表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

case Ⅳ 拳聖の教え

 



 タクマ殿は弱かった。

 勇者パーティが結成され訓練が始まると、それは顕著に現れた。

 しかし…何度打ちのめされようとも、その心は折れる事なく立ち上がって来た。

 (それがし)達が束になっても倒せなくなるまで、そう時間は掛からなかった。

 勇者とは諦めない心の持ち主だと、某は思う。


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



 コンコンッ


「開いてまする」


 ガチャ


「失礼します。拳聖様。お時間をお借りしても宜しいでしょうか?」

「構いませぬ」


 某の借りている部屋に、やつれた王女殿下が訪ねて来られた。

 その姿を見て、この状況を憂いているのは某だけではないと、勇気付けられた気がした。


「茶など淹れたことがない故。白湯で申し訳ない」

「いえ。お気遣いなく。ありがとうございます」


 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




 不思議です。拳聖様は無口で無骨な方。その様なイメージを持っていましたが、今は不思議と安心感を持ちます。勇者パーティの最年長ということで、大人の余裕があるのでしょうか。


 私は言葉を交わす前から『この方は敵ではない。味方だ』と思いました。

 もちろんその気持ちとは別に、聞かなければならないことは、しっかりと聞きます。


「ふむ。某の行動ですかな。

 あの日、タクマ殿達と別れた後、某はこの部屋に戻りましたな。

 それから時間になり、タクマ殿の部屋へ向かう途中で、ロードナント殿と逢い、一緒に向かいましたな」

「ありがとうございます。拳聖様はこの部屋で何を?」


「瞑想ですな。魔王との激闘を思い出し、次は某一人でも倒せる様にと、瞑想しておりました」


 ……帰って来たばかりで?

 この方の為人は知りませんでしたが、聞けば聞くほど理解から遠く離れていく様な……

 ですが、悪い方でないのは間違いありませんね。

 恐らくですが、今も私を気遣い、普段より饒舌に話をされているように見受けられます。


「…拳聖様もご存知の通り、このままだとタクマ様は十日後に……うっ……すみ、ません」


 あの言葉を口に出そうとしますが、恐怖で出すことが叶いません。

 言うと私の中で事実になってしまいそうで…

 そんな言葉に詰まる私に、拳聖様は手拭いをそっと差し出してくれました。


「王女殿下。某はそうはならないと思いますぞ」

「…え?」

「仲間意識よりも強者としてタクマ殿の事を尊敬しています。そんな某でも、あの御仁がみすみす殺されるのを見届けるつもりはありませぬ。

 意味がわかりますかな?」


 え?それは…


「聖女様も…?」


 剣鬼様や魔女様ならもしかしたら、と思います。ですが、聖女様にそのイメージは…


「そうなるでしょう。某に国政や難しい事はわかりかねますが、タクマ殿の事よりもそちらの方を心配なされた方が宜しいかと、具申致します」


 っ!!

 拳聖様は…いえ、勇者パーティの皆様は、タクマ様を救出なさるおつもりです。それも、完全なる武力行使で。


「し、しかし、拳聖様も皆様も、あれ以来お会いしておりません」

「はっはっはっ。某達に会話は不要ですな。魔王との戦いでも、喋っている暇があるなら身体を動かさねばなりませんでしたので」

「………」


 なんの確証もない。でも、いざという時には皆が協力する。

 これが命と背中を預け合い、宿敵である魔王を討伐した勇者パーティの絆……


 ですが…


「会話が不要でしたのは、拳聖様だけでは?」


 この疑問には、口を出さずにはいられませんでした。









 その日、勇者様は自供を撤回されました。











「やはり固い絆で結ばれているのですね」


 久しぶりの逢瀬…いえ、ただの会話ですね。周りには騎士の方々もおられますし。


「あのままだと、この国が駄目になってしまうって、気付いたからな。特にディーテ辺りは、俺を助ける為、被害を考えずに魔法を使いそうだし……」

「何となく想像できます…」


 タクマ様が自供を撤回出来た理由は、まさにそれでした。


『俺が処刑されそうになると、仲間達が助けに来てしまう。そうなると、この国の被害は甚大。俺はこの国を……仲間を、王女を守りたいだけなんだ。

 だから発言を撤回させてもらう』


 これを聞いた騎士は慌てた事でしょう。

 すぐに私のいないところで会議は開かれ、保身しか考えない貴族達は勇者の処刑に反対しました。

 タクマ様を処刑しようとしたところで、それは叶わず、さらには国が滅んでしまう危険性も孕んでいれば、この結果にも納得です。


 もちろん結論を出す前に、騎士達が勇者パーティの面々に確認を行ったのは当然です。


「将来の近衛騎士団長最有力の剣鬼様が、いの一番にそう告げたと聞いた時は……驚きました」

「…アイツに難しい事はわからないからなぁ。自分がこの国を守る騎士だって自覚はないと思う…」


 不思議な方です…

 この国の騎士になる為には、身元が確かで、文武両道でなければなれないはずなのです。

 ですが…その…剣鬼様は、何と言うか…お世辞にも…賢くはないといいますか…

 兎に角、その類い稀なき剣の腕だけで、騎士になられたと伺いました。


 そんな剣鬼様と私が初めてお会いしたのは城内でした。すれ違う私に声を掛けて下さったのですが、その言葉が余りにも不敬で…上司の方に怒られていました。

 私は『気にしていません』とだけ、お伝えしたのですが…何をどう解釈なされたのか…その後も友人に話すかの様な言葉遣いで接してくださいました。

 今でこそ、タクマ様も同じ様に接してくださいますが、その時の私にはその様な方は周りにはいなかったので、大変驚きましたね。


「でも、私はホッとしています。まだ嫌疑は掛けられたままですが、タクマ様がこうして普通の居室へと移られて」

「ははっ。それもこれもナタリー姫のお陰だね。ありがとう」


 こうして、私は勇者様を牢獄(尖塔)から連れ出すことが出来ました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ