林と比べれば林みたいなものですよ。危険な動物はオオカミぐらいでしょう。ゴブリンが出ると聞いたことがありますが、すぐに冒険者が退治してくれますから、安全ですよ」

 村長が笑いながらそう教えてくれる。


 ゴブリン。邪悪な小鬼。

 確かに危険なモンスターだが、アンフルではゴブリンキングまで進化していても80レベルを超えることはない。ただのゴブリンでは120レベルのフィセラの敵にはならない。


 ――普通に知ってる名前が出てきたな。ゴブリンていう名前の全然違う生き物ではないはず。おそらく「同じ」だ。異世界なのに元の世界と同じ意味の言葉がありすぎる。う~ん、気にしたら負けなのかな~。

「村長はモンスターの名前とか知ってる?例えばスケルトン、ゴーレム、ドラゴンとか」

「スケルトンとドラゴンは聞いたことがあります。ゴーレムは聞いたことがありませんね」

「ふーん」

 ――まあ、ゴーレムは魔女やら研究者が作ったっていう設定だし自然には生まれないのかも。ドラゴンはいるのか~。竜種は私じゃ倒せないぞ。出会わないことを願おう。

 

 アンフルではモンスターにもレベルがある。

 こちらもプレイヤーと同様に120レベルを上限としているが、それは種族のレベルであってプレイヤーと同じ基準のレベルではなかった。

 当然と言えば当然だ。

 スライムの20レベルとドラゴンの20レベルが同じ強さではおかしいだろう。

 プレイヤーは皆、鑑定魔法で判明したレベルに種族によってどれほど能力値を増加させるかを覚える必要があった。

 ゴブリンやスケルトンであれば、ほぼ増減はないのだが、最上位の種族だと、実際の強さはそのレベルの倍ということはざらだった。

 竜種でいえば、120レベルの約3から4倍の400レベル越えのドラゴンが何体もいた。

 決して一人で戦える相手ではない。

 

 フィセラ達はすでに15分ほど移動しているが森まではもう少し近づけるようなので話を続ける。

「あの森の名前は何?」

「この程度のものには名前はありませんよ」

 前を歩いている村長は、フィセラが指を指している方向に気づいていなかった。

「これじゃなくてもっと大きいの、大森林て言ってたでしょ。あっちのすごい大きい山とかあるところ」

 村の方向、そのもっと後ろにある森、ギルド拠点を飲み込んでいる山の周りにある大森林を振り返る。

「ああ、あそこはアゾク大森林です」

「アゾク?どういう意味?」

「さあ、どういう意味でしょうか?私たちは名前を気にしたことはありません。あそこは未開領域ですから」


 未開領域。


「何それ?」

「え?未開領域を知りませんか?……ああ、中央から来たのですね。なら知らないのは仕方ありませんね」

 ――みんな知ってるもんなの?中央?やばい。何を話してるのか本当に分かんない。

「そ、そう。私は中央の方から来たんだ。それよりさ、未開領域って?教えてよ」

 どこの出身なのか聞かれる前に、話を振らなくてはいけない。

「うーん。未開領域が何かと聞かれても答えられることはほとんどありません。その名前の通りの場所ですからね。恐ろしい魔獣や亜人がいるらしいですよ。時々冒険者が森に入りますが、ごく浅いところを探索するだけです。決して奥地へはいきません」


 ――危険エリアってことか。拠点大丈夫かな。


「そんな危ないのに、村は結構森の近くにあるみたいだけど大丈夫なの?」

 目の前の森よりも、そのアゾク大森林の方が村からの距離は近いのではないだろうか。

「ええ。危険はありません。森から魔獣が出てくるなどはほとんど聞きませんし、村にはハンターもいますから」

 ――そのレベルの森で活動できるハンターか。結構レベル高いのかも。

「まあ、今はケガをしてしまっていますがね」

 ――あれ?どこかで聞いたような気が。

 この村に来てから1日もたっていないのだから、知っている訳がないのだが。

「ソフィーの父親です」

 ――ああ~。盗賊にやられた人か。……やっぱりそうでもないかも。

 ボコられた。

 そんな感じの話を聞いた記憶を思い出した。


 まだ話を続けようと思ったが、時間切れみたいだ。

 村長が立ち止まり、ここまでだと後ろにいる村人を止める。

 どうやら、ここが村長たちの待機場のようだ。

「このあたりで待っていようと思うのですが、どうですか?」

 どうと言われても最適な距離など知るはずないのだが、フィセラは適当に頷いておく。

「うん。このぐらいの距離でいいかな」

 ここから森の中に入るまでは200メートルほどだ。

 後ろの二人も問題ないと肯定の意思を示す。

「2,3人逃げてきても俺たちが捕まえますから安心してください」

 一緒に来た村人がガッツポーズをとる。

「集会場では危なかったけど、もう大丈夫。逃がしたりしないと思うよ。でも、万が一のためにここで隠れていて」

 さすがに2度も失敗するわけにはいかない。

 フィセラは彼らに手を振りながら森へと出発した。

 

 フィセラは自身のアイテムポーチに限界までアイテムをしまっている。

 どんな敵、戦闘だろうとそれに合った武器や装備を選べるのだが、今の彼女は金髪エルフの狩人だ。

 当然、それに合った武器を選ばなくてはいけない。

 この見た目で大剣や杖は似合わないだろう。

 そのため、仕方なく弓矢を主武器として選択していた。


 アンフルでは、後衛支援を行っていたから弓矢の経験はあるが、現実で弓を引いた経験などもちろんない。

 自身で狙いを定め矢を放つことが出来るか、集会場で戦うまで不安だった。

 能力値に大きく差があることは分かっていたので、いざとなれば弓を振り回すだけで十分とも考えていた。


 だが実践が始まると、意外にフィセラの体は彼女の意志通りに動き、弓矢を引く動きに迷いは一切なく簡単に盗賊を屠ってみせた。

 少々室内での戦闘に窮屈さを感じたが、フィセラはこの世界でも戦えることが確認できたのだ。

 だから、次の戦闘ではスキルやアイテムの効果がアンフルと同じように発動するかの実験を行うつもりだ。

 幸運にも人目はない。存分に力を試せる。


「今度はちょっと派手にいこうか」


 フィセラは一人、落ち着いた足取りで森に入っていく。

 

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